獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

選択肢が増える

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何もそんな不便なものを主食にしなくてもとは思うものの、先祖代々それを食べてきて疑うこともなかった兎人とじん達に私達があれこれ言うのも無責任なのでしょう。彼女ら自身が認識を改めるのを待つしかありません。

そしてこの祭は、大きなきっかけになる可能性も秘めています。と言うのも、コミンを使っていない美味しい料理があると同時に、収穫してから時間が経って味が落ちたコミンを美味しく食べられる料理法も、あるそうなのです。

それは、メイミィの仲間である方の兎人とじんが発明したものでした。メイミィの仲間達の兎人とじんは、コミンももちろん食べますけど、ラレアトの仲間達のように<主食>とまではしておらず、食べられないなら食べられないで他のもので補うということができていました。その点からも、

『コミンに拘らなくても大丈夫なのでは?』

という印象はあるものの、双方の種族は、厳密には違っているので、地球人でも人種によって適した食が異なるなどの事実からも分かる通り、メイミィの仲間達がコミンを食べなくても平気だからと言って、ラレアトやその仲間達が大丈夫とは断定できません。だから実証する必要があるんです。

それに加えて、収穫後時間が経って味が落ちたコミンでも美味しく食べられるなら、そういう面でも可能性が広がります。離れたところに生っているコミンを収穫し、料理法によって美味しく食べることで、集落を移動しなくても済むという可能性が。

こんな風に、いろんな可能性を検討することが大事だと思うんです。一つの案が駄目だったからもうそこで終わりというのではなく。

この祭は、そういった<可能性>を探る場にもなっています。

各集落のおさ達にも、ここで提供される様々な料理を試食してもらって、自分達の可能性を見出してもらえたらと。

少佐は、それも視野に入れて準備をしてくれていました。ラレアトの集落のおさにも、コミン以外の食べ物の可能性を、コミンそのものが持つ可能性を、実際に味わってもらうために。

頭ごなしに、

『こちらの主張を受け入れろ!』

と恫喝するだけが<交渉>ではありません。相手が納得できる諸々を提示することも大事なんです。

『ラレアト一人のためにそこまでするか?』

などと言う人もいるでしょうけど、これは決して、ラレアト一人の問題じゃないんです。ラレアトの仲間達自身の可能性の問題でもある。敢えて集落を移動しなくてもできることが増えるのは、選択肢が増えるということでもある。

もちろん、集落を移動することで得られるメリットもあるのでしょうが。

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