獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

人として生きていく上で大切なこと

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子供に対して、

<人として生きていく上で大切なこと>

を教えない親というのは、何のためにいるんでしょうね? 地球人社会では、

『社会に出たら狡いのばっかりになるから、綺麗事だけじゃやっていけない』

とか言う人もいましたよね? あれ? 子供の内にちゃんと躾けられた大人は、

<まともな人間>

になるんじゃないんですか? それがどうして、『社会に出たら狡いのばっかりになる』なんて印象を受けるんです? おかしいじゃないですか。そしてそれは、昔から言われてたことですよね? 

<社会の荒波>

とか言って。子供の内にちゃんと躾けられて大人になった人が大半だったのなら、どうしてそんなことになるんです? もしそれが本当なら、<躾>なんて実際にはされてなかったってことですよね?

『社会に出たら狡いのばっかりになる』

のなら。そういう、人を人とも思わないような人間にならないように<躾>はするもんじゃないんですか? それがちゃんとされてるなら『社会に出たら狡いのばっかりになる』なんて起こるはずがないじゃないですか。

本当に、その現実が、<躾>なんていうものが実際には効果を発揮していないという何よりの証拠ですよね? 世の中には『躾に厳しい』と言われている国や地域はいくつもありましたが、そういう国や地域の治安とかはどうだったんですか? そういうところに暮らす人達の人間性はどうだったんですか? 些細なことでケンカして銃を持ち出して相手を射殺してしまったり、サッカーの試合が気に入らなかったからって暴動を起こす<フーリガン>なんてものがいたりしたのも、<躾に厳しい国>だったと聞いてますよ?

躾に厳しいのにどうしてそうなるんです? 不思議ですよね。

それに対して、伍長は、震電を『躾け』ようとなんてしていませんでした。リータの時もそうでした。リータが無茶をして痛い目を見た時なんかには、

「どうだ。痛いだろう? なら、今度からは気を付けなくちゃな」

と言葉で諭すだけでした。とは言え、リータも最初からそれですぐに改めるわけでもなく、また同じようなことをしでかして痛い目を見て、

「今度からは気を付けなくちゃな」

と伍長に諭されてました。それこそ、何度も、何度もです。伍長は決してリータを叩いたりしませんでした。彼にとってリータは、

<自分より絶対に弱い相手>

だったからです。手を挙げる必要そのものを、伍長は感じていなかったそうです。

「一回や二回で言うこと聞くわけねえじゃねえか。だから聞くまで言うんだよ」

それが口癖のようになっていました。

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