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第一章 砂漠の姫君
ノーニャ達はその頃
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時は少し遡り、ジェイムス・コルトーがブラフマンと共に祭儀場へ向かっている頃。
「あなた達、ちょっと情けないわよ」
「面目次第もございません……」
身体強化しか持たないものに向かって精霊契約者に追いつけと言うのは、亀に跳ねろと言っているのと同じだ。
そんなことはノーニャにも分かっているし、本当ならこんなことは言いたくない。
だが、ジミーの言うことももっともなのだ。
大の大人、それも近衛兵が、子供でも付いていっているにも関わらず護衛対象に置き去りにされ、追いついたら追いついたで疲れて動けない……。
傍から見たら、何をやっているんだと罵声を浴びても仕方のない絵面であるし、実際職務を全うできていないのだから。
(ちょっと不憫だとは思うけれどね……)
兵士達もノーニャの声音からその辺りを察しており、察しているが故に悔しかった。
隊長ですら唇を噛まないよう固く引き結んでおくのが精一杯で、隊員たちは皆唇を噛み、拳をきつく握りしめて悔しそうな表情をしている。
ノーニャは重くなり始めた空気を変えようと、パンッと手を打ち鳴らして皆の注意を集めた。
「ところで、あなた達から見てもやっぱり彼は異常なのかしら?」
話題を変えると同時に、暗に彼らを慰めようとジミーの異常性について話題を振る。
「そうですね。魔法も身体強化も無しにあれだけの運動能力……しかも齢二歳でしたか。はっきり言って異常なんてものではありません」
「そうね、私でも彼を撒くのは容易じゃないもの」
「彼が姫様の婚約者でなければ何かしら理由をつけて拘束し、可能ならば安全のために処刑していることでしょう。そのくらい、彼は危険です」
処刑の下りでノーニャの視線が険しくなるが、彼らも護衛として進言を躊躇う訳にはいかない。
「そもそも彼はヒューマンなのですか? 練兵場で毎日見ていますが、成長速度も動きも同じ種族とは到底思えません」
ジミーは肉体的な訓練を行うために、許可を得て毎日練兵場の一角を間借りしていた。
その訓練風景は初め歩行訓練のようなものだったが、次第にエスカレートしていき、今では日中ずっと動き続けているような有様だったのだ。
「話は聞いているわ。私も何度も止めたのだけど、これをやらないと王国で笑いものになってしまうとかなんとか……」
「そんな馬鹿なことが……」
ノーニャも自分で話して意味がわからない。
どこの世に幼児に対して軍人以上の身体能力を求める国があるのだろうか……。
「ええ、私もそう思ってよくよく聞いたら、三歳になった子供のお披露目パーティがあるそうなの」
「お披露目パーティーと言うと、王侯貴族や有力者達が子供を出汁にして行う、あの?」
「そう。あの、お披露目パーティー」
帝国でもそのような催しはあり、ノーニャも以前出席して辟易した記憶がある。
しかし3才児など皆似たり寄ったりであるし、ノーニャのように特別であることの方が珍しいため、大抵の子供は連れ回されるだけ連れ回されて終わりである。
「それは……」
「はっきり言って無意味ね。でもあのお馬鹿さんは本気で人生を左右すると思ってるみたい」
(そういうとこだけ年相応なんだもんな……)
もともとノーニャは精神的成長が早く年齢も自分のほうが高かったので、ジミーのことを賢いとは言っても自分と同じかそれ以下だろうと踏んでいた。
なので姉弟みたいなのを想像していたのだが、実際は同じどころかジミーの方が精神的に成熟していたのだ。
そうして一歳半のくせに何故か大人びている、チグハグな彼を観察するのが半年前からの彼女の日課となっていた。
