JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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怨嗟の章

日記

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サバイバル生活と言うかキャンプ生活と言うかを始めて一週間。

綾乃は、黒い獣が拾ってきたノートとボールペンで、四日目から日記を書いていた。



『四日目。今日から日記をつけることにした。

生活面ではあの黒い獣が必要なものを持ってきてくれるので特に困ったことはない。もちろん以前のと比べれば不便にはなったけど、みほちゃんもシェリーもエレーンも辛そうにしてないから気が楽だ。

だけど、全然、救助とかが来る気配がない。消防車や救急車やパトカーのサイレンの音も全くしない。見渡す限り瓦礫の山で、動くものさえ見えない。

被害はどれくらいなんだろう。まさか日本全部がこんなことになってるとは思わないけど、少なくともこの辺りはまともな救助活動もできない状態なんだろうなというのは覚悟した方がいいのかもしれない』



『五日目。最初の日から降り出した泥の雨は三日目にはやんだけど、今度は日差しが強くてちょっと大変。扇風機すらないから夜もよく眠れない。

と思ってたら、黒い獣が発電機と冷蔵庫と冷風機を持ってきた。これで電気が使える。

だけど今度は発電機の音が五月蠅くてちょっと憂鬱。止めると扇風機も使えないから止めることもできないし』



『六日目。遠くの方で煙が上がってるのが見えた。火事だろうか。燃え広がると大変だな。ここら辺は大丈夫だろうか。

みほちゃんは相変わらず私のことをママと呼ぶ。今の生活を普通だとも思ってるみたいだし。

だけど本当のことを思い出すときっとショックを受けるだろうから、いっそこのままの方がいいのかなとも思う』



『七日目。また雨が降り出した。救助活動が行われてる気配はやっぱりない。それどころか生きてる人の姿も見ない。私達以外はダメだったんだろうか。

そう思いたくはないけど。

アリーネさんは私達とは顔も合わせようとしないで一人で勝手にやってるみたい。まあ、軍人だから自分で何とかできるのか』



等々。

本当はもっと書きたいこともあったけど、ひたすら恨み言ばかりを並べることになりそうだったのでやめた。

あれこれ考えすぎることもしないように心掛けた。<恋人>のことも気になったものの、今はそこまで考えられなかった。敢えて意識の隅に押し込めた。でないと頭がおかしくなりそうだった。

とにかく今の生活を淡々と続けることだけを意識する。

黒い獣が拾ってきたラジオ付きCDプレイヤーのラジオをつけても、まったく放送が入らなかった。

救助が来る気配すらないことと併せて、不安を掻き立てられる。

黒い獣のことは今でも警戒している。信用することなんてできない。ただ、必要なものを持ってきてくれるから利用しようと思うだけだ。

それでも、綾乃の姿は日に日にやつれていったのだった。

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