Gの愉悦

京衛武百十

文字の大きさ
51 / 92

小金持ちの見栄

しおりを挟む
どうやらこの<義手の男>は、この感じで淡々と自らの人生を全うするのだと判断できたので、私は他の奴らの様子を窺うために移動する。

途中、燻蒸式の殺虫剤を自室で使った奴がいて、私がいたパイプの中まで殺虫剤が侵入、そのルートが使えなくなったりということもあったが、何とか回避できた。

一度にあちこちの部屋でそれを使われると、完全に移動用のルートが断たれる可能性もあるので、それは勘弁してもらいたいな。

などということを考えつつ、さらに下へと移動する。

そこは、最下層だった。

下へ下へと施設を拡張していったことでノウハウを蓄えられたのだろうことが窺える、それまでとは精度の違う作り。

空気清浄器の性能もいいのか、明らかに綺麗な空気が保たれている。

そして、気温も快適なそれだ。だとすれば当然、権力を握った奴らが住む区画となる。

もっとも、各部屋の作りそのものは、広さこそ確保されているものの、豪華な調度品などが揃えられているわけでもない、はっきり言って<質素>なそれだった。

精々、いくつか、かつて地上に暮らしていた頃に作られた物であろう、ここの連中にとっては<アンティーク>とも言えるクローゼットやチェストやソファなどが、『せめてもの贅沢』とばかりに備えられているだけだった。それ以外のものは、ここで作られたものと思しき『実用一点張り』の愛想もクソもない家財道具一式だから、<コーディネート>という面で考えれば酷いものとも言える。完全な、

<小金持ちの見栄>

といった風情だ。

なにしろ、クローゼットなど、見た目には実に安っぽい、<スチール製のロッカー>そのものだぞ? 私にとってはなんともちぐはぐな印象しかないものの、ここの連中にとってはこれでも大変な贅沢なのだろうな。

そしてそこに住む者共も、贅沢三昧で肥え太ったいかにもな<権力者>という風情ではなく、

<木端役人>

という表現があまりにもピッタリな、貧相な公務員風だった。

こいつらも、結局、実務のみを追求した結果、この感じに落ち着いたのだろう。

それこそフィクションの悪役に出てくる偉そうで傍若無人な<支配者>風であれば絵的にも見栄えしそうなんだが、これでは<憎まれ役>としても物足りん。

で、仕事を終えたらしいその木端役人の部屋に別の木端役人が招かれて、歓談しているところだった。

「このソファは、先日、住人が亡くなった邸宅のものでしてな。二十世紀末のドイツ製で、とてもいい物なのです」

「それはそれは、幸運でしたな。私も是非あやかりたいものです」

などと、実に小物らしいやり取りをしておったわ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

鬼の兵法伝承者、異世界に転世せしむる

書仙凡人
ファンタジー
俺の名は桜木小次郎。 鬼一法眼を祖とする鬼一兵法の令和の伝承者。 だがある時、なぜか突然死してしまったのだ。 その時、自称神様の変なペンギンが現れて、ファンタジー世界の転生を持ちかけられた。 俺はヤケになって転生受け入れたら、とんでもない素性の奴にログインする事になったのである。 ログイン先は滅亡した国の王子で、従者に毒盛られて殺されたばかり。 なにこれ? クーリングオフねぇのかよ!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...