紅のパーガトリィ

ふらっぐ

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I believe you,please believe me

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 その夜、紅香と静馬は、学校の屋上にいた。
「……やっぱりこの景色、どう見ても映画の世界だね」
 静馬があのビルの上空に目をやりながら、言う。
「ほんとね。……それにしても、すぐにあそこに行かなくていいのかな? 少しでも早く、この事態をなんとかした方がいいと思うんだけど」
「仕方ないよ。煉獄への扉を開くためには、準備が必要らしいから。それに、今日だっていろいろあったんだ。少しは休んだ方がいい」
 少々もどかしげな紅香に、静馬が言う。
「……それはそうだけど」
 紅香は、静馬から遠くの邪神に再び視線を戻す。不意に、その横顔に複雑な感情の色が差す。
「……ねえ、あのさ」
「……ん?」
「もし……もしも、ね」
 いつもよりどこか静かな声で言いながら、紅香がうつむく。
「もし……明日の戦いが終わって、その時……私がいなくなったら、どうする?」
「……なんで、そんなことを聞くんだい?」
 その普段と違う声色に、一筋の不安のしずくが心に波紋を作るのを、静馬は感じた。
「ん……あのね。別に怖いとか、不安だとか、そういうんじゃないんだ。ただ……なんとなく、だけど。もしかしたら……そういうこともあるかもしれないなあ、って」
 空を見上げる紅香のまなざしに、彼女の言うとおり、不安の色は見えない。ただ目の前に迫った決着の時に、なにか思うところがあるのだろうということしか、静馬には読み取ることができなかった。
「……そうだね。明日は、正直なところ、僕もどうなるのか想像もつかない。勝てるかもしれないし、勝てないかもしれない。なにか失うかもしれないし、なにも失うことなんかないのかもしれない」
「……………」
 屋上の手すりに寄りかかりながら、静馬も空を見上げる。いつもは星が瞬くその空も、今は漆黒の闇に押しつぶされている。まるで、見えない明日を暗に示しているかのように。
「でも、そうだな……。ひとつ、僕が言えるとしたら、それだけは想像できない……ってことかな」
「……え? それだけは、って?」
 紅香が視線を静馬に向ける。
「戦いが終わって、君がいなくなるってことさ。そんな悲劇のヒロインみたいな立ち位置は、紅香のキャラじゃない。どんな事態になっても、なんだかんだでしぶとく帰ってくる。……そんな感じだから」
「……なんか、あんまりほめられてる感じしないけど」
 静馬を見つめる紅香の視線が、じっとりとしたものに変わる。が、すぐに彼女はその渋面を
崩し、にっこりと笑った。
「でも、ありがとう。さっきはああ言ったけど……本当はやっぱり、怖かったから。静馬が死んだ時のことを考えたら……怖かった。自分が死ぬのだって怖いけど……それ以上に、また一人になってしまうのが、怖かった」
 紅香のその笑顔が、再び色のない表情に変わる。きっと彼女は、はっきりとその不安を、静馬に見せることができないのだ。自分の持つ不安が、静馬にも伝染してしまうのが怖いのではないだろうか。だから……その表情をなくしてしまうことでしか、不安を表すことができなかったのだ。
 うつむく紅香の顔を見ながら、静馬はそんな風に感じた。
「じゃあ……そうだな。ひとつ、僕と約束しようか」
「……約束?」
 微笑んだ静馬の言葉に、紅香が怪訝そうな顔を向ける。
「ああ。僕は明日、例えどんなことがあっても、君が帰って来るって信じる。だから君は、どんなことがあったとしても、僕が帰ってくるって信じててくれ」
 その言葉に、紅香が再び笑顔になる。
「……なにそれ。普通、逆でしょ?」
「……いいんだよ。僕も、一人になるのは怖い。……でも、君が決して死なないって信じられれば、怖くない。一人になんかならないって信じられれば、怖くなんかない」
「……そっか」
 静馬の言葉に、紅香の表情がいつものように戻った。
「わかった。私も信じるよ。静馬はなにがあっても帰ってくる。……だから、私は一人になんかならない」
 ぐっと握りこぶしを作って、紅香が笑う。
「ははは……そのポーズ、いつもの紅香だな」
 つられるようにして、静馬も笑った。
「それじゃ、指切りしようか」
「指切り?」
 右手の小指を差し出しながら言う静馬に、紅香があっけにとられたような顔をする。それはそうだろう。守護されるものと守護霊という関係であれ、生きている人間と死んだ人間であることには変わりはない。触れ合うことのできない相手と指切りをしようというのだから、それはおかしな話だ。
「……そうだね。約束、だからね」
 だが、紅香はそう言って笑った。そして、静馬の小指に、自分の小指を絡める。
「なにがあっても、私は静馬が絶対に無事に帰ってくるって、信じる! 約束します」
「なにがあっても、僕は紅香は帰ってくるって信じてる。絶対に。……約束だ」
 目の前に確かにいるのに、確かに相手の存在を感じられるのに。決して、もう触れ合うことはできない手と手で。触れ合うことのできない小指と小指で。二人は、約束をした。
 たとえ、もうともに生きることはできないとしても。もう決して、人間同士として愛し合うことなどできないとしても。それでも、ともにいることはできる。お互いの存在を感じることはできる。
 ――――今は、その想いを小指に込めて。
 触れ合うことができないはずのその小指が、ふと、幽かに……ほんの幽かに。そのぬくもりを感じたような気がした。
 
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