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青雲編
第15話 激戦、池田屋Ⅲ 白刃と恋
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祭り囃子がコンチキチンと響き山鉾に提灯が灯される。
提灯に照らされた山鉾見物の人出でごったかえす町を近藤隊は祇園から四条大橋を渡り鴨川の西側へ向かう
土方隊は東側にある旅籠屋や先斗町、宮川町に多数ある料亭をしらみつぶしに当たる。
近藤の後に続いて平助も走る。
探索する旅籠屋につけば先に立って案内を請うた。
出てきた旅籠屋の主人に「新選組の御用改めです。 宿にいる皆さん、客人も働き手の方々も御用改めの間はその場を動かぬように。 不審な動きをすれば斬り捨てる場合もありますのでご承知おき下さい。 」
「やっぱり、魁先生だなぁ…… 」沖田が少し笑うが平助にはそれに笑って返す余裕は無い。
もうすでに五軒回っている。
すべて空振りで本当に今日が決起のために集まっているのかも『確実ではない』とくれば焦りの気持ちが出てしまう。
四条から北へ上り ようやく三条大橋の西のたもとへ到着した。
ここから一番近いのは池田屋という大きい旅籠屋である。
池田屋といえば……
主人の惣兵衛が桝屋によく出入りしていた。
ようやく当たりか?……
あれほど鳴り響いていたコンチキチンというお囃子が急に遠く感じる。
平助が緊張した面持ちで近藤を見る。
枡屋監視担当だった平助から池田屋の主人の不審な行動についての報告を聞いていた近藤が頷く。
と、池田屋の物陰から監察の山崎がひょいと出てきた。 監察方は実働部隊より先に出発し各々町を探索していたのだ。
「局長……どうもここが本星みたいです。 裏手にこないだ枡屋から押収して奪取された銃の束らしいもんが積んでありました。 」
「山崎君、確かか? 」
そのやり取りを聞いた永倉はもちろん、さすがに沖田にも緊張が走る。
『踏み込みますか? 』というように平助が近藤に目で問いかける。
近藤は「ここは……私が行こう 」
平助は頷くと近藤のすぐ後ろに控える。
池田屋の格子戸を力強く引き開けると池田屋の主人、惣兵衛が「すんまへんなあ。 今日は貸し切りどすんや……あっ 」
ゴマをするような声を出していたが近藤の顔を見て固まる。
惣兵衛が近藤の顔を仮に知らなかったとしても隊服で新選組とすぐわかったはずだ。
「新選組、御用改めである。 」近藤に続き平助や沖田も池田屋に上がり込む。
惣兵衛は腰を抜かしかけながらも這うように階段の下まで行き二階へ声をかける。
「お二階の皆さん、 御用改めでございますっ 」
そんな惣兵衛を突き飛ばし二階へと駆け上がる近藤。 転がる惣兵衛をぱっと飛び越え、永倉が後に続く。
二階では「新選組が来たぞ! 」長州や肥後なまりの声が騒ぎ襖を蹴破る音やバタバタと走り回る足音が響く。
階段まで様子を見に出た肥後なまりの男を一足踏み込んだ近藤が斬り倒す。斬り倒すと部屋の奥へ逃げこむ浪士達を近藤、永倉が追う。
一方そのすきをついて階下へ降りてくる者にたいしては平助と沖田が待っている。
数人の浪士たちがそんなに高くない二階の手すりを乗り越え土間へ飛び下りるが『外へは逃がさない』と刀を抜いた平助が前を塞ぐ。
浪士たちは沖田の刃も避けるように入り口はあきらめ奥の庭から逃げようと思ったのか部屋の奥へ走り出す。
平助もすぐ後を追って奥へ進む。
惣兵衛が言ったように今夜は貸し切りだったようで他の客らしき姿が見当たらないことに少しだけ安堵する。
二間ほど向こうの部屋まで追うと数人が刀を抜いて立っており平助を睨んでいる。
待ち伏せされたか……
平助は刀を握りなおし浪士達との間合いと天井の高さを推し測る。
天井はことさら低い、このような乱闘を避けるため京では天井を低くしていると聞いた。
「構わん、 押し包んで斬れ 」
「新選組言うても人数は少ない。 こちらのほうが人数は多い 」
