JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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三学期の章

開けられない

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ようやく私の存在に気付いた小娘の前で、私はじりじりとにじり寄る仕草を見せた。人間の小娘であればこれで十分、パニックを起こし逃げ惑うはずだ。

案の定、小娘も、

「ひ…っ。ひぃ……!」

などと声を詰まらせながら、身をよじって下がろうとする。

だが、肝心の、ドアを開けて部屋から逃げ出そうとする様子は見られない。

あまりの状況に思考停止の状態になり、思い付かないのかもしれないな。

両足は膝を含めた先がなく、両手は後ろ手に拘束されてまともに動くこともできないことも、パニックに拍車をかけているのかも知れん。

ドアに向かうのではなく、ただ部屋の中を這いずって逃げるだけだ。

やれやれ、これでは意味がない。

なので私は、小娘をドアの方へと誘導するべく、位置取りをした。

そうしてようやく、ドアの前へと追い詰めることができた。

小娘の方も、男がこの部屋におらず、ドアを目の前にしたことでやっと、

「逃げなきゃ…!」

と口に漏らすまでになった。

が、両足がそのような状態では立ち上がることもできず、しかも両手を後ろ手に拘束されていてはドアのノブに手が届かない。

両足については完全に傷口が塞がっていて、とても昨日今日切り落とされたようには見えなかった。

だが小娘はその足で立ち上がることは嫌なのか、

「ダメ…開けられない……!」

などと早々に値を上げる始末だ、

見ると、両足だけでなく両手も既になくなっていた。足の衝撃が大きすぎて気づかないらしい。

マズイな。これではドアが開けられん。そんな状態でも工夫次第では開けられる筈だが、両手両足を失った小娘にはそんなことも思い付けんか。

と諦めかけてた私の目の前で、小娘がどうにかドアを開けようと、ドアノブを自分の肩と頬の間に挟み、それを回そうとした。

しかし、外に向かって押すタイプならまだしも、内側に向かって開くそれだった為にそういうことがやすやすとできてしまう訳もなく、

「ひ…ひ……ひい……!」

と声を漏らしながらドアに縋りつくのが精一杯だった。

それでもまあ、思った通りに動いてくれているのだから感謝してやった方がいいのだろうか。

などと考えている暇もない。

早く開けてもらわなければ、こっちは脱出もままならん。

「なんで…なんでえ……」

泣き言を繰り返しながらドアノブを弄りたおす様子に、私はただ呆れるしかできないでいた。

『焦ればそれこそうまくいかないぞ』

そう言ってやりたかったものの、やはりそれは言葉にはならず、小娘が泣きそうになりながら続けるのを見ているしかできなかったのだった。

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