あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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謝意

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結果としてイティラとウルイに助けられた形になりながらこうして敵意を向けてくるというのは、人間の場合であれば、

『恩知らず!』

などと罵られたりすることもあったにせよ、彼らは生粋の狼。人間の道理など通じるはずもない。だからウルイは彼らに対して憤りもしないし侮蔑もしない。『本来は敵同士』という立場に戻っただけだと理解している。

そんな彼を見倣い、イティラも狼達に怒りを向けたりもしない。あくまで、

『そういうもの』

として認める。

それが、野生の獣と上手く折り合う<コツ>なのだろう。人間の感覚や都合は、人間の側の勝手な押し付けに過ぎないのだ。

『あるがままを認める』

こと。

それができるウルイだからこそ、人間でもなく獣でもない、さりとて獣人としても<半端者>に過ぎないイティラのことも受け止められるのだ。

ウルイに促されながらゆっくりと茂みへと下がっていくイティラも、改めてそれを学んだ。

相手は自分とは違う存在。自分の思い通りにならないからといって憤ってもそれは新たなトラブルを招くだけだ。

今も、敢えて狼達との衝突を避けて下がるからこそ、これ以上の決定的な対立にはならないのだろう。

人間の思う<誇りプライド>など、ここでは何の役にも立たない。

役に立たないどころか、自らの可能性を狭める<足枷>でしかないのだ。

それについてもイティラは学ぶ。

これにより、無駄な諍いを起こさずに済む。

あの<獣人の青年>は、自身が獣人であることにやけに拘っていたようだが、イティラと違い完全な獣の姿を取ることもできる獣人は、裸で一人、自然の中に放り出されたとしても生きていくことができてしまう。だから別に、人間にまぎれて人間の価値観の中で<覇>を競う必要は何もないのだ。

今回の孤狼のように孤高に生きることだってできてしまう。

もしくは、キトゥハのように生きることもできるのだから。

寄り集まって互いに支え合わなければ生きていけない人間よりもずっと自由であるはずなのだ。

本来、獣人は。

にも拘らず、人間の価値観におもねって、同じ土俵で張り合おうとする。

それが本当に、獣人として好ましい在り方なのだろうか?

ウルイやキトゥハは、それについても、教えてくれていた。

そして今回の孤狼も。

イティラの周りには、本当によい<手本>が溢れていた。しかも彼女自身、それらを素直に見倣い、身に付けていった。

だからこそ、ウルイからの信頼も勝ち得てきた。

彼に、

『イティラがいないと駄目だ』

と思わせるまでに至っていた。

「ありがとうな…イティラ……」

狼達から十分に距離を取り、家路を急ぎながら、今回、狼達に与すると決めた自分に付き従ってくれたことについて、ウルイが謝意を示す。

「ううん。私も、あの孤狼とは仲良くできそうにないなって思ったから。これでよかったんだよ」

必ずしも十分に<活躍>できたとは言い難いものの、

『孤狼を追い払うことができた』

という結果にはある種の達成感も得ていたイティラが、笑顔で応えたのだった。

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