3 / 92
一寸の虫にも
しおりを挟む
私に向かってフォークを投げた男の投擲は、早く、そして正確で、おそらく普通のゴキブリならその一撃で終わっていただろう。
だが、私は、それを躱し、再度男を見た。明らかに<普通のゴキブリ>ではない。なにしろ私なのだからな。
と言っても、思考が私のままなのと、動いた時の感覚から推測するに通常の約三倍の速度で動けるというだけのようだが。
『…やはり無理か……』
試しに<力>を使ってみようとしたが、発現する気配はまるでない。
なぜこんなことになっているのかは分からんが、取り敢えず限定された条件で対処するしかないということだ。
それでも、分かっていることはある。
私が本当に<ゴキブリ>になってしまっている訳ではないということだ。
どうして分かるのかって?
簡単だ。そもそもゴキブリにこんな思考ができるわけがなかろう。
昆虫の神経系の仕組みとしてこういう思考ができるようにはなっていない。
にも拘らず思考だけは普段通りにできているのだから、私の体が実際にゴキブリに変化しているのではないということの証拠に外ならん。
ということは、どこかの時点で認識がすり替えられているのだ。私の体とゴキブリのそれとが。
となれば今頃、<人間体>としての私の体はゴキブリが自分の体として認識しているということだろう。
が、それについては心配はしとらん。ゴキブリに人間の体が制御できるわけがないからな。このゴキブリの体とて、普通の人間が同じようになれば、自身のそもそもの体との感覚の違いから、まともに動かすこともできんだろうし。
本来は人間ではない私だからこそ、<人間の体の感覚>に囚われることなく動かすことができるのだ。
おそらくその辺りにより、通常のゴキブリが発揮することのできない完全な全力を出すことができるから三倍の速度で動けるのだろうな。
正解かどうかは知らんが。
しかしその理屈が正しいかどうかは今は問題ではない。
おっと、自己紹介が遅れてしまったな。
私の名は<クォ=ヨ=ムイ>。人間が言うところの<神>、いや、どちらかと言うと<邪神>と呼ばれる存在か。
本来ならば、宇宙そのものを消し去ったり生み出したりもできる超・超高次元の存在なのだ。
もっとも、今はしがないゴキブリだが。
人間の場合、このような事態に直面してはパニックに陥り、しばらくの間は状況把握すらままならんだろうが、私のような者ともなれば、このくらいははっきり言って日常茶飯事なので、別に慌てることも狼狽えることもない。
しかし、さすがにゴキブリは、思い出せる限りでは初めてだ。
まったく。何者の仕業か知らんが、やってくれる。
だが、私は、それを躱し、再度男を見た。明らかに<普通のゴキブリ>ではない。なにしろ私なのだからな。
と言っても、思考が私のままなのと、動いた時の感覚から推測するに通常の約三倍の速度で動けるというだけのようだが。
『…やはり無理か……』
試しに<力>を使ってみようとしたが、発現する気配はまるでない。
なぜこんなことになっているのかは分からんが、取り敢えず限定された条件で対処するしかないということだ。
それでも、分かっていることはある。
私が本当に<ゴキブリ>になってしまっている訳ではないということだ。
どうして分かるのかって?
簡単だ。そもそもゴキブリにこんな思考ができるわけがなかろう。
昆虫の神経系の仕組みとしてこういう思考ができるようにはなっていない。
にも拘らず思考だけは普段通りにできているのだから、私の体が実際にゴキブリに変化しているのではないということの証拠に外ならん。
ということは、どこかの時点で認識がすり替えられているのだ。私の体とゴキブリのそれとが。
となれば今頃、<人間体>としての私の体はゴキブリが自分の体として認識しているということだろう。
が、それについては心配はしとらん。ゴキブリに人間の体が制御できるわけがないからな。このゴキブリの体とて、普通の人間が同じようになれば、自身のそもそもの体との感覚の違いから、まともに動かすこともできんだろうし。
本来は人間ではない私だからこそ、<人間の体の感覚>に囚われることなく動かすことができるのだ。
おそらくその辺りにより、通常のゴキブリが発揮することのできない完全な全力を出すことができるから三倍の速度で動けるのだろうな。
正解かどうかは知らんが。
しかしその理屈が正しいかどうかは今は問題ではない。
おっと、自己紹介が遅れてしまったな。
私の名は<クォ=ヨ=ムイ>。人間が言うところの<神>、いや、どちらかと言うと<邪神>と呼ばれる存在か。
本来ならば、宇宙そのものを消し去ったり生み出したりもできる超・超高次元の存在なのだ。
もっとも、今はしがないゴキブリだが。
人間の場合、このような事態に直面してはパニックに陥り、しばらくの間は状況把握すらままならんだろうが、私のような者ともなれば、このくらいははっきり言って日常茶飯事なので、別に慌てることも狼狽えることもない。
しかし、さすがにゴキブリは、思い出せる限りでは初めてだ。
まったく。何者の仕業か知らんが、やってくれる。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる
書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。
鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。
だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。
その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。
俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。
ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。
なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる