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夏休みの章
油断大敵
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まあこれは私もそうなんだが、人間も調子のよい時に慢心し注意が散漫になったりすると思わぬ痛い目を見ることもある。
これは、そういう話の一つだろう。
自然科学部の肥土透は、今はもう人間ではない。故に人間の時には気を付けないといけなかったことに対して若干、注意力が散漫になってしまっていたようだ。
慢心しないということを忘れる程度には。
もっとも、注意力に関係なく慢心する時には慢心するんだろうがな。
だから気付かなかったのだ。アニメショップに行く為に街に出た時におかしなものに目を付けられたことを。
「…? 火事…?」
消防車が何台も走り抜けていく様子を見て、肥土透はそんなことを呟いた。実はこの時、石脇佑香による野球場の破壊活動が行われていたのだが、今回はそれは関係ない。
いつもよりも騒々しい気はしたものの、それでもさほど意識はしないまま、手に入れた限定グッズに思わず顔が緩むのを感じつつ、帰路についた。家に帰ってさっそく飾るのだ。もちろん、ケースに入れたままだが。
ところで肥土透は、エニュラビルヌの肉体を得たことで、人間の言うところの<イケメン>に変貌していた。本人はまったく意図していなかった変化だし、顔の造形が大きく変わった訳ではない。非常に強くなった筋肉によって引き締まり、顔の表情も体つきも精悍になったのだ。それにより、実は元々<素材>としては悪くなかったものがはっきりとイケメン化したのである。
そうなると当然、見た目の良し悪しに敏感な女が見逃さない、だけでなく、男まで引き寄せてしまったようだ。
にも拘らず、肥土透はその男が向ける視線に気付かなかった。気付けるだけの能力を持っていたのを活かせなかったのだ。浮かれていた上に、今の己なら人間相手になど遅れは取らないと慢心していたが故に。
さらに、完全とは言えないが家庭の問題も一定の目処がついたことも、油断を誘う一因になったのかもしれん。皮肉な話だが。
家に帰る為に電車に乗った肥土透から視線は外さず、男は隣のドアから同じ車両に乗り込んだ。結構な混雑だったがそれでも男の目は、舐めるように絡みつく。
なのに肥土透はそれに気付かない。
やがて自宅の最寄り駅に到着した時に、
『やべ…おしっこ』
尿意をもよおし、すぐ目の前にあった駅前の雑居ビルへと入っていく。そこに、本来ならビルの入居者用の共同トイレがあって、しかし外部の人間でも使えてしまうことを、知っている人間は知っているのである。そこが一番近かったから利用しようとした。
が、実はそのトイレにはさらに別の<用途>があることを、肥土透は知らなかった。知っていたら迂闊に近付いたりはしなかっただろう。少しくらい回り道になってもコンビニなどに寄っていたいた筈である。
そういう意味でも油断していたのだ。
これは、そういう話の一つだろう。
自然科学部の肥土透は、今はもう人間ではない。故に人間の時には気を付けないといけなかったことに対して若干、注意力が散漫になってしまっていたようだ。
慢心しないということを忘れる程度には。
もっとも、注意力に関係なく慢心する時には慢心するんだろうがな。
だから気付かなかったのだ。アニメショップに行く為に街に出た時におかしなものに目を付けられたことを。
「…? 火事…?」
消防車が何台も走り抜けていく様子を見て、肥土透はそんなことを呟いた。実はこの時、石脇佑香による野球場の破壊活動が行われていたのだが、今回はそれは関係ない。
いつもよりも騒々しい気はしたものの、それでもさほど意識はしないまま、手に入れた限定グッズに思わず顔が緩むのを感じつつ、帰路についた。家に帰ってさっそく飾るのだ。もちろん、ケースに入れたままだが。
ところで肥土透は、エニュラビルヌの肉体を得たことで、人間の言うところの<イケメン>に変貌していた。本人はまったく意図していなかった変化だし、顔の造形が大きく変わった訳ではない。非常に強くなった筋肉によって引き締まり、顔の表情も体つきも精悍になったのだ。それにより、実は元々<素材>としては悪くなかったものがはっきりとイケメン化したのである。
そうなると当然、見た目の良し悪しに敏感な女が見逃さない、だけでなく、男まで引き寄せてしまったようだ。
にも拘らず、肥土透はその男が向ける視線に気付かなかった。気付けるだけの能力を持っていたのを活かせなかったのだ。浮かれていた上に、今の己なら人間相手になど遅れは取らないと慢心していたが故に。
さらに、完全とは言えないが家庭の問題も一定の目処がついたことも、油断を誘う一因になったのかもしれん。皮肉な話だが。
家に帰る為に電車に乗った肥土透から視線は外さず、男は隣のドアから同じ車両に乗り込んだ。結構な混雑だったがそれでも男の目は、舐めるように絡みつく。
なのに肥土透はそれに気付かない。
やがて自宅の最寄り駅に到着した時に、
『やべ…おしっこ』
尿意をもよおし、すぐ目の前にあった駅前の雑居ビルへと入っていく。そこに、本来ならビルの入居者用の共同トイレがあって、しかし外部の人間でも使えてしまうことを、知っている人間は知っているのである。そこが一番近かったから利用しようとした。
が、実はそのトイレにはさらに別の<用途>があることを、肥土透は知らなかった。知っていたら迂闊に近付いたりはしなかっただろう。少しくらい回り道になってもコンビニなどに寄っていたいた筈である。
そういう意味でも油断していたのだ。
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