「それとね、彼が人間かどうか私も気になって簡易検査と魔力測定をやったことがあるんだけど……」
その時、祭儀場の方に尋常ではない光が見えた。
(なにあれ!? しかもどんどん強くなってる……)
「姫様、お下がり下さい!」
兵士達がノーニャを取り囲むようにして即座に移動した。
いくら落ち込んでいてもそこは職業軍人である。
すぐさま自分たちの影に彼女を隠すと周囲、特に異常の中心である祭儀場を警戒しだす。
「何が起こっているの!?」
「わかりません! 姫様が洗礼をお受けになった時はどうだったのですか?」
自分が洗礼を受けた時のことを思い出すノーニャ。
「私の時は、聖遺物から宝玉を介して力を授けられて、その後サラマンドラと契約しただけ。こんな光、知らないよ……ジミー……」
強くなっていた光が渦を巻き、一際激しく光ったかと思うと、圧力を感じるほどの魔力波が巻き起こった。
「くっ……!」
「きゃあ!」
「姫様!」
「ご無事ですか!?」
凄まじい魔力波にノーニャは転んでしまっていた。
兵士の一人がすぐに助け起こすが、初めて間近で受けた魔力波に彼女は足がすくんでしまっていて上手く立てない。
「だ、大丈夫。それより祭儀場は、ジミーはどうなったの!?」
自分のことなど二の次とばかりにジミーの安否を確かめようとするノーニャ。
自覚は無かったが、彼女にとってジミーは単なる異国の面白そうな人……ではなくなっていた。
自分を形成する何かがあるとしたら、既にその一部になっていたのだ。
婚約者だ何だと言っていても、彼女だってまだ五歳の子供である。
その気持は未だ親兄弟へのそれと区別できるものではなかったが、確かに彼女にとって彼が大切なものの一つになっている事が見て取れた。
「わかりません……ですが、これは……」
隊長は見てしまった。
光が消えた後に現れた、おびただしい数の精霊らしき存在を。
そのどれもが彼では太刀打ちできない存在であり、ここが今この国で最も危険な場所の一つとなったことを肌で感じた。
「なによ、どうしたって……言う…………」
「駄目です姫様!」
ノーニャの声ではっと我に返った隊長が静止するが、既に遅い。
彼女は兵士達を押しのけて、その光景を見た。
(なにこれ、なにこれ、なにこれ……!)
精霊を宿した彼女にはわかる……否、わかってしまう。
彼らが、自分の契約したサラマンドラなど比ぶべくもない、精霊の中でも特に高位の、神に最も近い存在だということが。
そして、そこに居たであろう人物が今どういう状況であるかも!
(あんな数の高位精霊に精気を吸われたら……)
彼女はまだ親しい者を失った経験がない。
死という状態を知ってはいても理解はしていないのだ。
「姫様、すぐにお下がり下さい。今すぐこの場を脱出します」
「緊急故失礼します」
「え……」
何かを言うまでもなく兵士に抱き上げられるノーニャ。
(え……ジミーは? まだあそこに……)
彼女の視線の先には精霊の群れと植物のオブジェがあるだけだった。
現実感の無いゆっくりとした時間の中で、彼女は祭儀場だった場所を凝視し続ける。
「ま、待ってよ……ジミーが……ジミーが、来てないの」
「…………」
兵士達は隊長含め誰も言葉を発さない。
精霊の気を少しでも引きたくないというのもそうだが、彼女に答える言葉を持ち合わせていなかったのだ。
「ねぇ……待ちなさいってば……」
彼女にいつもの覇気はなく、虚ろな人形のようである。
ノーニャの瞳が涙で潤み始めた時、精霊達が一斉に散らばりだした。
「隊長!!」
隊員が悲鳴のような声をあげる。
振り向いた隊長の目に写ったのは、凄まじい速度で迫りくる高位精霊達の姿だった。
「姫様を守れ!」
言うが早いか、兵士達は自分を盾とするべくノーニャの姿を覆い隠していく。
そんな中、ノーニャだけがそれを見ていた。
(ジミー!)
