絵里奈の独白

京衛武百十

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身の上話

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「山下さん。今の山下さんのやり方は、間違ってないと私は思います!」

下着泥棒の事件の衝撃がようやく冷めてきて、でも沙奈子ちゃんが学校でイジメられてるかもしれないっていうモヤモヤは晴れない中、山下さんが突然、

『沙奈子がもし僕の元を離れて自立しても辛いことに負けないでいられるようにしてあげるには、今の僕のやり方で大丈夫なのかな……』

って言い出したから、私は思わず身を乗り出してそう言ってしまった。

「一緒に海に行った時に、山下さんと沙奈子ちゃんの様子を見て私は確信したんです。これはとっても素敵な親子の姿だって!。

沙奈子ちゃん以外の子だったらまた違うやり方があるのかも知れないですけど、少なくとも沙奈子ちゃんに対しては今の山下さんが合ってると思います!」

そこまで言って、呆気にとられてる山下さんと玲那れいなに気付いて、私は姿勢を正した。でもこの時、自分の中で思い起こされたことがあって、そのまま話を続けさせてもらった。

「…実は、私の今の母は、本当のお母さんじゃないんです。私が小学六年生の時に両親が離婚して、父の再婚相手なんです。

今の母とは、すごく仲が良いわけじゃないですけど、それでもには上手くいってて、その点では私も感謝してます。

でも、私の実のお母さんは、一言で言ったらすごく感情的で自分に甘い人でした。ちょっとでも気に入らないことがあればすぐに癇癪を起こして大声で怒鳴って、それで自分の意見を押し通そうとする人でした。

私は、そんなお母さんが嫌いでした……」

そう話す私を、山下さんはただ黙って見てた。見守ってくれてたと言った方がいいかな。とにかくそんな感じだったからか、私も自然と話を続けられた。

「小学生の頃の私は、学校では他人の言うことを素直に聞かない、すぐに悪い言葉で他人を馬鹿にして食って掛かる、先生とかから見れば、聞き分けのない生意気で扱いにくい子供でした。自分ではそんなつもりはなかったんですけど、今にして思ったらお母さんそっくりだったんですね。

そんな感じだから、先生の間では問題児っていう認識だったと思います。

その頃は父もあんまり家庭を顧みなくて、仕事を理由に家に帰ってこないこともしょっちゅうでした。それで、その時に私のお父さんの代わりをしてくれてたのが、近所に住んでた叔父さんでした。

叔父さんは保育士をしてて、子供の扱いに慣れてるっていうこともあって、私も叔父さんにだけは懐いてたんです。だから、山下さんのことがその叔父さんにちょっと被っちゃうんですよね」

そこまで話したところで、私はやっと、少しだけ笑顔を作ることができたのだった。

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