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宰相の思い Side ルシウス
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「その後ナツメ殿の様子は?」
食事を共にした際のナツメの状態が気にかかり、ルシウスはリリアに問いかけた。
「いつも通りに過ごしていらっしゃいます。ただ……」
「ただ?」
言い淀むリリアを促せば彼女は言葉を選ぶように続ける。
「おそらく、夜眠れていないのではないかと思います」
「眠れてない?」
「はい。ナツメ様は何も仰いませんが、ベッドに寝た形跡があまりありませんし、朝支度のために伺う頃にはすでに起きていらっしゃいますので」
今までナツメが不眠だと聞いたことはない。
ナツメにはどちらかというとよく食べよく眠りよく笑うイメージがある。
しかし眠れていないというのであれば食事の時の様子にも頷けた。
明らかに目の下には隈があったし、どことなくボーッとしていたのは寝ていないことによって頭が働いていなかったからだろう。
「事件の影響なのでは?」
執務机の前に置かれている応接テーブルの上の紅茶を飲みながら、たまたま来ていたレグルスがそう言った。
「本人にとって衝撃の強い出来事に遭遇すると、眠れなくなったり理由もなく涙が出てきたり、情緒不安定になることがあると聞いたことがあります」
「ナツメ殿の症状と似ているな」
最近ナツメの身の上に起きた衝撃の強い出来事といえば当然ヴァニタス家による誘拐事件だ。
身体的な怪我はしていなかったしナツメも大丈夫と言ってはいたが、本人も気づかないうちに大きなストレスを感じ、それが不眠につながったのかもしれない。
「セラピアを呼べ」
ルシウスはリリアにべラルド家の主治医の一人である女性を呼ぶように伝える。
「もう一度診察を受けた方がいいだろう」
「ナツメ様のことですから、大丈夫だと言って断られそうですが……」
「何かしらの理由をつけてでも受診してもらうように」
「承知いたしました」
リリアとしてもナツメの様子は心配だったのか、ルシウスが命じるとすぐに部屋を出て行った。
「俺は医療のことはよくわかりませんが……もし事件の影響で眠れなくなっているのであればやはり相当怖い思いをしたのだと思います」
「ヴァニタスのせいだな」
レグルスと話しながらどうしたものかとルシウスは考える。
リリアがセラピアを呼んでくるまでと思い、レグルスの向かいのソファに腰を下ろすと手ずから紅茶を入れた。
辺りに爽やかな香りが漂うとルシウスは自身の考えをまとめるようにゆっくりと紅茶を嗜む。
「そういえば、安心感が大事だと言っていました」
「誰がだ?」
「衝撃の強い出来事を経験した友人が、です。不安を感じることのない状況、精神的な安心感、そういったものが大事だったと」
「少なくとも王宮よりここは安全だとは思うが、それだけでは足りないということか」
「父上は……」
言いかけて、レグルスは一瞬言葉を切った。
「父上は、ナツメさんのことをどう思っているのですか?」
そう言ったレグルスがルシウスの目をしっかりと見つめる。
(ナツメ殿のことをどう思っているのか、か)
その答えをルシウスはすでに自分の中にみつけていた。
「俺はもう母親の必要な年ではないので、父上には俺のことは気にせず自分の気持ちに正直になって欲しいです」
レグルスの思わぬ応援にルシウスは息子の成長を見た。
(まさか子どもに背中を押されるとはな)
そう思いながら、さてどうしようかとルシウスは思ったのだった。
食事を共にした際のナツメの状態が気にかかり、ルシウスはリリアに問いかけた。
「いつも通りに過ごしていらっしゃいます。ただ……」
「ただ?」
言い淀むリリアを促せば彼女は言葉を選ぶように続ける。
「おそらく、夜眠れていないのではないかと思います」
「眠れてない?」
「はい。ナツメ様は何も仰いませんが、ベッドに寝た形跡があまりありませんし、朝支度のために伺う頃にはすでに起きていらっしゃいますので」
今までナツメが不眠だと聞いたことはない。
ナツメにはどちらかというとよく食べよく眠りよく笑うイメージがある。
しかし眠れていないというのであれば食事の時の様子にも頷けた。
明らかに目の下には隈があったし、どことなくボーッとしていたのは寝ていないことによって頭が働いていなかったからだろう。
「事件の影響なのでは?」
執務机の前に置かれている応接テーブルの上の紅茶を飲みながら、たまたま来ていたレグルスがそう言った。
「本人にとって衝撃の強い出来事に遭遇すると、眠れなくなったり理由もなく涙が出てきたり、情緒不安定になることがあると聞いたことがあります」
「ナツメ殿の症状と似ているな」
最近ナツメの身の上に起きた衝撃の強い出来事といえば当然ヴァニタス家による誘拐事件だ。
身体的な怪我はしていなかったしナツメも大丈夫と言ってはいたが、本人も気づかないうちに大きなストレスを感じ、それが不眠につながったのかもしれない。
「セラピアを呼べ」
ルシウスはリリアにべラルド家の主治医の一人である女性を呼ぶように伝える。
「もう一度診察を受けた方がいいだろう」
「ナツメ様のことですから、大丈夫だと言って断られそうですが……」
「何かしらの理由をつけてでも受診してもらうように」
「承知いたしました」
リリアとしてもナツメの様子は心配だったのか、ルシウスが命じるとすぐに部屋を出て行った。
「俺は医療のことはよくわかりませんが……もし事件の影響で眠れなくなっているのであればやはり相当怖い思いをしたのだと思います」
「ヴァニタスのせいだな」
レグルスと話しながらどうしたものかとルシウスは考える。
リリアがセラピアを呼んでくるまでと思い、レグルスの向かいのソファに腰を下ろすと手ずから紅茶を入れた。
辺りに爽やかな香りが漂うとルシウスは自身の考えをまとめるようにゆっくりと紅茶を嗜む。
「そういえば、安心感が大事だと言っていました」
「誰がだ?」
「衝撃の強い出来事を経験した友人が、です。不安を感じることのない状況、精神的な安心感、そういったものが大事だったと」
「少なくとも王宮よりここは安全だとは思うが、それだけでは足りないということか」
「父上は……」
言いかけて、レグルスは一瞬言葉を切った。
「父上は、ナツメさんのことをどう思っているのですか?」
そう言ったレグルスがルシウスの目をしっかりと見つめる。
(ナツメ殿のことをどう思っているのか、か)
その答えをルシウスはすでに自分の中にみつけていた。
「俺はもう母親の必要な年ではないので、父上には俺のことは気にせず自分の気持ちに正直になって欲しいです」
レグルスの思わぬ応援にルシウスは息子の成長を見た。
(まさか子どもに背中を押されるとはな)
そう思いながら、さてどうしようかとルシウスは思ったのだった。
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