浪士達も天井を気にして中段か脇に構えている。 平助は刀を下げたまま視線を走らせ相手の構えを確認する。
中段、中段、脇構え……中段、中段
五人……乱戦に持ち込めば狭い室内のこと。味方同士で刃を避けあわねばならず逆に相手方に混乱をもたらすことができる。
が、 俺も無傷ではいれないだろう……
「おとなしく捕縛につかない場合、斬り捨て御免の御用改めですが……ご理解いただいてるということで、」
言葉をいったん切ると刀を左手に下げたまま一歩踏み込みすばやく手首を返すと右手を添え、左に立つ男の胴を右へ向かい払う。 血を噴きながら男が倒れる。
「……よろしいでしょうか 」息も乱さず続けた。
そのまま間髪おかずに右へ飛んで自分と同じように胴を狙いに来た相手の刀を受け、なぐように跳ね飛ばす。
刀を飛ばされ「あ…… 」という顔を相手がするのと平助が小手を打ち落とすのとほぼ同じだった。
「腕がっ腕が…… 」相手が転がりながら泣き叫ぶのを聞きながら残りの三人とじりじり間合いを詰める。
今、山崎さんが土方さんの隊を呼び戻しに走ってるが到着まではまだ時間がかかるはず……
会津様の兵も動いていない
浪士達が言うように人数では絶対俺たちが不利だ……
早く終わらせないと……早く……
二階からは時折、近藤と永倉の気迫に満ちた怒声が響いてくる。
「あの二人は大丈夫そうですね…… 」気づくと沖田が平助の横に滑り込むように現れ笑顔を向ける。
その時二階から難を逃れた浪士たちが数人、新たになだれ込んできた。
「……まずいですね 」平助が沖田に声をかける。
「あれあれ~ですねぇ…… 」のんきそうな声の沖田だがその目は真剣である。
二人で背中を庇いあい平助がもともと部屋にいた三人と、沖田が新たに流れ込んできた浪士達と対峙する。
三人はかわるがわる打ち込んでくる。 鍔迫り合いになり体当たりで押し返すとまた別の男が斬りつける。
きりがない……
平助がうんざりした時、浪士の一人が先ほど平助が斬り倒した男の死体につまずいた。
すかさず右手を伸ばしその浪士の喉を突く。
恨みがましい目が平助を睨みながら倒れる。
平助は素早く男の喉に刺さった刀を抜いた。
隙を作れば自分がやられるだけだ。
あと二人……後で来た奴らは沖田さんが片づけてくれるはず
が、その沖田が平助の後ろで突然咳き込む
「……沖田さん? 」平助は刀の切っ先を相手から逸らさず少しだけ沖田を振り返った。
沖田はさらに激しく咳込みその場に崩れ落ちた。
隙ができた、と見たのか一人が踏み込んできたのを身体をひねって交わし胸元を突く。
相手が倒れたのを見てとるとそのまま平助は沖田のそばへしゃがむ。
「沖田さんっ 」
「今だ! 逃げるぞ 」一人が叫ぶと浪士達はそれが得策と思ったのであろう。みなが次の間へと姿を消す。
「大丈夫ですか。 沖田さん…… 」
顔を上げた沖田の口元が血だらけになっている。
「どこかやられたのですか…… 」
なおも咳が止まらない沖田が咳をするたびにゴボッと口から血を吹く。
「……! 」
平助は懐から懐紙を取りだして沖田の口元に添えてやる
沖田はその手を払うと「平助さん…… 私には構わず早く追ってください。 逃げられてしまいます、ゲホッゴホッ 」
「でも…… 」
沖田に肩をつかまれる、思いのほか力強い
「みすみす敵を逃がすんですか……士道不覚悟だなぁ 」
そのまま早く行けというように沖田に肩を押される。
考えてる時間は無い。 平助は頷くと立ち上がり浪士たちの後を追う。
突入してからどれだけ時が経ったのか、刃こぼれは大丈夫か、浪士達はまだ何人残っているのか……
部屋の中は蒸し暑いが平助の心と五感は冷たく研ぎ澄まされていく。
押し入れの中でわずかな音がした、気がする……
そっと押し入れに近づく、押し入れの襖の引手に手をかける。
突然襖がバンという音ともに平助のほうに倒れてきた。 すんでのところで床を蹴って後ろに大きく飛び退る。
押し入れから出てきた浪士が平助に背を向けた。
