月の夜雨の朝 新選組藤堂平助恋物語 【青雲編】

凛花

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青雲編

第14話 激戦、池田屋Ⅱ 平助と名都

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 [1]

 

 平助はぼんやりと目を開けた。

 木目にシミの浮いた天井が視界に入る。



 ……いつも天井のシミが人の顔に見えて気になっていた。



 そのシミの顔が自分を見下ろしているのだから屯所の自室に寝かされてるってことか……



 土蔵で土方さんに代わり木刀を握った俺は……



 まだくらくらする頭で少しづつ倒れる前のことを思い出す。



「平助、 気づいたか? 大丈夫か…… 」

 永倉と原田が布団の横にちょこんと座っている。



「いきなり土蔵の中で倒れたって聞いたぜ。 

 なんでか俺が呼ばれてお前をここまで負ぶってきたんだ。世話焼かすなよ 」原田がぶつぶつ言う。



 心配していたことの照れ隠しでわざとぞんざいな口の利き方をしている。

 そんなことくらい江戸からの長い付き合いでわかっているよ、左之助さん……



「すみません、 心配かけました 」



「ただでさえ暑いのにあんなとこにこもってりゃ暑気あたりもおこすってもんだろ、 馬鹿か! 」

 まだ小言のようにぶつくさ言っている原田を永倉が制する。



「ま、そう言うなって…… これ、土方さんから 」永倉が起き上がった平助の目の前に盆を出す。



 盆には白湯の入った湯飲みと小皿に黒い丸薬が三粒ほどが置かれている。



「それって…… 石田散薬? 打撲に効く薬ですよね 」平助は苦笑する。



 まったく、土方さんはいつでもなんでも『薬』と言えば石田散薬で済むと思ってるんだから……



「……まあ、あの人なりの…… 

 そのなんていうか。 気遣い?的なもんだろ。 

 ありがたく飲んどけ 」

「それに事前に飲んでても効果があるらしいぜ。 お前がいらないなら俺がもらってもいいか? 」

「いやしい真似はよせ、左之助 」

 永倉が笑いながら手を伸ばしてきた原田から盆を遠ざける。



 二人のやり取りに久しぶりに気持ちが和み頬をゆるめながら平助は気になったことを尋ねた。

「事前に飲むって? 」



「ああ、古高の放火計画を黒谷へ知らせに行っていた近藤さんがさっき戻って来た。

 今夜すぐにでも奴らの居場所を抑えて、引っ立てることに決まったらしい。 」

「大捕物だな。 わくわくする 」



「そうなんですね…… 」

 まだ顔色の悪い平助に「平助、 体調がまだ悪いと言って外してもらうか? 」

 そう永倉が言うが平助はかぶりをふり「大丈夫です 」と答える。



 その時、障子がそろそろと空いて沖田が遠慮がちに顔をのぞかせた。

「……平助さん、もう起きて大丈夫なんですか 」

「はい…… すみませんでした。 」



 沖田は安心したように笑顔を見せると

「永倉さん、 原田さん、今夜の出動の件ですぐ集まるようにとのことです。 

 あ、 平助さんは……? 」

 平助が承知しているという風に頷くと「では、平助さんも一緒に。 」







 [2]



 隊の道場には出動できそうにない病人以外、幹部から平隊士皆が顔をそろえている。 

 日頃は巡察には出ない事務方の隊士たちも集められ居心地悪そうにすみっこに固まっているのを見て原田が

「しけたツラしてんなぁ、たっくよぉ 」など悪態をつきながら無理やり道を開けさせ前のほうへ歩いていくので永倉も平助も気まずげに後に続く。



 全員が集まったころ合いを見て近藤が会津藩と取り決めた今夜の出動について説明を始めた。

 暮れ六ツに八坂神社の向かい側にある祇園の会所に集合し会津藩と合流する。

 手分けして古高の仲間たちの潜伏先を探索し捕縛、 あるいは刃向かえば斬り捨てと段取りが決まっているという。

 古高の屋敷から見つかった血判状に名前を連ねていたなかには長州の桂小五郎や吉田敏麿、肥後の宮部鼎蔵など幕府転覆に向けて暗躍していると噂の者たちの名前がつらなっていたことで会津藩も今回のことを非常に危惧している。 

