あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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おとなしく自分の命を

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『西の獣人の集落が人間達の軍に攻め込まれた』

キトゥハの告げたそれは、イティラにも不穏なものとして認識できたものの、具体的なところはピンと来ていなかった。

その一方で、

『あの人達のいたところかな……?』

何気なくそんなことを思ってしまう。

『あの人達』。それはイティラの実の両親や兄姉達のこと。あまり意識しないようにはしてきたものの、今回のような話を聞くと思ってしまう。

『死んでくれたのかな……』

と。

ウルイは、他人が死んだり傷付いたりすることを喜ぶような姿は見せてこなかった。だから彼女も、そういうのを喜んだりするような感性は育たなかったようだ。

けれど、それでも、自分を痛めつけ苦しめてきた者達に対しては、少なからず負の感情が湧いてしまう。

今回のことで死んでくれていれば、もう二度と再会することもないのは確かである。だからそれを思わず望んでしまったのだ。

ただ、同時に、

『嫌だな……なんか、嫌だ……』

とも、イティラは感じた。嫌な奴に死んでほしいと思ってしまった自分が、上手く説明はできないものの嫌だと感じてしまったのである。



キトゥハは、本当にその件だけを伝えに来たらしく、そのまま早々に帰ってしまった。帰り際に、

「娘がな、孫を連れて帰ってきたんだ。獣人であることを隠して人間と結婚したんだが、その旦那が病でぽっくり逝ってしまってな……」

悲しげにそう言ったすぐ後に、

「また子育てをする羽目になってしまったよ」

などと愚痴っぽく言いながらも、その時の表情はどこか嬉しそうだった。娘が伴侶を喪ったことは悲しみながらも、キトゥハにとっては子供を育てられること自体は嬉しいようだ。

一方、イティラにとっては、『旦那が病でぽっくり逝ってしまって』という部分が気になった。自分は辛うじて助かったものの、やはり病で命を落とす者は普通にいるのだと思い知らされて、背筋が冷たくなった。

結果的に助かったとはいえ、ちゃんとウルイに『好きだ』という気持ちを伝えておいたことは正解だったと思えた。



そして夜。狩りを終えて二人で夕食にしている時に、ウルイが言った。

「人間は、食うためでもないのに誰かを殺す……憎いとか、恨めしいとか、邪魔だとか、そんな理由でだ……

そんなことをしているから、自分の大切な者もつまらない理由で誰かに殺されたりするというのに……

それでなくても、人間なんて簡単に死ぬというのに……どうしておとなしく自分の命を全うしないんだろうな……」

イティラに語り掛けるというよりは独り言のような、自分自身が納得できないことを確認するために敢えて言葉にしてみたというような話。

けれど、それを聞いたイティラは、ハッとなった。

両親や兄について、『死んでくれたのかな……』と思ってしまったことを何となく『嫌だ』と感じた理由が、彼女なりに分かってしまったからだった。

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