逃げる気だ……
「待て……! 」平助が呼び止める。
浪士は脛に軽い切り傷を負ってるらしく逃げ遅れたようだ。
平助は腰を沈め左足を少し引くと刀を構える。
そんな平助を見て逃げようとしていた浪士の気が変わったらしい
「ふん……こうなったらせめて幕府の犬の一匹でも斬り殺してくれる 」
浪士も刀を構える
「京の町を焼き討ちする……それが流行りの攘夷志士だというならば私は犬でかまわない 」
静かな怒りを湛えた瞳で浪士を見すえる
浪士は間合いを測るように詰めては少し引く。
平助は引くことなく詰めていく。
浪士が平助の動揺を誘うように口を開く
「どうだ? おもしろいか? 犬として生きるのは…… 」
「ずいぶんとおしゃべりですね……最後の話し相手が私で申し訳ないです 」
平助はツツとさらに詰め寄る
このまま腕を思い切り伸ばして突きを入れるか
刀の切れ味が少し鈍ってる気がするから斬るより突きがいい
平助の目が白刃のきらめきを受けて光る
相手がさらに一歩ひきながら
「お前たちは国家国事を論ずる知恵も無く『人を斬る』ことしか能がない。
馬鹿で時代遅れ供の集まりだ! 」
「…… 」平助は目を伏せる。
人を斬る……それしかできない
「だったら? どうだというんです? 」
平助は伏せた目を上げた。
刀を構えたまま飛び上がり相手の顎を思い切り蹴り飛ばした。
てっきり斬りかかってくると思っていたようで浪士は顎を直撃されそのままのけぞるように倒れこむ。
その懐へ素早く入り込み刀を逆手に持ち突きつける
「……逆に教えてくれませんか。
人を斬るのがそんなに簡単なことなら……どうして人を斬るたびにこんなに苦しいんでしょうか 」
だが相手はその質問に答えることはできなかった
平助の刀はすでに男の身体を貫き絶命させている
刀を抜き取り大きく息を吐く
人を斬る時には封印しているはずの感情、それを乱された……
どっと疲れが押し寄せるのを感じ右手だけで鉢金を乱暴に外すと放り投げその場に座り込む。
左手はこわばり柄を握り締めたまま指を開くことができない
そのまま血を吸った畳に手をつき荒い息を吐く
その時、この部屋の向こうへ続く襖がそっと動くのに気づく
襖を見つめる
白く光る刃先が突き出された、暗くて顔は分からない
次の瞬間、白刃が旋回するように平助を襲う
とっさに身を回転させるが無言の相手から第二弾の攻撃が来る。
まだ残ってるやつがいたのか……
伸びてくる刃先を避けようと刀を持ちなおそうとするがこわばった指が間に合わない
立ち上がろうとした時、
目の前で火花が散るような衝撃を額に受け、自分の前髪がパラパラと幾筋か散るように落ちていくのを見た。
それからようやく痛みを自覚し同時に血が噴き出し顔を流れていく
なんとか動きを取り戻した左手で刀を握りなおすが相手は平助に致命傷を与えたと思ったか。
すでに立ち去ってしまっている。
力が……入らない
溢れる血の量が多すぎて目に流れ込んだせいで目もよく見えない
俺は……死ぬのか……
……それも悪くない
この苦しみからやっと解放されるなら……
よく見えない目を開けていることも苦痛でしかない
そっと目を閉じると平助の意識は闇の底深くに墜ちていった……
[2]
「ああ、なっちゃん。 えらい目おうたわ 」
「どないしはったん…… 磯吉はん 」
今夜は祇園会、 山鉾見物に人を取られるせいで客はほぼ来ないだろうと思っていた名都は馴染みの客、磯吉の来店に慌てて化粧をしたのだった。
磯吉は名都に気があるようで安いものではあったが簪を送ってくれたりたまに冗談めかして『なっちゃんと一緒になれたらええなぁ 』などと言ってくる。
「お祭りどないやったん? 山鉾見物行かはったんやろ? 」
薄い布団にうつ伏せに転がる磯吉の横に座る。
「いや、 それが…… 新選組の大きな御用改めがあったんや 」
新選組と聞いて名都の笑顔が曇るが磯吉は気づかない
磯吉の話によると三条にある池田屋に集まっていた浪士たちと新選組が乱闘となり
