絵里奈の独白

京衛武百十

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疲れ

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私達の方もシャワーと着替えが終わって、二人のところに戻る。

「お待たせ~」

と玲那と声を揃えたら山下さんは小さく頷いてくれたけど、沙奈子さなこちゃんは私達の方を見ようともしてくれなかった。

先は長そうだなあ……。

だけど焦っても仕方ない。玲那とだって打ち解けるまでにはそれなりに時間がかかったんだから、沙奈子ちゃんだってその筈だ。ちゃんと時間を掛けなくちゃ。

自分にそう言い聞かせて席に着く。それから四人でタコ焼きを食べて一息ついて、帰ることにした。

沙奈子ちゃんが疲れてる感じだったから、駅までの道のりを、来た時よりもかなりかけて歩く。山下さんと手を繋いだ彼女は、明らかに眠そうに見えた。あまりこういう風にして遊ぶこと自体に慣れてないのかも。そこに私達がいたから気疲れしてしまったのかな。

駅のホームでベンチに座ると、小さな体が揺れ出した。相当眠そうだった。電車が来て、幸いにも四人とも座れたから並ぶと、沙奈子ちゃんは、力尽きたみたいに山下さんにもたれかかって眠ってしまった。

その沙奈子ちゃんを優しい目で見守る彼に、私達は声を掛けていた。

「私達、すっかり嫌われちゃったみたいですね」

「最後まで警戒されてました」

素直な印象を話させてもらった。彼は、そういうことが言えてしまう人だった。彼の前では嘘を吐く必要がなかった。

本当に不思議。

「ごめんな…。でも、今日はありがとう」

彼が穏やかに笑いながらそう言ってくれた時には、二人して「いえいえ、こちらこそごめんなさい」って手と首を振ってしまってた。

たぶん、沙奈子ちゃんにとっては私達のしたことはただの有難迷惑だったんだと思う。だから『ごめんなさい』って言えてしまった。

もし次の機会を与えてもらえるなら、その時はもう少し上手くやってあげたいと思った。だって、沙奈子ちゃんはとてもいい子だもん。確かに愛想とかはよくないかもしれない。でもだからってケンカ腰で食って掛かるとかそんなことしないし、彼女自身が山下さんに迷惑を掛けないようにって気を遣ってるのもすごく感じたから。

良い子すぎるくらいに。

その後は、私達も何だか疲れが出てきてうとうとしてしまって話とかできなかったのが残念だけど、でも、何だかとても気持ちが良かった。心地好い疲労感って言うか。

乗り換え駅に着いても沙奈子ちゃんが起きられそうになかったから、私達が荷物を持って、山下さんには彼女を抱き上げてもらって電車を降りた。そこでようやく沙奈子ちゃんも目を覚まして、私が持ってた彼のリュックを手渡した。

「今日は本当にありがとう。沙奈子にとってもいい経験になったと思う」

リュックを背負いながらそう言ってくれた山下さんに、私達はまた、「いえいえいえいえ!」と恐縮してしまったのだった。

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