Gの愉悦

京衛武百十

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命あるものすべてが

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雄の精を受け取り、私の腹の中にある<卵>がそれを確実に取り込んだことを感じ取り、私はいよいよそれを生み出す段階を迎えていた。

この種のゴキブリは、<卵鞘らんしょう>と呼ばれる、いくつもの卵を内包したカプセル状のものを生む。

よく誤解されているようだが、卵を産んだからといってそのまま死ぬわけではない。普通の雌は、生涯のうちに複数回、産卵をするのだ。

しかし、私の体となっているこのゴキブリは残念ながらその機会を逃してきた。私が人間の観察などに時間を費やしてきたからだ。

これについては、正直、申し訳ない気分にもなる。

なるが、だからといってそれに囚われることがないのも私という存在だ。一回だけとはいえ生んでやるのだから、ありがたく思え。

と、私がそんなことを考えている間にも、ゴキブリとしての私は、自身の体と比べたら大きすぎるとも言える卵鞘を体外へと送り出そうとしていた。

が、でかい。これがとにかくでかい。だから負担も決して軽くない。人間の出産も命懸けだが、こちらはこちらでなかなか大変だぞ。

こうしてようやく、床下の隙間に卵鞘を生み付けることができた。

人間にとってはとんでもない話でも、ゴキブリとて生きているのだ。この世界には、人間だけが生きているのではない。

このようにして命を繋ごうとするのは、命あるものすべてが持つ<宿願>ではないか。

正直、今の私にとっては実に<大変>ではある。だが同時に、何とも言えない充実感もある。

メリメリと体を軋ませながらでかいものがゆっくりと送り出される感覚は、人間として子を産んだ時のともさすがに違っているがな。

そしてようやく、ずるんっという感じで卵鞘が完全に体外に出た。

「はあ……やっとか……」

それが嘘偽らざる感想である。

達成感もありつつな。



「さて、この体の持ち主への義理も果たしたことだし、いよいよ体も限界だ。となれば、私自身の欲求を叶えさせてもらう」

ゴキブリのコロニーを後にし、私はあの部屋を目指した。

永遠に暇潰しを続ける私にとっては、世界を救うことも、ゴキブリの体で人間に戦いを挑むことも、大した差はない。そんな私の感覚を人間が理解できるはずもないだろう。

だから理解などしてもらう必要もない。ただただ私は行く。

己が望むものを得るために。

私は、傲慢で傲岸で強欲で不実で邪悪で我儘なのだ。

男にとっては迷惑千万だろうが、知ったことではない。

妙な安心感もある洋館の廊下を、私は駆け抜ける。奴の下へと。

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