3 / 8
思い出
私が勤めているのはコンビニスイーツを作る会社だ。開発から製造、販売までを一手に引き受けている。
中でも私が所属しているのは新しいスイーツの開発をしている部門。どちらかというと社内でも花形と言われる部署だろう。
クズ男の元婚約者も同じ部署にいるから、これからも顔を合わせないわけにもいかない。
それに、そもそもアイツが浮気したのも、あの女が事務関係のサポートとしてついたからだ。前々から距離感が近いとは思っていたけれど、まさか本当に浮気をされているとは思ってもいなかった。
そんなクズ男の元婚約者、剛人とは大学で出会い、ゼミが同じになったことをきっかけにつき合い始めた。
それからもう七年。
二十八にもなって別れることになるとはまったく思いもよらなかったけれど。
縁がなかったっていうことよね。
家に帰ってベッドの上に寝転び目の腫れを冷やせば、ヒンヤリとした冷たさが私の頭を冴えさせていく。
半年前、今年の頭に剛人にプロポーズをされて私たちは婚約した。その時はまだ仲は良好だったのに。
数ヶ月の婚約期間を経て結婚する予定は、この春にあの後輩、結衣が入社してきて変わってしまった。
式場が決まっていなかったことを理由に結婚を先延ばしにした剛人は、あっという間にあの後輩と浮気をしたのだ。
同じフロアで仕事をしている環境では職場内での浮気はし辛いはずなんだけど。
よりにもよって二人の関係がわかる決定的瞬間に遭遇してしまったのが社内だったのが痛い。
だいたいにして、社内で就業時間中にキスしてるとか、頭がおかしいんじゃないの?
あの時私は会議室に忘れ物をしたことを思い出して取りに戻った。
直前の会議は今度社内で開くコンペのスイーツのテーマを話し合う場で、そこには剛人と結衣も出席していたのだけど。
会議の終わった後、片づけを買って出たのがあんなことをしたいからだったとしたら軽蔑ものである。
キスだけじゃ、ないよね。
誰も来なかったらそれ以上になっていた可能性も十分にあった。
そこに至る前に私が会議室のドアを開けてしまったからそこで終わっただけで。
人はどうして思いもよらない場面に出会すと咄嗟に逃げてしまうのか。
驚いて走り去った私がたどり着いたのが休憩場所だ。
そしてあの修羅場が巻き起こる。
「最悪……」
呟いた言葉が何の音もしない静かな部屋の中に響く。
本当、最悪。
明日もまたあの二人のいる職場に出勤しなければならない。
いったいどんな拷問よ。
前世で悪いことでもしたのか。
そう思ってしまうくらいに辛い。
またぞろジワリと涙が浮かんできたところで、スマホが誰かのメッセージの受信を知らせる。
『良ければ明日、始業前にお時間をいただけませんか?』
メッセージの送り主はハンカチを貸してくれた黒川くんだ。
彼は結衣と同様この春入社してきた。
いずれは私と同じ商品開発に携わることになるが、まずは勉強のためにと私のサポートについてもらっている。
というか、私は直々の後輩にあんな姿を見せてしまったということか。
思い返すとかなり恥ずかしい。
私は日頃仕事に邁進しているし、今後のことを見越して黒川くんにも少し厳し目に接してきたと思う。
なのにあの醜態。
穴があったら入りたいとはまさにこのことよね。
でもあの場に彼がいてくれてとても助かったのも事実だった。
だから。
『了解。何時にどこへ集合する?』
あえて業務連絡的に返答した。
『では八時に会社の最寄駅から少し行ったコーヒーショップで』
会社の就業開始は八時半。
その前に会って、果たして彼は何を言うのか。
気にはなったがどうすることもできず、私は少しの心配を抱えながら借りたハンカチを洗濯したのだった。
中でも私が所属しているのは新しいスイーツの開発をしている部門。どちらかというと社内でも花形と言われる部署だろう。
クズ男の元婚約者も同じ部署にいるから、これからも顔を合わせないわけにもいかない。
それに、そもそもアイツが浮気したのも、あの女が事務関係のサポートとしてついたからだ。前々から距離感が近いとは思っていたけれど、まさか本当に浮気をされているとは思ってもいなかった。
そんなクズ男の元婚約者、剛人とは大学で出会い、ゼミが同じになったことをきっかけにつき合い始めた。
それからもう七年。
二十八にもなって別れることになるとはまったく思いもよらなかったけれど。
縁がなかったっていうことよね。
家に帰ってベッドの上に寝転び目の腫れを冷やせば、ヒンヤリとした冷たさが私の頭を冴えさせていく。
半年前、今年の頭に剛人にプロポーズをされて私たちは婚約した。その時はまだ仲は良好だったのに。
数ヶ月の婚約期間を経て結婚する予定は、この春にあの後輩、結衣が入社してきて変わってしまった。
式場が決まっていなかったことを理由に結婚を先延ばしにした剛人は、あっという間にあの後輩と浮気をしたのだ。
同じフロアで仕事をしている環境では職場内での浮気はし辛いはずなんだけど。
よりにもよって二人の関係がわかる決定的瞬間に遭遇してしまったのが社内だったのが痛い。
だいたいにして、社内で就業時間中にキスしてるとか、頭がおかしいんじゃないの?
あの時私は会議室に忘れ物をしたことを思い出して取りに戻った。
直前の会議は今度社内で開くコンペのスイーツのテーマを話し合う場で、そこには剛人と結衣も出席していたのだけど。
会議の終わった後、片づけを買って出たのがあんなことをしたいからだったとしたら軽蔑ものである。
キスだけじゃ、ないよね。
誰も来なかったらそれ以上になっていた可能性も十分にあった。
そこに至る前に私が会議室のドアを開けてしまったからそこで終わっただけで。
人はどうして思いもよらない場面に出会すと咄嗟に逃げてしまうのか。
驚いて走り去った私がたどり着いたのが休憩場所だ。
そしてあの修羅場が巻き起こる。
「最悪……」
呟いた言葉が何の音もしない静かな部屋の中に響く。
本当、最悪。
明日もまたあの二人のいる職場に出勤しなければならない。
いったいどんな拷問よ。
前世で悪いことでもしたのか。
そう思ってしまうくらいに辛い。
またぞろジワリと涙が浮かんできたところで、スマホが誰かのメッセージの受信を知らせる。
『良ければ明日、始業前にお時間をいただけませんか?』
メッセージの送り主はハンカチを貸してくれた黒川くんだ。
彼は結衣と同様この春入社してきた。
いずれは私と同じ商品開発に携わることになるが、まずは勉強のためにと私のサポートについてもらっている。
というか、私は直々の後輩にあんな姿を見せてしまったということか。
思い返すとかなり恥ずかしい。
私は日頃仕事に邁進しているし、今後のことを見越して黒川くんにも少し厳し目に接してきたと思う。
なのにあの醜態。
穴があったら入りたいとはまさにこのことよね。
でもあの場に彼がいてくれてとても助かったのも事実だった。
だから。
『了解。何時にどこへ集合する?』
あえて業務連絡的に返答した。
『では八時に会社の最寄駅から少し行ったコーヒーショップで』
会社の就業開始は八時半。
その前に会って、果たして彼は何を言うのか。
気にはなったがどうすることもできず、私は少しの心配を抱えながら借りたハンカチを洗濯したのだった。
あなたにおすすめの小説
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
皇太子殿下は、幼なじみに触れていないと落ち着かない
由香
ファンタジー
幼い頃から一緒に育った皇子は、なぜか距離が近すぎる。
後ろから抱きしめられ、手を取られ、頬に触れられるのが当たり前の日常。
やがて彼は皇太子となるが――その距離は変わらないどころか、むしろ深まっていき。
「触れていないと、落ち着かない」
公の場でも離してくれない彼の執着に、周囲は騒然。
けれどその腕の中は、どうしようもなく安心してしまう。
これは、幼なじみの距離のまま始まる、逃げ場のない溺愛の物語。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
愛を知った私は、もう二度と跪きません
阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。
家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。
「呪われた男にでも喰われてこい」
そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。
彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。
その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。
「エカテリーナ様、どうかお助けを!」
かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。
後宮入りしたら、冷酷な幼なじみ皇太子に囲われて逃げられません
由香
恋愛
幼い頃、ただ一人だけ優しかった少年。
けれど彼は――皇太子になっていた。
家の都合で後宮に入れられた私は、二度と会うはずのなかった幼なじみと再会する。
冷酷無慈悲と噂される彼は、なぜか私にだけ異常に甘くて――
「他の男に触れるな。……昔から、お前は俺のものだろ」
囲われるように守られ、逃げ場を失う距離感。
けれど後宮は甘さだけじゃ生き残れない。
陰謀、嫉妬、命を狙う妃たち――
それでも彼は、私の手を離さない。
これは、後宮で“唯一の執着”に愛された少女の物語。
妹の学費欲しさに身代わりとして後宮に入ったら王太子からの思わぬ溺愛が待ち受けていました
西瓜酢昆布
恋愛
妹の学費のため主人の身代わりとして後宮に入ることとなったミミ
目立つことなく入宮期間を乗り切りあと一週間で後宮から出られるというタイミングで王太子宮から使いの者がやってきた、なんと本日お渡りがあるという連絡だった。
果たして身代わりであるミミは無事に後宮から出られるのか。
短編 お前なんか一生結婚できないって笑ってたくせに、私が王太子妃になったら泣き出すのはどういうこと?
ヨルノソラ
恋愛
「お前なんか、一生結婚できない」
そう笑ってた幼馴染、今どんな気持ち?
――私、王太子殿下の婚約者になりましたけど?
地味で冴えない伯爵令嬢エリナは、幼い頃からずっと幼馴染のカイルに「お前に嫁の貰い手なんていない」とからかわれてきた。
けれどある日、王都で開かれた舞踏会で、偶然王太子殿下と出会い――そして、求婚された。
はじめは噂だと笑っていたカイルも、正式な婚約発表を前に動揺を隠せない。
ついには「お前に王太子妃なんて務まるわけがない」と暴言を吐くが、王太子殿下がきっぱりと言い返す。
「見る目がないのは君のほうだ」
「私の婚約者を侮辱するのなら、貴族であろうと容赦はしない」
格の違いを見せつけられ、崩れ落ちるカイル。
そんな姿を、もう私は振り返らない。
――これは、ずっと見下されていた令嬢が、運命の人に見初められる物語。