絵里奈の独白

京衛武百十

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深くて強い繋がり

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どうでもいい人から見たら変な家族連れに見えただけかもしれない。でも私達にとってはとても重要な意味を持つ出来事だった。

あんなに他人を警戒して怯えてた沙奈子ちゃんが、私達に笑顔を向けてくれた。

実のお父さんをはじめとした何人もの大人に酷い目に遭わされてきた彼女がそうやって笑えるということがどれほどのことか、香保理かほり玲那れいなを間近で見てきた私には分かる気がした。

沙奈子ちゃん、沙奈子ちゃん、沙奈子ちゃん……。

胸が締め付けられてたまらなくて、私はまた涙が止められなかった。

だけど、さすがにいつまでもこんな風にしてたら邪魔になるからか、山下さんが声を掛けてきたのだった。

「お昼、食べに行こうか」

でも、そう言った彼の目に光るものがあったのが分かった。

私達は「うん!」と応えてた。

そう、私と玲那だけじゃなく、沙奈子ちゃんまでが声を揃えてたの。

その瞬間、私と玲那と沙奈子ちゃんがひとまとまりになって、微妙に山下さんの方がオマケみたいになってしまった気がした。

何だかごめんなさい…!。

上手く説明できない申し訳なさがあって、私は思わず心の中で謝ってた。そうして四人で歩いて、昼食は近くの洋食屋に入った。

私と玲那と沙奈子ちゃんは仲良くオムライスを頼んで、山下さんはカレーを頼んでた。

料理が出てくるまでの間にも、私は洋裁のことを沙奈子ちゃんに話し掛けていた。そんな私の話を、彼女は興味深そうに聞いてくれてた。しかも聞くだけじゃなくて、頷いたり相槌を打ったりもしてくれて、もうずっと以前から親しくしてたみたいに自然な感じで話ができた。

ただこの時、山下さんはちょっと複雑な気持ちだったみたい。それが何故分かったかって言ったら、後から玲那に聞いたの。私と沙奈子ちゃんが洋裁専門店の中ですごく仲良くなってたのを見て、山下さんに、

『なんだかすっかり姉妹みたいに仲良くなっちゃって、ヤキモチ妬いちゃいそうです』

みたいなことを言ったって。だからたぶん、山下さんもその時の玲那と同じ気持ちだったんじゃないかって。

だけど、それは決して嫌な気分じゃなかったんだって。沙奈子ちゃんを中心に私達が急速に近付いていくことを感じさせてくれて、まるで私達が<家族>みたいになっていく感じで。

そう。そうなの。たぶん、この時から始まったんだと思う。私達が本当の家族になっていく物語が。

ときめきや恋のその先にある、一緒に人生を歩いていく深くて強い繋がりへと―――――。

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