獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

厳しくすることこそを貴ぶ

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地球人社会には、

『厳しくすることこそを貴ぶ』

という因習がありました。でもそれは結局、

<他者をストレス発散のためのサンドバッグにしたい輩>

にいいように利用されたというのが現実だったはずです、加えて、

『他者に分かるように教えるというスキルを持たない者を正当化する』

ことにも散々利用されましたね。ただただ『厳しくする』だけのことを礼賛する人は、自分が誰かをストレス発散のサンドバッグにすることを正当化したいがために利用してるだけでしょう?

軍の訓練は大変に厳しかったですけど、訓練を離れれば教官達は気遣ってもくれましたよ。その上で、

『戦場に出ればこんなものじゃ済まない。これに耐えられないのなら早々に他の道に進んだ方がいい』

ということを教えるために厳しくもしたんです。その上で、『なぜ厳しくするのか?』ということもきちんと教えてくださった。

ただただ尻を叩いてやらせようとするだけでは、

『自ら考えて自ら覚悟を持って自ら行動する』

ということができる人は育たないんですよ。尻を叩かれないと何もできない人の方がずっと多くなるだけ。

よく、

『職場で厳しくされることを批判する人は、実際に働いたこともない人』

なんて言う人がいましたけど、それはむしろ逆ですね。

<新人だった頃にただ無意味に厳しくされたがゆえに自分が叱られることもない立場になった途端に傍若無人に振る舞うようになっただけの上役>

という者がいる職場を経験したことがない人が、<厳しさ>というものを盲信してるだけでしかなんでしょう。

もしくは、

『当人が傍若無人に振る舞える立場にいるからこそそれを正当化するために擁護してる』

と言うべきでしょうか?

<厳しくされたことで人間的にも立派になった人物>

よりも、

<自分がかつて厳しくされたからただただ同じことをやり返したいだけという人物>

の方が圧倒的に多いんじゃないんですか? 思い当たる節は本当にないとおっしゃるんですか?

そんな、

<尊敬できる上役ばかりがいる職場>

なんていうものが、かつての地球人の社会にどれだけあったとおっしゃるんですか?

そうじゃなかったからこそ、それを改める努力をしてきたんじゃないんですか?

<厳しさ>

というものは、あくまでそれを裏打ちできるだけの道理があってこそのものなんですよ。その道理が伴わない厳しさなど、ただの、

<ストレス転嫁のための手段>

でしかない。それを理解せずに手っ取り早く相手を叱り飛ばして手間を省こうなどという人をどうやって尊敬すればいいんですか?

教官達の厳しさは、しっかりと道理が通った厳しさでしたけどね。

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