JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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怨嗟の章

避難小屋

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動こうとしないアリーネのためにも、黒い獣は今度は樹脂製の波板を見付けてきてパラソルに立てかけるようにして簡易の<屋根>を作った。

そうして四人が雨宿りをしている間に、今度は、フォークリフトなどで荷物を運ぶ時に使われる<パレット>と呼ばれる、厚さ十数センチ、一辺一メートル強の樹脂製の板を九枚集めてきて敷き詰めた。

さらに、パイプがグシャグシャにひしゃげた、体育祭などでよく日除けとして使われるタイプのテントを見付けてきて、ひしゃげたパイプをやはり触角と言うか触手と言うかを使って矯正し、かなり歪ではあるものの辛うじて元の形に近付けて敷き詰めたパレットの上に設置、それを基にして、やはり樹脂製の波板などを見付けてきては次々と針金などを使って取り付けて、いわゆる<掘っ立て小屋>のようなものを僅か一時間ほどで作ってみせた。

<仮設の避難小屋>ということらしい。

『取り敢えずこの中に』

避難小屋を作る材料を集めている間に見付けたらしいスケッチブックとサインペンで筆談する。

そんな黒い獣に対する綾乃の不信感は決して消えることはなかったものの、それでもこのままボロボロのパラソルで雨宿りするのはみほちゃんやシェリー、エレーンが可哀想だと思って、そちらに移ることにした。

「アリーネさんも、いつまでもそうしてないで…!」

やや叱咤するような口調で、綾乃は濡れた地面に横たわっていた彼女に声を掛けた。

するとアリーネも、のろのろと体を起こして移動する。

しかしその目には、かつてあれほど精強そうだった彼女の印象はまるで残されていなかった。意志を持たないロボットのように、ただ言われたことに反応するだけだった。

「……」

黒い獣は、そうして避難小屋へと移った綾乃達を、やはり悲しそうに見ていた。

自分は泥の雨に打たれるままに……

もっとも、彼にとってはそんなもの、暑気除けのミストほどにも影響はなかったが。

綾乃達が避難小屋に入ったことを見届けた後、黒い獣はさらに作業を続けた。

もう一つ同じようにして小屋を作ると、今度はその中に、見る影もなく破壊された住宅の中から引っ張り出してきた浴槽を設置、破れた水道管から流れ出ていた水をポリタンクに入れて運び、浴槽を満たした。

その上で今度は、自分の前足を綺麗な水で洗って浴槽に突っ込む。

と、黒い獣の前足の辺りが一瞬でボコボコと泡立ち、ただの水だったものがみるみる湯気を上げ始める。

黒い獣の途方もない能力を秘めたその肉体は、数百度の熱を発することができたからだった。

彼は自らを<湯沸かし器>として利用したというわけだ。

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