獣人のよろずやさん

京衛武百十

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科学的根拠

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『おうちまで送ってあげる』

そう言った私に、ラレアトが、

「ウン♡」

嬉しそうに大きく頷いてくれました。

ううう、かわいい~っ♡

と、いけないいけない、冷静にならなければ。

手を差し出すと、彼女も、短くて柔らかい毛で覆われた小さな手で掴んでくれました。

手の形やその構造は私達地求人とまったく変わりません。いえ、毛皮のことを除けばむしろ『頭部だけが違う』と言うべきかもしれませんね。

正直な印象として、不自然なくらいに私達と近いのです。

普通に生物として進化しただけでこのような形態を獲得することは有り得るのでしょうか?

その疑問は少佐も同じです。

ただ、私達には確信めいたものがありました。

『あの<透明な不定形の何か>がその鍵を握っている』

という。

なぜならば、私達の透明なこの体も、本来ならば物理的に有り得ないはずなのです。光を完全に透過してしまうのであれば、私達は自身が見ているものを映像として捉えることもできないはずにも拘らず、普通に見ています。

また、人間の血液が赤いのは鉄を含んでいるからであり、決して透明にはなりえません。透明になってしまえば人間の血液は血液として機能することができなくなってしまうのですから。

この点一つをとっても、今の私達の体を合理的に説明できる科学的根拠はなく、これは何らかの<物理書き換え現象>を想起させるものとなっています。つまり、私達のこの体も、視覚的には、

『透明に見える』

だけで、実際には普通の人間の肉体と同じものであると考えた方がいいのかもしれません。透明に見えていること自体が、あの<透明な不定形の何か>が持っている何らかの能力だと考える方が筋が通るでしょう。

これを裏付けるかのように、私達が食事をすると、摂取したものが消化器官内にある間は透明にはならず、分解され体内に吸収された時点から透明になってしまうことも確認されています。

なので、尾篭びろうな話ではありますが、未消化のもの、吸収されないものについては透明にならないため、体内にある様子がはっきりと見えてしまうわけですね。

きっと、医学的な研究者にとっては大変に興味深いでしょう。何しろ人体がどのように食物を消化分解し吸収していくか、そのまま肉眼で確認できるのですから。

ただ残念ながら私達はそこまで興味もないので、普段は見ないようにしています。

そしてそれは同時に、あの<透明な不定形の何か>が基となれば、どのような非合理的な形態であっても獲得できてしまう可能性があるということも表しています。

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