 新選組の活躍にも大変期待しているとのことらしく近藤がいつも以上に熱く檄を飛ばしていた。



「集合場所へは目立たぬよう少人数で祭り見物にでも行くか、どこかへ遊びにでも行くようなのんびりした雰囲気で目立たぬようにすること。 

 とにかく今夜が新選組にとって一世一代の大仕事だと思って皆、心してかかってくれ 」



 平助が廻りを伺うと「よしっ! 」とこぶしを作って気合を入れているらしい新田の横で顔色の悪い三浦が座っている。




 ……体調が悪いなら自ら休むように何度も言ってるのに。

 新選組はなんでこう強情な人ばかりなんだろう……そういう俺自身も新八さんあたりから見れば強情を張っているように見えてるかもしれないな



 そう思って平助は苦笑する。



 近藤の話が終わり、土方が前へ出る。

「現在の隊服についてだが……今夜の出動で最後と決まった。 」



 この隊服が最後?

 今では発案者の芹澤のことを知らぬ隊士も増えていたが突然とも思える土方の発言に場が少しざわつく。

 土方は構わず続ける。



「俺たちが今夜、相手にするのは御所や京の町を灰にしようとたくらむような連中だ。

 出動する者はもちろん、屯所の留守を守る者まで全員必ず隊服着用のうえ決死の覚悟で臨んでくれ。

 ……だが、」

「いいな、誰も死ぬな…… 生きて帰れ。 これは命令だ。 」



 京の町の人々だけではなく隊内でもあまり評判が良かったとは言い難かった浅葱色とだんだら模様の目立つ羽織が今夜で廃止になる。



 そして、留守番組含めて全員必ず着用すること……



 本当に今夜が新選組始まって以来の大仕事なんだと皆に緊張感が走る。

 平助は膝の上にそろえた両手を握り締めた。




 解散後は小荷駄方が武具や皆の隊服などを押し車に積み込み祇園会所に運んだり、
 各自鉢金や鎖帷子を用意し少人数で祭り見物でもするかのようにぶらぶらと繰り出していく。




