絵里奈の独白

京衛武百十

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お風呂

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すると玲那もピンと来たのか、私の発言に乗っかってきた。

「そうそう、私もそう思います。だから今、一緒にお風呂に入りたがっても全然おかしくないんですよ。それだけ沙奈子ちゃんが山下さんのことを本当のお父さんみたいに思ってるってことでいいってことですよ」

私と玲那がそう答えると、山下さんの表情がフッと和らいで、ホッとしたような感じになった。何かが腑に落ちたって感じだと思った。そんな様子に私達もホッとなる。

だから思わず、続けてしまった。

「でも山下さん、今は一緒にお風呂に入ってくれてても、きっと、沙奈子ちゃんが男の子を好きになったりしたら一緒には入ってくれなくなると思いますよ」

って玲那。

「そうですよ山下さん。沙奈子ちゃんはまだ幼いだけなんです。異性を意識してないんだと思います。だから山下さんのことも男の人として見てない。異性を意識し始めると、一緒にお風呂なんか入ってくれなくなりますよ~」

って私。

「それどころか、急に素っ気ない態度を取るようになったりして、顔も合わせないようにしたりするかもしれませんね」

「うんうん。話しかけても返事もしてくれなくなるとか。私も中学高校の頃はお父さんと話したのなんか数えるほどしかないです」

「門限作っても破ったりとか。私もやりました~、門限破り。お父さんすごい剣幕で怒ってましたけど、余裕でスル~」

「そうですよ~。年頃の女の子は、お父さんにとってはまさに謎の生命体でしょう。でも沙奈子ちゃんがそうなっても、うろたえないであげてくださいね。それってきっと、大人への扉っていうものなんだと思います」

「だよね~。それを大人の余裕で受け止めてあげられたら、またお父さんのこと好きになってくれますよ。私はちょっと父のことは苦手ですけど~」

「私もそう。その頃のお父さん、うろたえたと思ったら急にキレたりして、『男の人ってコワい』って思っちゃったりしました~。だからホント、山下さんは沙奈子ちゃんのこと、しっかり受け止めてあげてくださいね」

とか何とか…。

「う、うん。頑張ります…」

私達の勢いに圧されたみたいに、彼は若干引いた感じだった。だけど困ってるとか嫌がってるとかそういうのじゃないっていうのは感じた。最近、何となくだけど彼の表情とかから感じ取れるものが増えてきた気がする。

私達がちょっとくらいやらかしちゃっても、山下さんは受け止めてくれそうだって。

それでふと思い出す。私の父は、そうじゃなかった。自分の思い通りにならないと途端に不機嫌になって、激しく怒鳴ったりってことはそんなになかったけど、家族の誰とも口を利かなくなるのはしょっちゅうだった。だからさっき口にしたことは、面白い感じになるように、若干の脚色もしてた。

私にとっては父こそが<男性の代表>だった。だから男性が苦手になったんだと思う。

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