JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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月城こよみの章

Kimami

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ハイヤーを使ってるおかげで菱川和ひしかわとかいう週刊誌の記者を始めとしたマスコミを振り切れてるのは助かる。と言っても、もう既に尾行がついてるようだがな。しかしあのホテルに泊まってる限りはまあ大丈夫だろう。

と思ったら、例の騒ぎで道路が渋滞している為、バイクの後ろに記者を乗せて取材を試みる連中がいた。ハイヤーの窓を叩き、

「月城さん、すいません、ちょっといいですか」

ときた。まったく、こいつらときたら、女子中学生にそういう強引な取材をするとか、どういう神経をしてるのやら。呆れながら無視していると、ボディバッグから雑誌を取り出し、開いたページを窓ガラスに押し付けてきたのであった。

「月城さん、この記事は本当なんですか!?」

記事だと…? その言葉に思わず目を向けると、そこには、『綺真神きまみ教の闇!相次ぐ失踪事件の真相に迫る!!』と見出しが付けられたページが目に入った。しかもそこには、申し訳程度の目線が入れられ、知っている者が見たら私以外の何者でもない写真まで掲載されていたのだ。

何事かと思ってつい記事を全部読んでしまった。人間ならこの状態で見せられてもまともに読めないだろうが、一瞬見るだけでも読めてしまう自分が恨めしい。

要するに、今回、アパートで住人全員が失踪した事件と私の両親が失踪した事件には綺真神教という新興宗教が関係してて、唯一失踪を免れた私がその綺真神教とやらと繋がっているという内容であった。

『…なんだこれは?』

よくこんな出まかせを書けるものだと呆れ果てるしかないが、事情を知らぬ人間が記事だけを読めばなるほどそう見えてくるというこじつけがなされていたのだった。と言うのも、アパート住人のうち唯一の三人世帯だった若い夫婦が綺真神教の信者で、それが何らかのトラブルで教団に拉致され、他の住人はその巻き添えを食ったということらしい。そして、綺真神教の信者となった私を脱退させようとした両親が、同じように拉致されたんだと。それが判明した理由が、私が注文した牛一頭分の肉の塊だと言う。なんでも、最近、綺真神教が牛や豚の生肉を大量に仕入れており、一般家庭のそれも普通の女子中学生が牛一頭分の生肉を注文することなど有り得ないことから両者の繋がりは明白であるとかなんとか。

「……」

私は頭を抱えた。『子供か!?』と思った。

『たったそれだけのことでそこまで妄想を膨らませられるとか、どんなポエマーだ!?』

いや、確かに普通の女子中学生が牛一頭分の肉の塊など注文するとは私も思わんさ。だが私はその綺真神教とやらの名前を見たのも今が初めてだ。その一方で私達のような存在を神として崇め奉る連中が現れては消えていくからそういうのもまんざら知らない訳じゃない。しかし少なくとも私は綺真神教などというものは知らん。当然、そんなものの集会などに顔を出したことすらない。

だが、間が悪いというか何と言うか、私が警察の追及をごまかそうとアリバイ工作したネットカフェの客=私の同級生の女子がどうやらそのネットカフェのPCで綺真神教とやり取りしてたらしいのだ。以前からそのネットカフェで信者が綺真神教とやり取りをしているということを掴んでいた週刊誌が、ネットカフェのPCにキーロガーを仕掛けて引っかかったのがその女子生徒が使ったPCであり、その利用履歴から私が浮かび上がったという訳だ。無論、ネットカフェのPCにキーロガーを仕掛けたりアルバイト店員を買収して顧客情報を流させたりなどとはっきりとは書いてないが、まあそうでもしないとそんなことを調べるのは無理だよなという感じだった。