祭りの人出でにぎわう中、三条大橋のあたりでも逃げてきた浪士と追ってきた新選組の斬りあいになる。
野次馬や騒動に巻き込まれたくない祭りの見物客らが右往左往しているところに
会津の兵も集まってきて四条あたりまで大騒ぎになっているとのこと。
「新選組の見回りは見かけたことがあるけど今日みたいなんは初めてや。 死人もようけ出てるみたいやし。 ほんま壬生浪は恐ろし…… ちょっと、なっちゃん聞いてるんか? 」
……浪士達と乱闘? 会津様までご出動やなんて……
死人もたくさん出てる……
名都は夕方、突然店を訪れた平助を想う。
ずいぶん切羽詰まった様子の平助に戸惑い、その身勝手さに腹を立て追い返してしまった。
あの時…… もう今夜の出動が決まってたんや
だから……
だから………
『明日、逢ってほしい 』そう言った平助の真剣な眼差しは死も覚悟していたのか
そうやったん、 平助はん……
だから逢いに来てくれたんや……
それやのに……
自分の態度は冷たすぎた、名都は後悔の気持ちでいっぱいになる
「磯吉はん、堪忍 」名都は立ち上がると部屋を飛び出した。
後ろで磯吉が何か叫んでいたが構わず階段を駆け下りそのまま店の外に飛び出した。
途中で草履の鼻緒が切れる
こんな時に!……
名都は草履を脱ぎ棄て裸足のまま駆ける
[3]
山崎に呼び戻された土方隊が人込みをかきわけながら池田屋にようやく到着した頃、 会津藩兵も池田屋に集まり始めた。
土方が池田屋の前に立ちふさがり会津藩兵が中へ入ろうとするのを押しとどめていた。
「不逞な輩の取り締まりに会津様のお手を煩わせては申し訳ない。
ここは新選組にお任せいただこう 」
言葉つきだけは柔らかいが凄みのある目でひと睨みされ会津藩兵たちは
池田屋からかろうじて脱出した浪士達を捕縛したり負傷した新選組隊士の介護にまわる。
その様子に納得したのか土方は二階へ駆けあがった。
二階の一番手前の部屋で近藤と永倉が座り込み平隊士たちがかいがいしく水を運んだりしている。
「歳、 遅かったじゃないか 」
近藤が手を上げる、 その手に自分の手をパチンと打ち合わせると土方は周りを見渡して呆れた顔をする。
「よくもまあ……これだけ斬ったもんだな 」
「なぁに……半分は新八だよ 」
永倉も土方に向かって軽く手を振る
「土方さん、おっ! 左之助もいるのか…… 」土方の後ろからひょいと原田が顔を出していた。
「あとはよろしく。 もうそろそろ限界なもんで…… 」
永倉が振った手を見るとかなり深い傷を負っている。 その横で平隊士が血止めの油薬を用意していた。
「新八、さすがだな。 よくその傷でここまで戦った……でも少しくらい俺らに残しておいてくれよ。
集まっていた浪士はもう怪我人くらいしか残ってねえんじゃね? 」
原田が不満そうに槍を構えて見せる。
そんな原田の肩を叩きながら土方が「左之助、 残ってる浪士がいないか探せ。 天井もな…… 」
「はいはい…… 」
原田を見送ると土方がふと思いつたように「近藤さん、 総司と平助は? 」
[4]
意味もなく胸騒ぎを感じながら一階に降りた土方が「総司! 平助っ! どこだ?…… 」
池田屋に到着してからまだ二人の顔を見ていない……
土方隊に参加していた八番隊の新田が「藤堂隊長っ、どちらですかぁ 」と叫びながら土方の横をすり抜けて行く。
新田の様子にいよいよ不安になり土方が歩を速めた時、
「土方さん…… 来てたんですね 」
向かいの部屋の襖から沖田が顔を出す。
沖田の顔の下半分から胸元まで血に染まっている。
「総司! どこをやられた? 」
土方が沖田を支えるように肩を貸し顔を覗き込むと沖田はかすかに笑顔を見せた。
「どこもやられてませんよ…… 」
口の中にたまった血をぺっと吐き出す。
「がんばりすぎちゃったかなぁ…… 返り血がひどい 」
疑わし気な土方の視線を避けるように沖田は土間のほうを見て
「水…… 飲みたいなぁ 」
「戸板を用意させる。 ここで横になってろ 」
