JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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春休みの章

見えない壁

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不穏な気配を放つ若い男に、赤島出姫織あかしまできおりは気付いていた。

視線を向けず男の様子を探ると、そいつにとって世界そのものが<敵>なのが分かる。<見える筈のないもの><聞こえる筈のないもの>が見えて聞こえる自分を異物のように扱うような世界など、なるほどそいつにとっては受け入れ難いだろう。

それに対して赤島出姫織は、

『以前の私と同じか……』

そんなことも思ってしまう。

自分を、金を生む<金の卵>のように考えて利用しようとしていた両親と、それをやめさせようとしなかった<世界>など自分にとっては敵でしかないとかつては考えていたのが思い出されてしまうからだ。

だから男に対しても同情はしないわけじゃない。

しないわけじゃないが、だからといってこれからしようとしていることを認める訳にもいかないのも事実ではある。

男の意識が、手にしたものに集中していくのも分かる。それは、タオルにくるまれた包丁だった。男は包丁を手にうろついていたのだ。

自分に話しかける、<そこに存在する筈のないもの>を消し去るために。そして、そんなものが見えて聞こえてしまう自分を異端視するこの世界そのものを破壊するために。

すると、さすがに男の異様な気配を察した若い女があからさまな嫌悪感を込めた目でそいつを見た。

瞬間、男の中で何かが爆発する。

「そんな目で俺を見るなぁああぁぁぁああぁっっっ!!!」

男は、タオルにくるんだ包丁を振り上げ、女目掛けて走る。手にしたものを突き立て、ゴミを見るよう目で自分を見る女に<報復>するために。

それを、赤島出姫織は見て見ぬふりができなかった。

だから、男の前に<見えない壁>を張り巡らせ、邪魔をする。

そうすると当然、男はその見えない壁に全力でぶつかってしまう。

「げふっっ!?」

女に飛び掛かろうとした力のすべてが壁に受け止められて自分に跳ね返ってきたのことで、男は弾かれたかのように地面へと倒れた。

「な…何……!?」

突然の出来事に女は呆気にとられ、それから、

「気持ち悪…っ!」

と吐き捨てて小走りでその場を去った。

一方、男は、地面に倒れたはずみで包丁を手放してしまい、タオルにくるまれていたそれも転がって剥き出しになってしまった。

「え…? 包丁……!?」

「何こいつ、通り魔……!?」

周囲の人間達も、突然倒れた男が包丁を手にしていたことに気付き、ざわっとした緊張感が奔り抜ける。

そしてその緊張感はすぐさま恐怖へと置換され、

「ヤバっ!!」

などと声を上げてその場を去ろうとする者を出したかと思うと、同時に、

「マジかよ!?」

「こいつ、ヤベーっ!!」

などと口走りながらも手にしたスマホのカメラを向ける者も現れたのだった。


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