獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

オリジナルを再現

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とは言え、日常的な生活パターンが個人によってまちまちで、徹夜というのも当たり前になってたりする地球人と違って、ここの住人達は、基本的に生活パターンは大体守ってます。昼行性の獣人は、日が暮れれば眠くなり、空が明るくなれば目が覚めて活動的になるのは、完全に身に沁みついた習慣、と言うより<習性>なんです。

抗いようもない。

だから、メイミィが朝まで起きてられないのは、彼女の努力が足りないとか根性が足りないとかそういう問題じゃない。むしろできなくて普通なんです。

それどころか、無理にやろうとすればそれこそ健康を害することだってあるでしょう。

メイミィには、自らそれを実感してもらえればいい。

対して、クレアは、基本的には昼行性らしいんですけど、割と早い段階から夜でも起きていられました。もしかすると、元になった<クラレス・トリスティア>が地球人だったからというのもあるのかもしれません。クラレスとしての記憶は蘇らなかったけれど、肉体的なそれを含めて、感覚そのものは引き継いでいる可能性が。

クレアは、私や少佐や伍長と同じで、

<例の<透明で不定形の謎の存在>がそのまま変化した存在>

ですから、元になった人間の形質も再現されてる。透明な以外はほぼ完全にオリジナルを再現してる私や少佐や伍長と比べて、<猿人>という形質も得た分、記憶を含めて再現されてない部分も多くても、まったく別というわけでもない。

そういう諸々の<事実>を総合的に勘案し、私達は随時適切な判断を下すことを心掛けているんです。自分が楽をするために『こうあるべき』と決め付けてそこから外れた者は排除しようとして、地球人は多くの失敗を重ねてきました。同じ地球人である以上は当然<心>も持つ<排除される側>がおとなしく排除されてくれるはずがないことを理解しようともせず。

生きるためのリソースが限られていた頃には、厳しい取捨選択も必要だったでしょう。ですが、現在の地球人は、互いの価値観の違いなどを認めてもなお、<住み分け>が可能なほどのリソースを確保できてるんです。にも拘らず、『気に入らないから』という理由だけで自分達の<当たり前>から外れた者を一方的に排除しようとすることが生み出すリスクを無視するのは、愚かしいことのはずです。

この<獣人達の世界>では、リソースは必ずしも十分ではないかもしれない。でも、工夫する努力を怠る理由もないはずなんです。ならば、私達はその努力を怠ろうとは思いません。

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