あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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いきなり現れて崖の上からクヴォルオを叱責したのが、

<この場で一番偉い奴>

なのは、イティラにも察せられた。

と言うか、

『偉そうな奴……っ!』

と思わされたと言った方がいいかもしれない。

そんな<偉そうな奴>に対してクヴォルオは膝を折り深々と頭を下げ、

「申し訳ございません、殿下。私めが力不足なばかりに、鎧をまとったままでは兵を救うことができませんでした。心よりお詫び申し上げます」

丁寧に謝罪した。

その様子に、

『<殿下>……確か<王子>のことだよな……』

ウルイは冷静にそう考え、

『こいつ……っ!』

イティラはゾワッと全身の毛を逆立てた。やはり<王子>がいたのだと、彼女にも分かってしまったのだ。

体を支えるために掴んでいた木の幹に、思わず爪を立ててしまう。

ギリギリと牙が音を立てるくらいに歯を食いしばる。

咄嗟に飛び出して襲い掛かってしまいそうになる自分を、辛うじて抑え付けた。

崖下からイティラの様子を探っていたウルイも、彼女が飛びださなかったことに内心ではホッとしていた。

が、今は、迂闊なことはしない方がいいと、息を殺して身を屈める。ここで変に目立ってしまって目を付けられるとそれこそ厄介なことになる気がしたからだ。

だが……

「まあいい、お前とそこの粗忽者の処分は後で考えるとして、そいつは何だ? 何者だ?」

<王子>の言葉に、

『クソ…っ!』

ウルイは思わず腹の中で毒づいた。自分のことを言われていると察してしまったからだ。

するとクヴォルオが、

「この者が勇敢にも我らが兵の命を救ってくれたのです。この者の働きによって私は部下を失わずに済みました。ゆえに敬意をもって感謝の意を示していたところです」

丁寧に説明してくれる。

正直、<王子>だのなんだのといった、ウルイからすれば<雲の上の存在>と言える者に対してまともに対応できるような礼儀礼節がまったく身に付いていないのは、自分でも分かっている。だから口をきくことすら本当は避けたかった。このままクヴォルオが上手く凌いでくれればと、ウルイは心の底から思っていた。

が、<王子>は、

「そこの者、貴様は何だ? ここで何をしていた?」

と、さらに尊大な口ぶりで、ウルイに問い掛けてきた。

心臓がドコドコと耳元で大きな音を立てている気がする。できることならこの場から消え失せたいと心底思った。自分のような者がどうして<王子>なんかと口をきかなければいけないのかと、恨めしくさえある。

しかし、こうなってはどうしようもない。

だからウルイはその場に平伏して、少ない知識や記憶の中から使えそうなものを総動員して、

「はっ! 私めは、この地にて狩人をしております<ウルイ>と申します! いつものように狩りをしておりましたところこの場に出くわし、殿下の兵士をお救いせねばと微力ながら働かせていただきました……!」

自分でも何を言っているのかよく分からないままに、そう応えていたのだった。

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