獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第二部

正義の正体

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『自分は、銃口を向ける相手を絶対に間違わない!!』

そんなことを口にする人は信用されません。何しろそういう人は、

『自分が銃口を向ける相手を、自分の勝手な判断で決めている』

からです。

かつて、こういう事件がありました。

ある街で、五人の少年が、一人の少年にリンチを加えていて、そこに通りがかった<正義感が強い人物>が、リンチを加えていた側の少年達を銃撃。一人が死亡、四人が重症を負うという事件でした。

第一報において人々はこれを、

『ヒーローだ! ヒーローが現れた!!』

ともてはやしたといいます。

しかし、その事件は、

<ギャングの少年が、罪もない少年にリンチを加えていた>

などという単純な事件ではなかったのです。

何しろ、その<ヒーロー>によって銃撃され死亡した少年は、長年に亘って<リンチを受けた少年>から過酷な虐待を受けていて、それが、

<正義感と勇気に溢れた四人の少年>

と出会ったことで、それまでの虐待に対する報復を行ったというのがきっかけだったのですから。

しかも、死亡した少年は、

『やり過ぎだ! 死んでしまう!』

と言って四人の<正義感と勇気に溢れた少年>を止めようとしていたそうです。

分かりますか? ここには、五人もの、

<正義の味方>

がいたのに、一人の<正義の味方>が四人の<正義の味方>を銃撃して重傷を負わせ、あまつさえ、<虐待の被害者だった少年>を死亡させ、

『<虐待の加害者だった少年>を救った』

のです。

さらには、<五人の少年を銃撃した加害者>は、

『あのまま警察の到着を待っていては、リンチを受けていた少年が死んでしまう可能性があった。自分は彼らの関係性について知りえない立場にいたから、緊急避難として自分の判断は間違っていなかった!!』

と弁明し、無罪を主張したとのこと。

そう、

『だから自分は銃口を向けるべき相手を間違えてなどいなかった』

と、考えているのです。

これこそが、

<正義の正体>

と言えるのでしょう。

子供向けのヒーロー番組のヒーローのように、

『突然事件現場に現れて、状況や背景すら調べもせず、一方的に<敵>を攻撃して殺害し、しかもそれが常に正解である』

などということは、現実では有り得ない。

フィクションはフィクションだからいいのです。それを現実に持ち出すのが間違っている。

<どうすることが望ましいのか、その指針の一つ>

としてであれば、<ヒーロー物のフィクション>もいい。

でも、<フィクション>と<現実>の区別も付けられないような人が<正義>を振りかざせば、それはテロリストと何の違いもないのです。

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