「……大丈夫です、 一人で歩けますって…… 」沖田は土方のほうを振り返ることなく静かに土間の水瓶のほうへ歩いて行った。
あとは…… 平助か
「藤堂隊長っ! しっかりしてください! 」奥から新田の叫ぶ声がする。
平助? 土方は慌ててそちらへ向かった。
「新田、 どうした? 」
新田が平助を抱き起し叫んでいる。
「どけ! 」土方が新田を押しのけ平助の身体をかかえる
「平助っ! 」
平助の額に一筋の刀傷がある、傷から流れた血はすでに固くこびりついている
「平助、 しっかりしろ。 死ぬな 」
土方は顔を平助の口元に近づけまだ息があるのを確認し、ほっとする。
「新田、 戸板の用意を早く! 」
「はいっ」
泣きながら新田が走っていくのを見送ると
いつからそこにいたのか立ち尽くす三浦と目が合った。
三浦は土方から目を逸らし倒れている平助を見つめる。つぶやくように「藤堂隊長は?…… 」
「見ての通りだ…… 他にも負傷者がいないか探してくれ 」
同じ八番隊でも泣いて取り乱す新田と冷静な三浦…… 対照的だな
別にどちらが正しいということも無い
土方は平助に視線を戻す。
……死ぬなよ、 平助
戸板を持った新田と山崎が戻ってきたので場所を譲る、山崎が手際よく薬を塗り込むと平助の額に包帯を巻いていく。
土方がぐったりした平助を抱え戸板にそっと寝かせ傷に触れないようにそっと頭をぽんぽんする。
「平助…… よく頑張ったな 」
二階から降りてきた永倉と原田も戸板の側に集まる。
「平助、痛々しい姿になりやがって 」原田が鼻をすする
「さ、歳さん 」 平助の他にもいる重傷者数名の戸板の手配を整えた井上が土方を促した。
近藤も一階に降りてくると集まった隊士に号令をかける
「よし! 皆、凱旋といこう 」
[5]
池田屋を取り囲む会津の藩兵が花道のように道を開け、藩兵が持つたくさんの提灯に照らされた花道は輝くように明るい。
誇らしげに胸を逸らせた近藤を先頭に新選組隊士たちがあとを続く。
人目を避けるように咳込んでいた沖田が一人で歩けると嫌がったが土方は無理やり肩を貸し、平助の戸板を守るように横についている新田はまだべそをかいている。
一緒に付き添っている原田が新田に誘われたかのように涙をぬぐい
永倉が包帯を巻いた手で軽く平助の胸をとんとんしている
沖田が土方をそっと見る
「……平助さんは大丈夫ですかね。 私が平助さんを行かせちゃったんです 」
軽く咳をする沖田に
「ばかやろ…… お前は自分の心配をしてろ 」
「おい、近づいてはならん!」突然、怒声が響き土方は歩を止めた。
周りに押し寄せる野次馬と会津藩兵の間を縫って新選組の隊列に近づいた者を制止しようとしているようだった。
「知り合いの人がいてるんです。 通してください 」
その声に顔を上げた新田が気づく
……あの人は、藤堂隊長の……
「通してやれ 」新田が声をかけ名都を側へ呼ぶ。
名都は転がるように平助の戸板にすがりつき平助の手を取る。
額に包帯を巻かれ目を閉じる平助の姿に胸が張り裂けそうになる。
「平助はん、 起きて……死んだらあかん。 いやや、 目ぇ覚まして 」
涙で顔をくしゃくしゃにしながら
「堪忍して。 前に浪士がお店で暴れて助けてくれた時も……
今日も逢いにきてくれたのに冷たくしてしもうて堪忍して。
うち、 ほんまは逢えてうれしかったんよ。 でも祇園の女ひとにやきもちやいてたんどす。
だからずっと冷たくしてしまったん。
ちゃんと謝りたいから死なんといて……うち、平助はんのことが好きなんや。
大好きなん……大好きなんどす 」
ふいに手が伸び名都を引き寄せる
ゆっくりと身体を起こし泣き顔のまま驚いている名都に顔を近づけ静かに唇を重ねた
そっと顔を離すと平助は弱々しく名都に微笑み、疲れ切ったようにまた戸板に横になってしまう。
「え?! 」
周りにいる隊士たちがざわめく
土方の肩を借りていた沖田が土方を肘でつつくと
「わぁ…… 平助さん、やるなぁ 」とにやにやしている
