獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

最初から好きだった

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『ラレアトと出逢った時は、すごく怖がらせちゃってたね。改めてごめん』

初めて出会った時に怖がらせてしまったことを詫びる私に、彼女は、

「ウウン! ビアンカ、コワクナカッタ! ワタシ、サイショカラ、ビアンカノコト、スキダッタ!」

ラレアトが突然、顔を上げて身を乗り出すようにして言いました。真剣な表情で。

『最初から好きだった』

その記憶が果たして本当なのかどうかは、正直なところ、分かりません。幼い頃のことだったから、ラレアト自身、記憶がすり替わってしまっている可能性があります。私への想いがそれだけ強いということになるようにと。

これ自体、地球人にも実はよく見られることですから、それは大きな問題ではありません。捏造した記憶で他人に害を加えようとしているわけでもありませんし。

「ありがとう。ラレアト」

私も、自然と笑顔になります。

彼女は少佐じゃない。だから少佐と同じようには愛せない。でも、男女の関係の間にあるものだけが<愛>じゃないはずです。自分以外の存在を、ただそこに存在するものとして認めることこそが<愛>と呼ばれるものだと思うんです。だから、少佐への愛も、ラレアトへの愛も、形は違うけれどどちらも私にとっては本心なんです。

私が、山猫人ねこじんのようなメンタリティを持っていたら、もしかすると少佐と同じように愛せたんでしょうか……?

分かりません。私は山猫人ねこじんではありませんから。でも、<愛>というものが、

『他者の存在そのものを認める』

ことであるなら、

『自分とは違う』

ということも認めないとおかしいはずなんです。『自分と他者は違う』のは、厳然たる事実なんですから。

これは、親子の間でも同じ。『子を愛している』と言うのなら、親は、我が子が自分とは別の存在であることを認めなければおかしいはずなんです。自分の一方的な想いを<愛>と称して押し付けるのは、ただの<欲望>です。<エゴ>でしかありません。

私は、少佐と出逢い、様々な経験を積んだことで、ようやく納得できる<答>を得ました。

だから、少佐を愛しながらも、ラレアトを愛することができる。

さりとて、ラレアトが私と同じ<答>に辿り着けるかは、分かりません。私が得た答を彼女に押し付けるのは<愛>ではありませんしね。私は彼女を受け止めるだけです。そんな私の姿から彼女が何かを学んでくれるかどうかは、彼女自身の問題。

自分と同じ考えを持つことを相手に強要するのは、単なる<洗脳>なんです。

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