 自分の荷物をまとめ終えた平助はもう一度、手入れのために刀を抜いた。

 刀をかざして切先の刃文を見つめる。

 曇り一つなく美しく輝く刃文は見るものを魅了してやまない。

 会津様に所望されて刀をお目にかけた時も名刀など見つくしているはずの会津様でさえ目を輝かせてこの刀を見ていた。



 顔も知らない父親と俺を繋ぐ唯一の物……愛刀『 上総介兼重 』



 本来なら大名階級でしか持てないその刀は新選組の中でも一番の高級刀として皆からいろいろな噂の種にされている。 

 最近では入隊したばかりの平隊士ですら訳知り顔で『 藤堂先生ご落胤説の証 』と噂しているらしい。

 ただ、噂はしても直接俺に確認しに来るぶしつけな者はいなかった。



 この刀でたくさんの人を斬った……そして俺の命を守ってくれたのもこの刀だ。



 生まれて初めて本当の意味であなたに感謝します……平助は心の中で父親に語り掛ける、顔は知らないのでぼんやりしたままだ。



 今までも経済的な面で感謝はしていた、けど心の奥底では軽蔑していた、そんな父親。

 これから先も会うことは無いんだろう。

 それでもこの刀を授けてくれたあなたの息子でよかったと思っています。




 念入りに刀の手入れを終えるともう一度かざしてみる。



 美しい光を放つ刀



 ……今夜はいつも以上に働いてくれ



 刀を鞘に納め脇差と一緒に腰に差す。





 玄関先で怪我の薬や万が一の屯所襲撃に備えるための指揮を執る留守部隊責任者、山南の姿が見えた。



 山南さんも大坂での怪我が長引いていなければ出動したかったんだろうか……



 それを本人に聞くことはできない

 山南さんの怪我の話はいつのまにか隊内では禁句のようになってしまった




「藤堂君…… 」

 山南が気づいて声をかけてきたので平助は立ち止まる。



「今から? 」

「はい…… 行ってまいります。 」そう言って少し緊張した面持ちで頭を下げた。



 山南に心配そうな目を向けられ慌てて安心させるように刀の柄を掴んで軽く上下させ笑顔を作ってみせる。



「ちゃっちゃとこれで片づけてやりますよ 」



「藤堂君、倒れたと聞いたが出動して大丈夫なのか……? 」 



 平助は頷きながら話を変えるように「……隊服も今夜が最後だと思うと寂しいですね 」



 初めて隊服に袖を通した日を思い出す。



 そういえば羽織の長すぎる紐をどうするのかわからなくてみんな困ったっけ……

 紐の結び方を伝授して回る芹沢のうれしそうな顔……



「無茶はするな…… 藤堂君、 武功に焦って死に急ぐことだけはしないように。 」



「……嫌だな、山南さん。 私はこう見えても新選組四天王と称されてるんですよ。 

 剣にはそこそこ自信があります。 」



「だからこそだよ、 剣に自信のあるもののほうが引き際を逸することがある 」



「…… 」握り締めた両掌が汗で濡れている。



 山南さん、ありがとうございます……言葉には出さず、頭だけ下げた。






 屯所からすぐ坊城通りに出る。



 歩きながら土方の言葉が頭の中で繰り返される

『死ぬな、 生きて帰れ 』



 要するに……死ぬかもしれないってことだ

 誰一人欠けることなく、ここへ戻ってこれるのか

 俺のなすべきこと……今夜も誰より先に斬り込めばいい

 それが皆を守る盾になる

 余計なことを考える必要は無い……



 そう、それでいい……




 どうせ祇園へ向かうんだから猫の顔を見ていこう



 あんなに見たがっていた山鉾見物も一緒に行ってやることもせず。



 いつまでも名都への気持ちを引きずっていたせいで

 俺にとって自分はどうでもいい女、などと思わせてしまっていた。



 気まぐれに会いに行ってただ抱くだけ……



 それでも一度だけ二人で京見物へ行ったら、とても喜んでいた猫




 今夜の仕事から生きて戻ったら……



 前に猫と約束した休息所を持って、そこへ猫を呼ぼう



 非番の日にはまた二人で町へ遊びに出る



 そんな生き方も悪くない



 まあ、それもこれも生きていたら……の話だが。




 坊城通りを北へ向かう。



 歩きながらも土方の『死ぬな 』といった声が頭の中で浮かんでは消える




 ふと足を止める。 来た道を振り返る。



 生きていたら……



 次の瞬間、平助は駆けだしていた。



 坊城通りを北へ行くと四条祇園方面、南へ行けばその先は……島原



 何も考えられなかった

 体が自然と南へ走るのを止めることはできなかった……







 [3]



 丸櫛屋の前でのんびり水を撒いていた男衆の仙三は驚いて柄杓を取り落とす。

「と……藤堂はん? えらい慌てはって、どないしはったんどすか? 」



 息を切らして現れた平助に仙三が若干迷惑そうな目を向ける。



「……名都さんはいますか? 名都さんに会わせてください  」



「え?……名月はんどすか? あのぉ、今はちょっと…… 」

 口ごもる仙三を押しのけるように平助は丸櫛屋の暖簾をくぐった。



「ちょ、ちょっと藤堂はん…… 」

 仙三が押しとめようと大声を出す。 



 店の女将が何事かと姿を見せた。

 仙三と押し合いへし合いしている平助を見とがめる。



「たしか新選組の……藤堂先生どしたな。 これは何の騒ぎどす? 」



 平助は仙三をやっと押しのけ「失礼する 」女将に声をかけ店の奥へ進む。



「名都さん! 」

「藤堂はん、どないしはったんどす? やめとくれやす 」

 なおも平助を止めようと後ろから羽交い絞めにしようとする仙三を振り払い名都の部屋のある二階への階段を真ん中まで上がった時、二階の一番手前の襖が開けられ怪訝そうな顔をした名都が顔を出す。



「……名都さん…… 」



「藤……堂はん…… なにしてはるんどす? 」



 赤い襦袢を一枚羽織っただけの名都が階段の下り口に立って平助を見下ろす。



「突然すみません…… 」

「何しに来はったんどす? 」



「明日…… 」平助の瞳に決意が揺れる



 ……生きていたら



「名都さん。 明日、もし…… 」階段をゆっくり上がる



 もし、俺がまだ生きていたら……



「逢ってください。 壬生寺で待ってます。 」



 名都がため息をついた



「……無茶言わんといとくれやす。 急になんなんどす? 

