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獲物
昼下がりのオフィスで、私は数枚の書類を手に頭を悩ませていた。
例の会議でのテーマとなっていた、社内コンペに出すためのコンビニスイーツ。それを何にするかを決めかねていたのだ。
「先輩、どうしました?」
不意に背後から声をかけられて、一瞬驚きに体が揺れる。
「社内コンペ用のスイーツを何にしようか迷っていて……」
振り返ればコーヒーを手にした黒川くんがいた。彼の席は私の隣だ。
「スイーツと一言で言ってもいろいろありますしね。最近は和菓子も流行っているみたいですし……」
そうなのだ。
まずは洋菓子でいくか和菓子でいくかから考えなければならない。
その上でさらに何系統にするかも決める必要がある。
「そうだ。敵情視察も兼ねて、今日の帰りにコンビニスイーツを見に行きませんか?」
「そうね、いいわよ」
まずは今どんな物が人気なのかをチェックして、その上でこれから求められる物を考えなければならないだろう。
「ああ、あとここ数年の我が社の売り上げ一覧も確認した方がいいですね」
そう言いながら、席についた黒川くんは社内イントラに保管されているデータに目を通し始める。
「そういえば、このコンペ、あの人たちも参加するみたいですよ」
視線はデータを追いながら、黒川くんがそう言った。
『あの人』と黒川くんはぼかして言ってくれたけど、つまりは剛人のことだ。ついでに結衣も含まれるのだろう。
「……そうらしいわね」
同じ開発部に所属していればそんなことは普通にあり得る。
それでも、そもそもの発端がこのコンペのテーマを話し合った会議の後だったからか、気分的には居心地が悪かった。
先日の会議はコンペに興味がある人はみんな参加していた。
説明を聞いた上で、参加するかどうかはあの後に正式に申請する必要があったのだ。
「何を出してくるかは分かりませんが、負ける気はありませんので」
言葉少なな私の反応をどう思ったのか、こちらを振り返った黒川くんがそう言う。
真っ直ぐに見つめてくる視線に戸惑っていると、背後でプリンターが紙を吐き出す音が聞こえた。
私を見つめたまま、黒川くんが近づいてくる。
何となくその場から動くことができなくて、私は固まったような状態になった。
まるで、獲物として狙われているみたいだ。
なぜかそんなことが頭の片隅を過ぎる。
黒川くんは私を腕で囲うかのように体を寄せてきて、私の中でさらなる緊張が高まった。
彼の右手がグッと伸ばされ、思わず少し俯きながら目を瞑ってしまった私の耳に黒川くんの低い声が届く。
「印刷できましたよ」
その声に驚いて視線を上げれば、彼の右手に数枚の紙があった。
ああ、売り上げ一覧ね。
その紙が何かはすぐに理解したけれど、近づいた体から発せられる熱がうつったかのように、なぜか私の頬はほんのりと色づいていたのだった。
例の会議でのテーマとなっていた、社内コンペに出すためのコンビニスイーツ。それを何にするかを決めかねていたのだ。
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不意に背後から声をかけられて、一瞬驚きに体が揺れる。
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