獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

多数であることに胡坐をかいて努力を怠って

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そう。<生存競争>であれば、少数が多数を駆逐することだってあるんです。

地球の生物の歴史がそれを物語ってるじゃないですか。新しく生まれた、最初は少数だった者が多数を圧倒し数を増やし、やがて栄華を誇っていた種を絶滅へと追いやるなんてことは何度も起こってるはずなんですから。

多数であることに胡坐をかいて努力を怠って、誰かが犠牲になってくれることで自分達は守られるとただ気楽に安寧を貪ろうとしてる者が足を掬われることがあって何がおかしいんです?

自分にとっては見ず知らずの赤の他人だからと犠牲を強いて、感謝をすることもなく敬うこともなく労わることもなく他人事として流して、それで犠牲になった方が納得するとでも思ってるんですか?

これは、軍人としての正直な気持ちです。戦う力を持たない多くの人々に代わって戦うのが軍人ではありますけど、それを、

『軍人だから戦うのが仕事だろ? 自分にゃ関係ない』

的な態度を取られていい気がするわけないじゃないですか。

もちろん、仕事ですから給料分の働きはしますよ。でも、確実にモチベーションは下がりますよね。そして、そういう人がテロに巻き込まれた時に、命を懸けてまで守ろうと咄嗟に体が動くかどうか、正直なところ自信がありません。

だってそうでしょう? 軍人だって人間なんです。心があります。感情があります。咄嗟の場合でも自身の感情に惑わされずに適切な動きができるように訓練は積んでますけど、完璧にはなれない。まあ、だからこそロボットが導入されたんですけどね。ロボットはそういう部分、気にしませんから。

生物学的に見て<人間>でありさえすれば、それがどんなに悪辣な人であっても無条件に守ってくれますよ。例え自身が壊れても。

ああでも、ロボットは死なないから当然ですか。壊れたら修理をすればいい。修理もできないほどに壊れたら新しい機体にデータを移し替えればいい。むしろロボットは全体で一個の存在であって、それぞれの機体は生物における<細胞>みたいなものでしかないのかもしれません。

そう考えれば、免疫細胞が何の見返りも求めずに役目を果たそうとするのに似てる気もします。

だけど、ロボットはそれができても、人間はそうはいかないんです。

だったら、無責任にただ犠牲を押し付けてくるだけの多数に対して納得できなくても当然じゃないですか。ましてや、他者を傷付けて平然としてるような人達よりも自分の大切な人を優先しようとする方が逆に人間らしいと私は思いますね。

私だって本音を言えば、ネット上で日がな一日他者を罵っているだけの連中なんて、

『救う価値なし』

と思ってたりするんですから。

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