メルシュ博士のマッドな情熱

京衛武百十

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エレクシア・フォーマリティ

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イニティウムタウンに住むようになったケインは、エレクシア・フォーマリティというメイトギア人間によって養育されていた。

彼女に出会った時のケインの様子は、まるで狐にでもつままれたかのように唖然としたものだった。

無理もない。それは、彼がタリアP55SIらに保護される以前に行動を共にしていたエレクシアYM10というメイトギアの記憶を持ったメイトギア人間だったからだ。

エレクシア・フォーマリティは、エレクシアYR13Aがリンクしているメイトギア人間である。そしてエレクシアYR13Aは、エレクシアYM10の記憶の一部を受け継いでいた。と言うのも、機能停止したエレクシアYM10に装着されていたメモリーカードに、彼女の記憶の一部が残されていて、それをケインが持っていたからだ。それを、ディーラーに残されていたエレクシアYR13Aにコピーして、一部とはいえ彼が一緒に暮らしたエレクシアYM10の姿が再現されていたことで戸惑ってしまったのだった。

「まあ、そういうことだ」

メイトギアにあるまじきぶっきらぼうなその態度も、間違いなくエレクシアYM10のそれだった。しかし、何かが違う。最初はエレクシアYM10が蘇ったのかと喜んだケインだったが、一緒に暮らしてみるとやはりエレクシア・フォーマリティは彼女とは違っていた。

当然か。いくら記憶の一部を引き継いでいると言っても、それだけでは彼が一緒に暮らしていた彼女の全てが再現されている訳ではない。何しろエレクシアYM10は、犯罪組織に違法に改造された、暗殺用の殺人ロボットだったのだから。このリヴィアターネに投棄された時には初期化され暗殺ロボットだった時の記憶は失われていたものの、違法改造されているという事実はなくならず、それが彼女に独特の<陰>を作り出す原因にもなっていた。その陰が、正常な機体であるエレクシアYR13Aにはない。

「ありがとう……でも、無理にあいつの真似はしなくていいんだ。あいつはもういないんだから……」

エレクシアYM10の口調で話すエレクシア・フォーマリティとエレクシアYR13Aに対して、ケインは寂しげに笑った。

だが、エレクシア・フォーマリティは言う。

「私は確かにエレクシアYM10じゃない。しかし、エレクシアYM10の記憶を持つ私は、もう今の私だ。別に無理をしてる訳じゃない。お前が気にする必要はない。これが私なのだ」

その言葉に、ケインは自分の中で何かがストンと収まるのを感じた。そうだ。いくら似ていても、目の前にいるそれは自分が知る彼女ではない。ちゃんと別人として接すればいいだけなのだと察したのだった。

 
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