あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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知性と理性を持つものとして

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『どうせ二人だけで生きてるなら、他人に感謝する気持ちなんて必要ない』

と思うかもしれない。

けれど、いつまたキトゥハの世話になるかも分からないのだから、その時にイティラが不遜な態度を取ってたりしたら、ウルイはきっと胃を痛めるだろう。キトゥハはそんな程度のことは気にしないと分かっていても、過去の自分が彼に対してどんな態度を取っていたのかが思い出されて、いたたまれなくなるのだ。

『俺は本当に馬鹿者だった……』

なんてことも思ってしまう。だからこそ、イティラがそうじゃないことにホッとする。

キトゥハは怒鳴って殴って『自分を敬え!』などとしなかったから、ただただ人生の先達として普段の振る舞いで、

『知性と理性を持つものとしてどうあるべきか?』

という手本を示してくれたからウルイもその通りにして、結果、イティラは素直に『ありがとう』と言える者に育ってくれた。

それを思うと、怒鳴って殴って『大人を敬え!』と強要してくる連中がいかに幼稚であったか、何故自分がそういう大人達を敬えなかったかがよく分かる。

自分ももう<大人>と言われる歳だ。なら、<大人としての振る舞い>をやって見せていればイティラもそれを真似てくれる。

自分が今、キトゥハのそれを参考にしているのと同じで。

改めて実感する。

『手本も示さずにああしろこうしろ言われても、納得できるわけないよな……』

と。

しかもイティラの言葉に耳を傾け、彼女が自分の気持ちを素直に口にできるようにしていたら、こんなに明るくはきはきと話せるようになってくれた。たとえそれがイティラ自身の元々の性格が影響してるのだとしても、出逢った頃の、怯えて碌に口もきいてくれなかった様子を思えば、

『素直な気持ちを口にして大丈夫な相手だと思ってもらえている』

ことが分かり、それがまた嬉しかった。

いまだにキトゥハやイティラ相手でさえまともに話ができない自分に比べれば、天と地の差だ。

『たぶん、俺と違って間に合ったということなんだろうな……』

とも思う。

なんてことを考えていると、ウルイの前に猪が飛び出してきた。

瞬間、意識しなくても体が勝手に反応し、矢を放つ。

すると矢は、猪の首筋から体内深くへと侵入、心臓を貫いた。

強く集中していなくても、それができてしまう。たゆまぬ鍛錬の賜物だった。

どどお、と猪が地面に転がった直後、

「やったね、ウルイ!」

ザッと枝葉を揺らしながら現れたイティラが嬉しそうに言う。

自分が誘導した獲物を確実に仕留めてくれる彼が格好良くて顔が緩んでしまっている彼女を見て、ウルイも少し表情が柔らかくなったのだった。

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