絵里奈の独白

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
143 / 255

家族だから

しおりを挟む
『運動会でこんなに泣けるなんて、初めて知りました』

玲那の言う通りだと思った。自分が小学生の頃には運動会なんて嫌で面倒で無くなった方がいいイベントだと思ってたのに、今は沙奈子ちゃんのことを見守れて、満たされた気持ちになってた。

だから余計に、私の時はどうしてそうじゃなかったんだろうって悲しい気分にもなったけど…。

それでも、今はこうしていられてる。沙奈子ちゃんと手を繋いで、二人で玲那と山下さんを見詰めてる。私達四人は家族なんだって感じてる。

その時、不意に、沙奈子ちゃんが辺りを見回した。どうしたのかな?って思ってると、彼女は山下さんに問い掛けた。

「お父さん。私たち、家族なんだよね…?。家族でいいんだよね…?」

ああ…、そうか、沙奈子ちゃんも家族だって感じてくれてるんだ。それを確かめたくて問い掛けてるんだ。

山下さんが応える。

「そうだよ。僕も伊藤さんも山田さんも沙奈子の家族だ。僕達は家族だよ」

私と玲那も応えてた。

「うん。私たちは家族だよ」

「そうそう、沙奈子ちゃんの家族だから」

すると、沙奈子ちゃんが安心したような表情かおになった。そして腕を大きく広げて、私と玲那と山下さんを同時に抱き締めようとした。だから私も玲那も、彼にぴったりと密着して、沙奈子ちゃんに抱き締められた。

沙奈子ちゃん…、ありがとう……。私と玲那のこともちゃんと家族だって思ってくれてるんだね。

嬉しい…、本当に嬉しい…。私なんかでもそう思ってもらえるっていうのが嬉しくて嬉しくて……。



そんな風に満たされた気持ちになってる間にも競技は進んでた。さすがにいつまでも抱き合ってる訳にもいかないし、沙奈子ちゃんには席に戻ってもらって、観戦することになった。

沙奈子ちゃんの出番は、あと、百メートル走のみ。

低学年による玉入れが終わって、五年生による百メートル走が終わって、一年生による風船のパフォーマンスが終わって、沙奈子ちゃん達四年生による百メートル走が始まった。

私達はまたゴールのところで待ち構える。ハードル走の時とは違って身長順だったみたいで、沙奈子ちゃんの順番は割と早かった。だけど今度は六人中六位。結果は残念だったけど、得意な種目じゃないから仕方ないよね。

百メートル走が終わって、いよいよ最後の競技になった。白組紅組双方から二組ずつでそれぞれの学年から選ばれた選手によるリレーだった。

最後の最後に本気で走るのが得意な子達による真剣勝負ってことだったみたい。だから他の百メートル走には敢えて出場してなかったって。

低学年の子達の走り方はさすがに可愛い感じだったけど、高学年の子達のそれは、アスリートのそれだと思った。他の子とは次元が違うと言うか、小学生でももうそういう形で才能を発揮してる子はいるんだなと思わされてしまってた。

しおりを挟む

処理中です...