『……だが、その顧客情報が私になってる以上は、私はクロなのか…

なぜこうなる…?』

さすがの私もこれは盲点だった。まさかたまたま見つけた同級生がそんなことをしているとは、考えもしなかった。月城こよみの肉体で思考できる範囲では。

『くそ、何たる不覚…!』

見ればその雑誌は、<週刊現実>という週刊誌だった。そう、あの菱川和とかいう記者の雑誌だ。ホントにもう、熱が出てきた気がする……

私は思わず顔を伏せてさらに頭を抱えた。その私の様子を見て、窓の外に張り付いていた記者が言う。

「やはり事実なんですね!? ご両親はどこにいらっしゃるんですか!?」

とか何とか。

それから私はそいつらを一切無視し、ハイヤーの運転手もこういう事態には慣れているのか一切動じることなく淡々と運転を続け、ホテルの駐車場へと私を送り届けてくれた。

ゲンナリとした私は一人エレベーターに乗り、部屋へと向かった。幸い、祖母はまだその週刊誌を見ていなかったようでいつも通りだったが、もし祖母があんなものを見たらと思うと、人間が自殺する気持ちが分かる気さえした。もっとも私の場合はそんなことでは死ねないから、何もかもご破算にすることになるだろうが。

しかしまだそこまではしたくない。それでは以前と同じになってしまう。ここは自重せねば。

だが、少し納得がいかん部分もある。私がネットカフェの顧客情報を書き換えたのは昨日の夕方だ。それまでは私の同級生の名前になっていた筈だ、今日発売される記事の締め切りがいつかは知らんが、少なくともそれ以降にその情報を手に入れて記事にしたということだな? その点でもあまりにも間が悪い。そんなぎりぎりで出さねばならんほどの記事か?

…中学生の娘が両親に信仰を反対され、両親の誘拐を手引きした。しかもその娘が所属する宗教団体は、アパートの住人全員が失踪するという謎の事件にも関与している可能性が高い……

うむ。実にセンセーショナルだな。スクープとして捻じ込むには十分なインパクトがあるのか。

『って、感心してる場合か!?』

これでは私が面倒を回避しようとしてやったことが完全に裏目ではないか。何ということだ。正直言って月城こよみの肉体としてはもうフラフラだった。このまま床に倒れて何もか分からなくなってしまえたらどんなに楽だろうと思った。

祖母に話しかけられないようにする為に、私は部屋に戻るなり宿題を始め、そのまま勉強をしてるふりをしていた。その実、石脇佑香《いしわきゆうか》に教えた要領でテレビを視聴する。ニュース番組を見る為だ。が、さすがにまだ夕方のニュースには早かった。そこで今度はWi-Fiを捉まえてネットを見る。

一部の下世話な掲示板やまとめサイトでは週刊現実の記事に触れ始めているところもあったが、今のところはまだ大して盛り上がってはいないか。しかもその論調は、掲載された私の写真が可愛いとかブスだとか好みだとか好みじゃないとかいう話がメインだった。まったく、こいつらときたら……

だがいずれ、何かのきっかけで大きく燃え上がる可能性もある。数日くらい猶予はあるかも知れないが、何にせよ覚悟はしておかなきゃならないか。

手遅れだとは思いつつ、一応、書き換えた顧客情報は元に戻しておこう。元々証拠にはならん情報でも、これで記事の根拠の一つは崩れる。だが、一度炎上すると、情報そのものの正確性や根拠など、どうでもよくなるからなあ。騒ぎに便乗したい連中はただ騒ぎたいだけで、事実かどうかはどうでもいいのだ。そういう奴らだ。

しかも、私が牛一頭分の肉の塊を注文したのは紛れもない事実だからな。仕方がない、こっちの方は情報そのものを消してしまうか。私が注文した情報も、商品が輸送された情報も、私がそれを受け取った情報も。それを消してしまえばいくらおかしいおかしいと騒いだところで証拠がないのだから私としてはとぼけるだけで済む。

それでも、炎上してしまうと無駄だろう。あとは私がいかにキレないようにするかを考えるしかないか。調子に乗って炎上に便乗する連中は、自分の行為が地球そのものの命運を握ってるかも知れないことに、気付きもしないんだろうなあ。

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