 不逞浪士を取り締まる立場の新選組のかたが不逞浪士みたいな無茶苦茶しはって……

 どういうつもりなんどす? 」

 名都は目に怒りをにじませて平助を見つめる。



「すみませんでした。 でも、どうしても明日逢ってほしい 」



 名都は一瞬目を伏せたがすぐに目を上げる

「お断りします 」



 名都が出てきた部屋の襖から『何事か?』という風に男が顔を出す。

 平助の顔を見知っていたのか「あ! 魁先生 」と小さく叫んで慌てて顔をひっこめた。



「今はお客はんもいてますのや。 

 お話してる時間も無いし、明日も逢いません。 」



「名都さん…… 」



「……だいたい誘う相手、まちがってるんちゃいますか?

 島原なんかで遊んでたら祇園の女ひとに怒られますやろ?

 どうぞ、うちにはもう構わんといてください 」



 名都の冷たい視線に平助は何も言えなくなる。



 この目は……



 やはり兄妹だな、刺すような目で俺を見る三浦さんの目とよく似ている……



 この状況でそんなことを考えている自分に呆れ、平助は苦笑する。



 まったくとんでもなく馬鹿なことをしている……



「申し訳ありませんでした…… 」



 平助の謝罪に名都は答えることなく黙って背を向けるとぴしっと音を立てて襖を閉めた。



 階段を降りるとおろおろしている仙三たちにも深々と頭を下げる。

「みっともないところをお見せしてしまいました。 

 店で騒ぎ立ててご迷惑をおかけして申し訳ございません。 」



 同情まじりの目で平助を見ている仙三と違い、

 女将は露骨に迷惑気に「ほんま、店で騒ぎを起こすんは堪忍してほしいどすな。 今後またこないなことしはったら壬生浪、やのうて……今は『新選組』いう御大層なお名前どしたな。

 新選組のかたは出入り禁止にさせてもらいますよって重々、反省しとくれやす 」




 新選組にとって大事な日に隊の名を貶めるようなことをしてしまった……

 仮にも幹部のすることではない



 平助は自分の愚かさにいら立ちながら丸櫛屋を後にした。






 [4]