それは丁度、彼がドリュアスによって支えられたところだった。
(ど、どうしよう、ジミーぐったりしてた……私が……私が助けなきゃ……)
例えようのない恐怖。
全身が粟立ち、手足が震える。
あんな高位精霊に自分ができることなど何も無いだろう……。
(でも……だけど……)
周りを見る。
兵達は皆嵐が過ぎ去るのを待つかのように、固く目を閉じて衝撃に、痛みに備えている。
彼らには頼れない。
「私が、やらなきゃ!」
頬を両手でパンッと打ち気合を入れて、いつもの勝ち気な眼差しを取り戻す。
「みんな、私は大丈夫。お願い、ここを通して。あそこにジミーがいたの」
彼女は、彼らで見えないはずの祭祀場を真っ直ぐに見つめ、そう言った。
だがそれを聞いた兵士達はギョッとして彼女を見る。
命さえ投げ打って必死に守ろうとしている相手が、無事かもわからない他国の子供一人を助けに死地へ赴くというのだから堪ったものではない。
「姫様なりません! お言葉ですが、彼はも「うるさい!!」
「そんなこと行ってみなきゃわかんないじゃない! さっさとそこをどいて!」
ノーニャは力尽くでも通ろうと兵士達を押しのけ始める。
「くっ……姫を拘束しろ。絶対に行かせるな」
「「「はっ」」」
「貴方達、ちょっと! やめて! 私は、私が!」
流石のノーニャも、寄ってたかって羽交い締めにされてはどうにも出来ない。
「申し訳ありません、姫様。処分は後程、如何様にでも」
「隊長、あれを見て下さい」
隊員が指差した先には背の高い精霊二体と、低いのが一体歩いていた。
「どこに向かっている?」
「わかりません、あちらは神殿正面の崖ですが……。それと、あの背の高い精霊の腕の中に」
「まさか……彼か? いや、だが……」
遠くてはっきりしないが、確かに子供のようなものを抱きかかえているように見える。
「だから言ってるじゃない! ジミーがあそこにいるの!」
そう言ってもがくノーニャだが、ガッチリと掴まれていて逃れられない。
「落ち着いて下さい、姫様。彼のことも心配ではありますが、今は国の一大事やも知れないのです!」
隊長は彼女を諌めながらも、先程消えていった精霊の群れのことを考えていた。
あれ程の存在が帝国内で暴れれば、甚大な被害が出るだろうことは想像に難くない。
彼はすぐにでも皇帝に謁見し、報告しなければならないと考えていた。
「あ! ねえ、今ジミーと目があったわ!」
「姫様……」
「ぁ、ジミー!」
「隊長、彼らが!」
ノーニャから精霊達に視線を戻した隊長が見たのは、彼らが崖から落ちていくところだった。
「下ろして! すぐに下に行くわよ!」
隙を突いて拘束を逃れたノーニャが階段に向かって走り出し、一瞬遅れて兵士達が追いかけて行く。
後には、荒れた神域とボロボロのブラフマンだけが残されていた……。
「おお……おお……神よ……」
「あなた達、ちょっと情けないわよ」
「面目次第もございません……」
身体強化しか持たないものに向かって精霊契約者に追いつけと言うのは、亀に跳ねろと言っているのと同じだ。
そんなことはノーニャにも分かっているし、本当ならこんなことは言いたくない。
だが、ジミーの言うことももっともなのだ。
大の大人、それも近衛兵が、子供でも付いていっているにも関わらず護衛対象に置き去りにされ、追いついたら追いついたで疲れて動けない……。
傍から見たら、何をやっているんだと罵声を浴びても仕方のない絵面であるし、実際職務を全うできていないのだから。
(ちょっと不憫だとは思うけれどね……)
兵士達もノーニャの声音からその辺りを察しており、察しているが故に悔しかった。
隊長ですら唇を噛まないよう固く引き結んでおくのが精一杯で、隊員たちは皆唇を噛み、拳をきつく握りしめて悔しそうな表情をしている。
ノーニャは重くなり始めた空気を変えようと、パンッと手を打ち鳴らして皆の注意を集めた。
「ところで、あなた達から見てもやっぱり彼は異常なのかしら?」
話題を変えると同時に、暗に彼らを慰めようとジミーの異常性について話題を振る。
「そうですね。魔法も身体強化も無しにあれだけの運動能力……しかも齢二歳でしたか。はっきり言って異常なんてものではありません」
「そうね、私でも彼を撒くのは容易じゃないもの」
「彼が姫様の婚約者でなければ何かしら理由をつけて拘束し、可能ならば安全のために処刑していることでしょう。そのくらい、彼は危険です」
