JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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夏休みの章

それが私

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ぐしゃり、と、男の一撃を受け、<怪物>の体が、まるでトラックにでも轢かれたかのように血と肉片をまき散らしながら潰れた。

そんな様子にすら、男は眉一つ動かさない。どこまでも冷酷な奴だ。

もっとも、人間にも元々そういう気性の奴はいる。化生に憑かれたことでそうなる事例も少なくないが、純粋に人間のままでそうなる奴もいる。

この男の場合は、後者のようだ。こいつからは化生の臭いはしない。何かに憑かれているとか、例の綺勝平法源《きしょうだいらほうげん》の例のように、<超越者>を信仰する代わりに力を授けられたというのでもなさそうである。

とにかく、これで決着はついた。<怪物>は車に轢かれたカエルのような姿になり、再生する気配も見えない。こいつ自身が、ただ破壊を望んだことにより、巻き戻し等の力については気付くことがなかったのだろう。

「……」

男は、再生や巻き戻しのようなことが起こらないことを確かめるようにしばらくその場で怪物の死体を見詰めた後、ふらりとその場から立ち去った。

そこで私は、今度は意識だけでなく肉体ごと<転移>して、怪物の死体の傍へと降り立つ。

「やれやれ。無様だな」

<私の一人>でありながら人間の<異能力者>ごときに後れを取ったそいつに侮蔑の視線を投げかける。

とは言え、クォ=ヨ=ムイとしての意識に目覚めていなければ所詮は人間と大差ない存在なので、この結果も当然と言えば当然ではあるが。

「やれやれ」と溜息交じりに手をかざし、私は巻き戻しを始めた。

ただの人間として事件を起こした上での事故死などであればこんなことはしない。人間同士の諍いには私は基本的に関知するつもりもない。

が、今回の件については、<超常の者>がしでかしたことなのでな。取り敢えず後始末はしようと思うのだ。

『何故そうするのか?』と訊かれれば、特に深い意味はない。今は何となくそういう気分だというだけである。

怪物と化した少年Aが死んだことで<私>は既に次の人間に<転生>した後だった。そこに残っているのはただの<人間>だ。

<もう一人の私>が、クォ=ヨ=ムイと月城こよみとに分裂してしまったことで改めて確認できたのだが、人間部分とクォ=ヨ=ムイとしての部分は完全に合一してるわけではなく、人間部分はあくまでただの<人間>であり、私は単にそこに乗っかっているだけだということがはっきりした。

厳密に念入りにやったことではなく適当な思い付きで始めたことだったから、しっかりとできていなかったのだ。

我ながら実にいい加減である。

だが、それが私なのだ。

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