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【 4章 】
6話 〔45〕
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生徒用玄関の扉を目前にして、念のため指先で軽くさわってチェックする。
まるで、そこに見える扉は元々ホログラフィックか何かの偽物とでも思わせんばかりに、法則どおり何事もなくすり抜けられる。
常識はとっくに通用しなくなっている。いつまでも同じことで驚くのはやめた。
「はぁ……こんなの、体が見えてたら間違いなく幽霊だと思われてもしょうがないわよね……」
足元は内履きの靴のままだけれど、裸足よりはかなりマシなので、それもこれ以上はもう気にしないことにした。
校庭を抜けて自宅へと急ぐ。途中で何人かの通行人と出会ったけれど、存在感が薄いなんてレベルじゃない。やはり誰の目にも止まることはなかった……。
周囲の人間から察知されないってことは、相手から避けてもらえることがなく、ときには自転車にぶつかりそうになったりと煩わしい。
それでも、自宅の玄関までは無事に着くことができた。玄関前で耳を欹てると中からは生活音が漏れ聞こえてくる。
「大丈夫、まだ居るみたいね」
そして、ドアに人差し指をたてると、例によって鍵はすでに開いていることが判別できた。
「絶対、気付かれないわよね……?」
我が家に入るのにこれほど緊張することがあるとは、いままで思いもよらなかった。
ドアを通過すると見慣れた光景に、不思議と安堵の息が出た。
行儀が悪いと思ったけれど、どうせなんの影響も無いだろうから靴は脱がず、そっと家の中へと上がる。
リビングのドアは開けられたままだったので、廊下まで話し声が響いていた……。
こっそりとドアの影から様子を覗き見る。
――居た。過去の『私』。というのはややこしいので、彼女のことは『ミナ』と呼ぶことにする。
ミナは確かにそこに存在した。
それと、由那とお母さん……。大学教授のお父さんはもう出掛けているのか、この場には居ない。
何気ない普段どおり、日常の場面がここにある。
「由那……。お母さん……」
きっと、元の時間世界では私がどうにかなってしまったことで、みんな心配しているはずだ。
堪らなく申し訳なくって、涙がこみ上げてきた。
…………!
涙を手で拭いている、その時だった。
ソファでテレビを観ていたミナが、リビング入口のドア方向に視線を逸らした。
(……!?)
咄嗟に、出していた頭を引っ込める。
(ひょっとして……見えるの?)
もう一度、おずおずと顔を出して確かめる。
ミナは勘違いだと思ったのか、またテレビのほうを見入っている。
「まさか……ね」
とりあえずは、過去の自分が存在する。そのことを確認する目的は達成した。
これで注意するべき点がひとつはっきりした。
あの、『ミナ』の未来が変わるような行動を執ってはいけない。
ようするに、自分の過去を改変した結果、ここに来る原因(因果律)が無くなることで、私自身の存在が危うくなりかねないからだ。
まるで、そこに見える扉は元々ホログラフィックか何かの偽物とでも思わせんばかりに、法則どおり何事もなくすり抜けられる。
常識はとっくに通用しなくなっている。いつまでも同じことで驚くのはやめた。
「はぁ……こんなの、体が見えてたら間違いなく幽霊だと思われてもしょうがないわよね……」
足元は内履きの靴のままだけれど、裸足よりはかなりマシなので、それもこれ以上はもう気にしないことにした。
校庭を抜けて自宅へと急ぐ。途中で何人かの通行人と出会ったけれど、存在感が薄いなんてレベルじゃない。やはり誰の目にも止まることはなかった……。
周囲の人間から察知されないってことは、相手から避けてもらえることがなく、ときには自転車にぶつかりそうになったりと煩わしい。
それでも、自宅の玄関までは無事に着くことができた。玄関前で耳を欹てると中からは生活音が漏れ聞こえてくる。
「大丈夫、まだ居るみたいね」
そして、ドアに人差し指をたてると、例によって鍵はすでに開いていることが判別できた。
「絶対、気付かれないわよね……?」
我が家に入るのにこれほど緊張することがあるとは、いままで思いもよらなかった。
ドアを通過すると見慣れた光景に、不思議と安堵の息が出た。
行儀が悪いと思ったけれど、どうせなんの影響も無いだろうから靴は脱がず、そっと家の中へと上がる。
リビングのドアは開けられたままだったので、廊下まで話し声が響いていた……。
こっそりとドアの影から様子を覗き見る。
――居た。過去の『私』。というのはややこしいので、彼女のことは『ミナ』と呼ぶことにする。
ミナは確かにそこに存在した。
それと、由那とお母さん……。大学教授のお父さんはもう出掛けているのか、この場には居ない。
何気ない普段どおり、日常の場面がここにある。
「由那……。お母さん……」
きっと、元の時間世界では私がどうにかなってしまったことで、みんな心配しているはずだ。
堪らなく申し訳なくって、涙がこみ上げてきた。
…………!
涙を手で拭いている、その時だった。
ソファでテレビを観ていたミナが、リビング入口のドア方向に視線を逸らした。
(……!?)
咄嗟に、出していた頭を引っ込める。
(ひょっとして……見えるの?)
もう一度、おずおずと顔を出して確かめる。
ミナは勘違いだと思ったのか、またテレビのほうを見入っている。
「まさか……ね」
とりあえずは、過去の自分が存在する。そのことを確認する目的は達成した。
これで注意するべき点がひとつはっきりした。
あの、『ミナ』の未来が変わるような行動を執ってはいけない。
ようするに、自分の過去を改変した結果、ここに来る原因(因果律)が無くなることで、私自身の存在が危うくなりかねないからだ。
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