処刑の下りでノーニャの視線が険しくなるが、彼らも護衛として進言を躊躇う訳にはいかない。
「そもそも彼はヒューマンなのですか? 練兵場で毎日見ていますが、成長速度も動きも同じ種族とは到底思えません」
ジミーは肉体的な訓練を行うために、許可を得て毎日練兵場の一角を間借りしていた。
その訓練風景は初め歩行訓練のようなものだったが、次第にエスカレートしていき、今では日中ずっと動き続けているような有様だったのだ。
「話は聞いているわ。私も何度も止めたのだけど、これをやらないと王国で笑いものになってしまうとかなんとか……」
「そんな馬鹿なことが……」
ノーニャも自分で話して意味がわからない。
どこの世に幼児に対して軍人以上の身体能力を求める国があるのだろうか……。
「ええ、私もそう思ってよくよく聞いたら、三歳になった子供のお披露目パーティがあるそうなの」
「お披露目パーティーと言うと、王侯貴族や有力者達が子供を出汁にして行う、あの?」
「そう。あの、お披露目パーティー」
帝国でもそのような催しはあり、ノーニャも以前出席して辟易した記憶がある。
しかし3才児など皆似たり寄ったりであるし、ノーニャのように特別であることの方が珍しいため、大抵の子供は連れ回されるだけ連れ回されて終わりである。
「それは……」
「はっきり言って無意味ね。でもあのお馬鹿さんは本気で人生を左右すると思ってるみたい」
(そういうとこだけ年相応なんだもんな……)
もともとノーニャは精神的成長が早く年齢も自分のほうが高かったので、ジミーのことを賢いとは言っても自分と同じかそれ以下だろうと踏んでいた。
なので姉弟みたいなのを想像していたのだが、実際は同じどころかジミーの方が精神的に成熟していたのだ。
そうして一歳半のくせに何故か大人びている、チグハグな彼を観察するのが半年前からの彼女の日課となっていた。
「それとね、彼が人間かどうか私も気になって簡易検査と魔力測定をやったことがあるんだけど……」
その時、祭儀場の方に尋常ではない光が見えた。
(なにあれ!? しかもどんどん強くなってる……)
「姫様、お下がり下さい!」
兵士達がノーニャを取り囲むようにして即座に移動した。
いくら落ち込んでいてもそこは職業軍人である。
すぐさま自分たちの影に彼女を隠すと周囲、特に異常の中心である祭儀場を警戒しだす。
「何が起こっているの!?」
「わかりません! 姫様が洗礼をお受けになった時はどうだったのですか?」
自分が洗礼を受けた時のことを思い出すノーニャ。
「私の時は、聖遺物から宝玉を介して力を授けられて、その後サラマンドラと契約しただけ。こんな光、知らないよ……ジミー……」
強くなっていた光が渦を巻き、一際激しく光ったかと思うと、圧力を感じるほどの魔力波が巻き起こった。
「くっ……!」
「きゃあ!」
「姫様!」
「ご無事ですか!?」
凄まじい魔力波にノーニャは転んでしまっていた。
兵士の一人がすぐに助け起こすが、初めて間近で受けた魔力波に彼女は足がすくんでしまっていて上手く立てない。
「だ、大丈夫。それより祭儀場は、ジミーはどうなったの!?」
自分のことなど二の次とばかりにジミーの安否を確かめようとするノーニャ。
自覚は無かったが、彼女にとってジミーは単なる異国の面白そうな人……ではなくなっていた。
自分を形成する何かがあるとしたら、既にその一部になっていたのだ。
婚約者だ何だと言っていても、彼女だってまだ五歳の子供である。
その気持は未だ親兄弟へのそれと区別できるものではなかったが、確かに彼女にとって彼が大切なものの一つになっている事が見て取れた。
「わかりません……ですが、これは……」
隊長は見てしまった。
光が消えた後に現れた、おびただしい数の精霊らしき存在を。
そのどれもが彼では太刀打ちできない存在であり、ここが今この国で最も危険な場所の一つとなったことを肌で感じた。
「なによ、どうしたって……言う…………」
「駄目です姫様!」
ノーニャの声ではっと我に返った隊長が静止するが、既に遅い。
彼女は兵士達を押しのけて、その光景を見た。
(なにこれ、なにこれ、なにこれ……!)
精霊を宿した彼女にはわかる……否、わかってしまう。
彼らが、自分の契約したサラマンドラなど比ぶべくもない、精霊の中でも特に高位の、神に最も近い存在だということが。
そして、そこに居たであろう人物が今どういう状況であるかも!
