絵里奈の独白

京衛武百十

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手伝ってもらって

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土曜日の朝。やっぱり私は一番に目が覚めて、朝食の用意を始めた。今日はまた塩サバを焼いた。そのいい匂いが広がると、「んん~っ」って声が私の耳に届いてきた。彼だ。彼が目を覚まして伸びをしたんだ。

振り向くと、やっぱり彼と目が合った。すると彼は、声には出さずに「おはよう」って口を動かした。だから私も、声を出さずに「おはよう」って返した。

それが何だかくすぐったくて照れ臭かった。でも、嬉しい。

彼が起きてきて朝食の手伝いをしてくれる。

「ごめんなさい、手伝ってもらって」

小声でそう言った私に、彼は静かに首を横に振った。それから顔を近付けて、「僕が手伝いたいからだよ」と囁くように言ってくれた。

彼の息が耳元に掛かった気がして、顔が、ほわっと熱くなる。

自分がこうしてるのがまるで夢のようだった。だけど、夢じゃない、現実なんだっていう実感もちゃんとあった。

幸せ……。

そんな言葉が素直に実感できる。これが<幸せ>なんだってすごく分かる。私は今、幸せなんだ……。

彼は私と玲那を大切にしてくれる。沙奈子ちゃんと同じように。そして私も、彼と沙奈子ちゃんを大切にしたいと思える。

そうだ。誰かに大切にしてもらえるだけじゃ、たぶん、幸せって実感できないんじゃないかな。もちろんぜんぜん実感できないってことはないと思うけど、それだけじゃ片手落ちなのかもしれない。自分がその誰かを大切にしたいって思えて初めて確かな幸せになるんじゃないかと、思ってしまった。

それがいつでも当てはまるのかは私には分からないけど、少なくとも今は間違いなく幸せだ。



朝食の用意が済む頃、沙奈子ちゃんが起きてきた。

「おはよう」

そう言ってくれた彼女に、私と彼も「おはよう」と返してた。すると沙奈子ちゃんが、すごく嬉しそうに笑顔になってくれた。嬉しくて嬉しくてたまらないっていうその姿が、私にとってもたまらなかった。これもやっぱり幸せだ。沙奈子ちゃんは私達を大切に想ってくれてる。そして私も彼女を大切にしたいと想ってる。

そのすぐ後で玲那も起きてきた。

「おはよ~」

髪の毛が絡まって顔に掛かった酷い有様だったけど、そんな玲那を見ててもまた幸せを感じてた。

みんなで朝食を終えて、これまで通りにみんなで掃除と洗濯をした。それ自体が楽しかった。私は元々、家事をするのが嫌いじゃなかったけど、こうしてると余計に楽しく思える。

それはたぶん、自分が一方的に奉仕してる訳じゃないからっていうのもあるのかな。みんなですることで、私もそうしてもらってるっていう実感があるからかもしれない。

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