 集合の刻限が近づき八坂神社前の祇園会所では少しずつ隊士が集まっていた。

 それぞれが刀をもう一度点検したり着替えをしたり準備に余念がない。



 鎖帷子と隊服に着替えた平助が鉢金を頭に巻いていると

「すみません、遅くなっちゃいました! 」会所の入り口から明るい沖田の声がした。



「ちょっとだけお祭りの出店を覗くつもりだったんですけど……つい夢中になってしまって。

 ケホ……コホッ 」

 軽く咳をしながら菓子の小さな包みを緊張した面持ちの隊士たちに押し付けるように配っている。



「平助さんもどうぞ……コホッ 」

 平助の目の前に菓子の包みが突き出される。



 準備をしながら『丸櫛屋には迷惑ばかりかけている……』そんな物思いにふけっていた平助がハッと沖田を見る。

「あ……いえ、私は……。 若手の隊士の皆さんに配ってあげてください 」



 菓子の包みを広げて子供のように歓声を上げる若い平隊士らの様子に平助は沖田に菓子を返す。



「平助さんなんか新人より若いじゃないですか。 

 それに……平助さん、ずいぶん緊張してるみたいですよ。 ケホッ 」

 そう言って菓子を差し出し、にこっと笑う沖田



 沖田さんのこういうとこ変わらないんだな……



 平助も沖田につられて笑顔を見せると菓子を受け取った

「では、ありがたく…… 」



「いえいえ。 コホンコホッ 」

「大丈夫ですか? 沖田さん、 夏風邪ずいぶん長引いてますね 」

 沖田はさっと目を逸らした




 沖田さんはひと月くらい前、風邪をひいたといって二日ほど高熱を出し寝込んでいた。

 そのあともずっと咳が治らない。

 本人はいたって平気そうで巡察も撃剣師範も続けている。

 土方さんがたまに気にかけて医者を勧めても沖田さんは「大丈夫ですってば……お医者は嫌いなんですよ 」と子供じみた言い訳をして逃げている



 三浦が良く熱を出すので沖田もそんなようなものなのかもしれないと平助は納得した。




 三浦さんも沖田さんも体調を気遣われすぎるのが嫌なのだろう

 山南さんの怪我もそうだ



 きっとみんな自分の弱いところを見せたくない……



 平助はしつこく沖田の病状を問うのをやめ冗談めかして

「沖田さん、そしたらお菓子の御礼に石田散薬もらってきましょうか 」



「ええ!……平助さん、あれは打ち身の薬じゃないですかぁ

 しかも私はあれが苦手なの知ってるくせに意地悪だなぁ…… 」



 二人で笑っていると、鉢金をつけながら土方がふとこちらを見たのに気づいてまたおかしくなり二人で目を合わせてこっそり笑う。



「……よかった、笑った。 安心しましたよ 」

 そう言うと沖田はもう一度笑顔を見せ他の隊士のところへ菓子を配りに行った。




 ……弱いところを見せたくない、俺だってそう思っている



 なのに気づけば俺はいつもそんな自分をさらけ出してるみたいだな



 沖田の優しさに感謝しながら平助は小さく肩をすくめた






 [5]



 会津との約束の刻限、暮れ六つ( 現在の18時 )が近づいてるというのに黒谷からは何の動きも無い。

 新選組側はいつでも出動できる用意は整っている。



 イライラし始めた近藤が「いったい会津は何をしてるんだ! 」

 土方が近藤の横で皆に聞こえない小さな声で「イライラしても始まらない……勝っちゃんよ、大将がイラつくと下の者にも伝染する。 気楽にしててくれ 」



 平助が永倉、原田と京の地図を広げ出動の手はずを再確認していると新田が近づいてきた。



「藤堂隊長…… 」新田は隊服の裾を持ってひらひらと扇あおぐようにしている。



 そういえば……



 平助は新田が隊服を暑がり嫌がっていたのを思い出した。



「新田さん、隊服の下に鎖まで着込んで暑いとは思いますが……副長が『今日で最後』と仰ったのです。

 今夜だけは我慢してください 」



「いえ…… 」新田が慌てた素振りで隊服を整える

「隊長、違うんです! 

 たしかに私はこの隊服は暑いし目立つしあんまり着たくないなと思っていました。

 でも今夜、新選組の大仕事にこの隊服で出動するのが誇らしいなって…… 」



 三浦以外の八番隊の隊士たちも平助のところに集まってきてみな頷きあっている。



「こんなこと言うのも恥ずかしいんですけど新選組に入って良かったって…… 」

 新田が照れくさそうに頬をかく



「平助、ずいぶんいい部下に育ってんじゃねえか 」

 永倉と原田が平助の背中を叩いたり、肘でこづく



「じゃ、俺もちょっと二番隊の連中に喝入れてくるわ 」永倉が手を振りながら行くのを

「ちっ、十番隊は病人が多くて半分は屯所でおねんねだぜ 」ぼやきながら槍を両肩に担いで原田が後を追う。





「おい、もう六つ半だ。 山崎、どうなってるかわかったのかっ! 」

 先ほどまで冷静だった土方もさすがに苛立ちを隠せなくなっている。



 黒谷の会津本陣に様子を見に行った山崎が戻ってきたのだが

 会津ではいまだに出動についての是非を論じているという。



「近藤さん、もたもたしていちゃ敵に逃げられるか先手を打たれるかだぜ…… 」

「……わかった。 ここは俺たち新選組だけでやろう 」

「そうくると思ったぜ…… そのほうが手柄も新選組だけのものにできる 」

「しかし…… 問題は人数だが 」



 病人と屯所の留守部隊を覗いてここに集まっている出動部隊は三十人を少し超えるくらい。

 この人数で京の町をしらみつぶしに当たるのは厳しいと近藤は見ている。



「それなら任せろ 」言うと土方はすぐに紙を広げ筆を走らせる

 待っている間にすでに作戦を練っていたのだろう

 土方の筆はよどみない



 出動部隊を近藤隊、土方隊の二隊にわける

 近藤の隊には沖田や永倉という新選組きっての精鋭を配置する。

 土方はさっと周りを見回す。

 平助に目を止めると近藤隊に『藤堂』と書き入れた。

「平助もそっちにつける…… 」



 近藤隊に十名ほどで鴨川の西側を担当し、土方隊には二十四名を配し東側を探索することとする。



「料亭、旅籠屋をくまなく探索すること! 」





 こうして会津の応援を待たず新選組は祇園囃子が奏でられる京の町へ浅葱色の隊服を翻して駆けだした……








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