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人生の章

うってつけの仕事

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「お、トーイもすっかり職人の顔付きになってきたな!」

今日も納品のために麓の村に下りると、そんなことを言われた。

「ありがとうございます……」

愛想はいまいちだが、ま、その辺は<職人>だからよ。品物の品質で勝負だ。まだまだ俺の方が上だけどな。

でも、もう大丈夫だと思う。

しかも、<愛想>という意味じゃ、カーシャはそれこそ、

<接客のプロ>

って感じになってきてるんだ。

「いらっしゃいませ♡」

満面の笑顔で客を迎えてくれて、しかも村の連中ほぼ全員の声と呼吸音と足音と匂いを覚えているらしい。さらには、呼吸音とか体臭で体調まである程度分かるらしくてな。

「サシュコーさん、ちょっと無理してませんか? ちゃんと休んだ方がいいですよ」

「クルィームさん、お酒はほどほどにね」

とか、一言声を掛けてくれたりもするんだよ。それで実際、カーシャの忠告を無視して過労で倒れたりしたのもいたらしい。そいつはまあ丸一日休んだら大丈夫だったが、これ以来、割とカーシャの忠告を聞くのも増えたんだとか。

「カーシャがいれば医者要らずだな! ガハハ!」

なんてことを言うのさえいる。

そうだ。彼女は確かに目は見えねえし一人じゃ出掛けることもままならねえよ。けどな、だからって『役に立たない』とは限らねえんだ。何かできることはあるんじゃねえのか? 大事なのは『できることを伸ばす』ってのじゃねえのかよ?

カーシャなんて、刃物だって触れるぞ? 自分の指に触れるものが危険なそれかどうかを察知して、ちゃんとわきまえて持つんだ。決して確かめもしねえでいきなり触れたりはしない。当たり前じゃねえか。目で見て確認できないんだからその分だけ慎重になるんだよ。

あと、カーシャには、スペイドの柄に使う枝の質を確認してもらったりもしてる。中が腐ってたり空洞になってると、叩いた時の音が違うんだそうだ。それ用の<打診棒>も俺が作った。対象物をコンコンと軽く叩いてその音で状態を探るためのものだ。音で多くの情報を確認する彼女にはそれこそうってつけの仕事だろ?

そんな調子で納品と注文取りは任せておいて、俺はマリヤのために乳をもらいに行く。村の連中も心得たもんで、

「トニーの頼みならお安い御用さ!」

なんて調子のいいことを言ったりもする。その一方で、俺に対する評価も、

<子供を慰み物にする変態>

ってのは実は変わってないが、

<村にとっても役に立つ変態>

である限りは、まあ表面上は愛想よくしてくれるさ。だから俺もいちいち気にしない。

互いにメリットがあるんならな。

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