92 / 99
実験の失敗
しおりを挟む
ケインのメルシュ博士への感情は、実は今後の火種となる可能性を含んだものであった。しかしそれを、シェーラは自身も気付かないうちに抑えたのである。
ケインは思った。ようやく涙を止めることができて恥ずかしそうに俯くシェーラを見ながら。
『博士が何を考えてるかなんて俺には関係ない。俺は、こいつを泣かせたくないだけだ』
人間達の反逆を楽しみにしていたメルシュ博士にとっては残念な結果ではあるが、こうして最初の危機は、誰にも知られることなく回避されたのだった。
そんな様子を、スクールで教師役をしていたメイトギアが静かに見詰めていた。距離は離れていたが、音声もしっかり記録されていた。監視と言えば語弊があるかもしれないが、スクールに通う子供達の動向や成長ぶりを記録するのも彼女達の役目だった。それらはすべてメルシュ博士の下に集められ、実験のデータとして集積された。
メルシュ博士の研究は、本当に多岐にわたるものであった。機械的な技術や医学的な技術だけでなく、ロボットや人間の行動理念や心理といったものも研究の対象だった。だから先般のメイトギアによる反乱も、博士にとっては実験の一部でしかなかったのである。<人間にただ服従するだけのロボット>という頸木から解き放たれたロボットがどういう行動に出るかということに博士は興味を持ってしまったのだ。そして今度は、人間による反乱を期待していたのだ。
なのに、それは芽吹く前に一人の少女によって摘まれてしまった。
「博士。ケインの反社会性の指数が一気に低下しました。これでは反社会的な行動を起こす確率が極めて低くなってしまいます。いかがしますか?」
フィリス・フォーマリティの執務室の隣にある控室で、アリスマリアHが、リリアミリア(リリアJS605m)からそのような報告を受けていた。以前、雑務を行わせる為にアリスマリアの閃き号から下ろした彼女に、フィリス・フォーマリティの秘書の一人としてイニティウムタウンの住人達の管理を任せていたのである。そしてそれは、メルシュ博士による実験の管理でもあった。
しかし、実験の失敗を報告するかのような彼女の言葉に、メルシュ博士は意外な程に落ち着いていて、残念がる素振りさえ見せなかった。
博士は言う。
「そうか。それは残念だが、まあ別に構わんさ。失敗するなら失敗するという結果が出ることが重要なのだ。何もかもが上手くいくのであれば、実験などする必要がない。失敗することも含めて貴重なデータなのだ。
人間による反乱は遠のいてしまったかもしれないが、なに、私は別に急いではいないよ」
そう応えたメルシュ博士の口元には、その真意を計りかねる笑みが浮かんでいたのだった。
ケインは思った。ようやく涙を止めることができて恥ずかしそうに俯くシェーラを見ながら。
『博士が何を考えてるかなんて俺には関係ない。俺は、こいつを泣かせたくないだけだ』
人間達の反逆を楽しみにしていたメルシュ博士にとっては残念な結果ではあるが、こうして最初の危機は、誰にも知られることなく回避されたのだった。
そんな様子を、スクールで教師役をしていたメイトギアが静かに見詰めていた。距離は離れていたが、音声もしっかり記録されていた。監視と言えば語弊があるかもしれないが、スクールに通う子供達の動向や成長ぶりを記録するのも彼女達の役目だった。それらはすべてメルシュ博士の下に集められ、実験のデータとして集積された。
メルシュ博士の研究は、本当に多岐にわたるものであった。機械的な技術や医学的な技術だけでなく、ロボットや人間の行動理念や心理といったものも研究の対象だった。だから先般のメイトギアによる反乱も、博士にとっては実験の一部でしかなかったのである。<人間にただ服従するだけのロボット>という頸木から解き放たれたロボットがどういう行動に出るかということに博士は興味を持ってしまったのだ。そして今度は、人間による反乱を期待していたのだ。
なのに、それは芽吹く前に一人の少女によって摘まれてしまった。
「博士。ケインの反社会性の指数が一気に低下しました。これでは反社会的な行動を起こす確率が極めて低くなってしまいます。いかがしますか?」
フィリス・フォーマリティの執務室の隣にある控室で、アリスマリアHが、リリアミリア(リリアJS605m)からそのような報告を受けていた。以前、雑務を行わせる為にアリスマリアの閃き号から下ろした彼女に、フィリス・フォーマリティの秘書の一人としてイニティウムタウンの住人達の管理を任せていたのである。そしてそれは、メルシュ博士による実験の管理でもあった。
しかし、実験の失敗を報告するかのような彼女の言葉に、メルシュ博士は意外な程に落ち着いていて、残念がる素振りさえ見せなかった。
博士は言う。
「そうか。それは残念だが、まあ別に構わんさ。失敗するなら失敗するという結果が出ることが重要なのだ。何もかもが上手くいくのであれば、実験などする必要がない。失敗することも含めて貴重なデータなのだ。
人間による反乱は遠のいてしまったかもしれないが、なに、私は別に急いではいないよ」
そう応えたメルシュ博士の口元には、その真意を計りかねる笑みが浮かんでいたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる