メルシュ博士のマッドな情熱

京衛武百十

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ケインの黄昏

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スクールにおけるケインは、サーシャのような象徴的な存在ではなかったが、かと言って酷く疎まれている訳でもなかった。粗野な雰囲気に対しては若干の壁を感じ、親し気に近付いてきてくれる訳ではないというだけだ。それでも、親しくしてくれる者もいた。サーシャと同学年のシェーラ・プラネタリもその一人だった。

「ケイン、どうしたの…?」

授業の後、初等部の教室に一人残ってたそがれていたケインの姿を見付け、シェーラが声を掛けてくる。それに気付いたケインが、少し険しい顔をして彼女を見た。その視線に、シェーラの表情が僅かに曇る。

「悩み事? 私で力になれることかな…?」

躊躇いがちではあったが、シェーラは勇気を振り絞ってそう訊いた。サラッとした赤い髪をショートボブにした彼女は、普段は控えめであまり目立つタイプではなかったが、他人を思いやる気持ちは人一倍強く、それ故に、ともすれば孤立しがちなケインのことを放っておけなかったのだ。

そんなシェーラを数瞬見詰めた後、ケインは窓の方に向き直って呟くように言った。

「なあ……お前、幸せか…?」

ぶっきらぼうなその問い掛けに、彼女は一瞬、どう応えるべきか戸惑った。質問の意味を図りかねたのだ。『幸せだよ。どうしてそんなことを訊くの?』と応えようとしてそれを飲み込んだ。

「何が、あったの…?」

いくつか答えを頭によぎらせて、しかし結果として言葉にできたのはその問い掛けだった。質問に質問で返すのは良くないことだとは思いつつも、それ以外に言葉が出てこなかった。

ケインは、その言葉には振り向かなかった。振り向かず、窓の外に広がるイニティウムタウンの景色を見詰めながら独り言のように語り始めた。

「きれいな町だよな……出来てから数年しかたってないっていうから当然かもしれないけどよ……

でも、俺にはなんか薄気味悪く思える時があるんだ……何て言うか、いかにも作り物って感じで……」

彼の言葉を、シェーラは理解した。理解してしまった。その瞬間、シェーラの両目から、涙がポロポロと溢れていた。

その気配を察したのだろうか、窓の方に視線を向けていたケインが改めてシェーラの方を振り向き、ギョッとした顔になった。彼女の涙に気付いてしまったのだ。

「な、何だよ? どうした? どうしてお前が泣いてんだよ!?」

焦るケインの様子に、シェーラも慌てる。

「ご、ごめん。何でもないの、何でも……!」

そう言って涙を拭ったが、彼女の涙はとどまることなく流れ続けたのだった。
 
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