「ったく…… 」土方は苦虫を嚙み潰したような顔でざわつく隊士らに「騒ぐんじゃねぇ。 隊列を乱すな 」言い捨てると沖田をせかすようにとっとと歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。 土方さん、 私は暑気あたりで体調が優れないんですからもっといたわってくれなきゃ」
「うるさい……お前も平助も心配するだけ大損だ! 」
「平助はん…… 」名都が平助の手を握る
横になったままの平助が名都を見つめている
「……もう生きた心地せえへんかった 」
「名都さん…… 」
「ほんまに……もう。 うちがしゃべってるのいつから聞いてたんどす? 」
「……『好き 』とか、そのへんから…… 」
「意地悪……やっぱり嫌い 」
「かまいません…… さっき本当のことを教えてもらいましたから 」
名都に握られた手……平助が握り返す
こうして新選組の名前を世に知らしめた池田屋事件の夜は更けていく……
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時代小説大賞、お疲れ様でした!月雨が書籍化してもっともっと世の中に広まってみなさまの愛読書になりますように……!( *´艸`)
マクスウェルの仔猫様
応援本当に励みになりました😊
ありがとうございます
大好きな藤堂平助さんの作品が書籍になったらこんな嬉しいことはないです♡
後半一気読みしてしまいました(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
こちらではここまでだったんですね!改めて読み返しましたがやっぱり何度読んでもいい!😤
幕末という激動の時代の中、誰もが恐れる新撰組がいた、という部分を掘り下げつつも……人間模様、恋心、そしてキャラ達のそれぞれが抱える思いといった心理描写、そしてノスタルジックで美しい情景にワクワクし、また何度読んでも涙せずにはいられません😭
そしてそれは凛花先生の新撰組愛、平助愛から生み出された情熱と想いの証ということをしみじみと改めて感じました🥰
時代小説大賞、ラストスパートですね!めちゃめちゃ応援しています!頑張って下さい!
マクスウェルの仔猫様
こちらでも最後まで読んでくださいましてありがとうございます🙏✨🙇♀️
いつか出版社からでなくても時分で書籍化することがあったらここで区切って1巻、という感じがいいかなと思っていたので
このような感じになりました
歴史小説大賞が終わったらまたこの後のお話を区切りのいいとこまで続篇として公開したいと思います
新選組という時代の徒花とも言う存在
でも確かに隊士たちは生きて悩んで
真剣な恋もしたと思うんです
そんな等身大の彼らの悩みや苦しみに寄り添って
喜んでくれたり泣いてくださるマ猫様の応援いつも励みになります
大賞あともう少しなのでなんとか今の順位をキープできて終われたらいいなと思います
じんわりほっこり大賞も楽しみですね
※ネタバレ注意でお願いします🙏
11ページ目、どうしても感想を書きたくなってしまいました😭
平助と馴染みがあった仙三さんの悔しい気持ちはわかるんです。わかるんですが、名都ちゃんが悲しむからそのくらいでやめてー!😭と胃をキリキリさせながら見てました_(:3 」∠)_
そして後半。
愛する人に1番見せたくない姿を見せてしまった平助と、愛してはいても平助の側にいる事が選べない名都ちゃんの振り絞るような言葉。
あまりにも切なくて泣けてしまいました😭
マクスウェルの仔猫様
わぁこちらでもご感想すごくうれしいです♡
ありがとうございます🙏✨
仙三さんは人はいいけどちょっと空気読めないというか💦
なっちゃんにとっては辛くて聞きたくない話でしたよね😭
ほんとに心の中では泣いてたでしょうね
なっちゃんと一緒に泣いてくださり
感想まで寄せてくださり
本当にマ猫様の優しさに感激です
ありがとうございます