絵里奈の独白

京衛武百十

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一緒に料理

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「ところで、明後日のことですけど」

木曜日のお昼。社員食堂で山下さんに向かって玲那がそう言いだした。

「もしよかったら山下さんのところのキッチンを使わせてもらっていいですか?」

それは、彼女と話して決めていたことだった。その補足の為に、私も口を開く。

「お昼に一緒にどこかに食べに行こうかとも思ったんですけど、沙奈子ちゃんはあんまり外出が好きじゃないんですよね。だから私に何か作らせてもらえたらと思ったんです」

そうだった。山下さんと沙奈子ちゃんの為に私の手作りの料理を食べてほしいってことで。

だけど彼は少し戸惑ったような様子を見せた。

『あれ…?、マズかったかな…』

と不安になってしまった私達に向かって彼は言った。

「でもうちのキッチン、コンロが一つしかないから大したものは作れないと思うよ。それに沙奈子と二人で一緒に作るだけでもかなり狭く感じるし」

ああ、そういうことか…!。

彼の戸惑いの理由に気付いてホッとした私と違って、玲那はキラキラした目で食いついた。

「いつも沙奈子ちゃんと一緒に作ってるんですか?」

彼女の驚きは私にも分かった。さすがに私も山下さんと沙奈子ちゃんが一緒に料理とかしてると思ってなかったから。てっきり、コンビニ弁当とかスーパーの惣菜とかで済ましてると思ってたから。もし料理してるとしても、慣れないそれに悪戦苦闘しながら簡単なもので済ましてる感じかなって。

その瞬間、私も自分の中で何かスイッチが入るのを感じた。身を乗り出して、

「じゃあ、私が沙奈子ちゃんと一緒に作ります!。コンロが一つしかないんなら、それに合わせた料理を考えますから!」

って言ってしまった。

沙奈子ちゃんが料理をできるのなら、それこそ一緒にやりたいと思った。料理の仕方を沙奈子ちゃんにも教えてあげたいって。

二人して身を乗り出してる私達に気圧されたみたいに苦笑しながらも、彼は、

「じゃあ、お任せします」

って言ってくれた。

それに私は胸の奥からあったかいものが湧きあがってくるのを感じてた。いよいよ彼と沙奈子ちゃんと本格的に距離を詰められるなって。

慎重過ぎるくらいに慎重にとか思ってたのに今日はこれかって自分でもちょっとどうかなと呆れてしまったけど、彼の様子を見る限りだと大丈夫かな。

うん、こうやってちゃんと山下さんの反応を見ながらだったらきっと大丈夫。

でもその時、彼は『あ、そうそう』って感じで口を開いたのだった。

「明日、僕は沙奈子の参観日で有給取ってるから」

あ、あれ?。明日は会えないってことですか…?。

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