(あんな数の高位精霊に精気を吸われたら……)
彼女はまだ親しい者を失った経験がない。
死という状態を知ってはいても理解はしていないのだ。
「姫様、すぐにお下がり下さい。今すぐこの場を脱出します」
「緊急故失礼します」
「え……」
何かを言うまでもなく兵士に抱き上げられるノーニャ。
(え……ジミーは? まだあそこに……)
彼女の視線の先には精霊の群れと植物のオブジェがあるだけだった。
現実感の無いゆっくりとした時間の中で、彼女は祭儀場だった場所を凝視し続ける。
「ま、待ってよ……ジミーが……ジミーが、来てないの」
「…………」
兵士達は隊長含め誰も言葉を発さない。
精霊の気を少しでも引きたくないというのもそうだが、彼女に答える言葉を持ち合わせていなかったのだ。
「ねぇ……待ちなさいってば……」
彼女にいつもの覇気はなく、虚ろな人形のようである。
ノーニャの瞳が涙で潤み始めた時、精霊達が一斉に散らばりだした。
「隊長!!」
隊員が悲鳴のような声をあげる。
振り向いた隊長の目に写ったのは、凄まじい速度で迫りくる高位精霊達の姿だった。
「姫様を守れ!」
言うが早いか、兵士達は自分を盾とするべくノーニャの姿を覆い隠していく。
そんな中、ノーニャだけがそれを見ていた。
(ジミー!)
それは丁度、彼がドリュアスによって支えられたところだった。
(ど、どうしよう、ジミーぐったりしてた……私が……私が助けなきゃ……)
例えようのない恐怖。
全身が粟立ち、手足が震える。
あんな高位精霊に自分ができることなど何も無いだろう……。
(でも……だけど……)
周りを見る。
兵達は皆嵐が過ぎ去るのを待つかのように、固く目を閉じて衝撃に、痛みに備えている。
彼らには頼れない。
「私が、やらなきゃ!」
頬を両手でパンッと打ち気合を入れて、いつもの勝ち気な眼差しを取り戻す。
「みんな、私は大丈夫。お願い、ここを通して。あそこにジミーがいたの」
彼女は、彼らで見えないはずの祭祀場を真っ直ぐに見つめ、そう言った。
だがそれを聞いた兵士達はギョッとして彼女を見る。
命さえ投げ打って必死に守ろうとしている相手が、無事かもわからない他国の子供一人を助けに死地へ赴くというのだから堪ったものではない。
「姫様なりません! お言葉ですが、彼はも「うるさい!!」
「そんなこと行ってみなきゃわかんないじゃない! さっさとそこをどいて!」
ノーニャは力尽くでも通ろうと兵士達を押しのけ始める。
「くっ……姫を拘束しろ。絶対に行かせるな」
「「「はっ」」」
「貴方達、ちょっと! やめて! 私は、私が!」
流石のノーニャも、寄ってたかって羽交い締めにされてはどうにも出来ない。
「申し訳ありません、姫様。処分は後程、如何様にでも」
「隊長、あれを見て下さい」
隊員が指差した先には背の高い精霊二体と、低いのが一体歩いていた。
「どこに向かっている?」
「わかりません、あちらは神殿正面の崖ですが……。それと、あの背の高い精霊の腕の中に」
「まさか……彼か? いや、だが……」
遠くてはっきりしないが、確かに子供のようなものを抱きかかえているように見える。
「だから言ってるじゃない! ジミーがあそこにいるの!」
そう言ってもがくノーニャだが、ガッチリと掴まれていて逃れられない。
「落ち着いて下さい、姫様。彼のことも心配ではありますが、今は国の一大事やも知れないのです!」
隊長は彼女を諌めながらも、先程消えていった精霊の群れのことを考えていた。
あれ程の存在が帝国内で暴れれば、甚大な被害が出るだろうことは想像に難くない。
彼はすぐにでも皇帝に謁見し、報告しなければならないと考えていた。
「あ! ねえ、今ジミーと目があったわ!」
「姫様……」
「ぁ、ジミー!」
「隊長、彼らが!」
ノーニャから精霊達に視線を戻した隊長が見たのは、彼らが崖から落ちていくところだった。
「下ろして! すぐに下に行くわよ!」
隙を突いて拘束を逃れたノーニャが階段に向かって走り出し、一瞬遅れて兵士達が追いかけて行く。
後には、荒れた神域とボロボロのブラフマンだけが残されていた……。
「おお……おお……神よ……」
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