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第一章 砂漠の姫君
出芽
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拝啓
清々しい秋晴れの今日この頃、父様、母様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
遠く離れた異国の地ではありますが、私は元気です。
今も雲一つない青空を葉っぱ一枚で飛んでいるのですが、二歳時にはつらいこんな場所でも不思議と私の身体はびくともしていません。
因みに私は服を着ています。紳士ですからね。
そろそろ地面が近いので、筆を置きます。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。 敬具
帝都が近づいてきたので私は脳内エアメールを適当なところで切り上げ、着地の衝撃に備える。
進路上には帝都へ入ろうとしている人の列があったが、私にどうこう出来ることではないので「避けて下さい」と祈ることしか出来なかった。
ザッ、ザザザザァァ――――……
盛大に砂埃を巻き上げ、地面を抉り取りながら停止する。
「ジェイムス様、着きました。大丈夫ですか?」
何事もないような顔をしてトローネさんが覗き込むようにして聞いてくる。
因みに彼女の言葉が流暢なのは、調整が終わったかららしい。
「はい、大丈夫です。有難うございました。それと、もう立てそうなので下ろして頂けますか」
「わかりました」
彼女にゆっくりと下ろしてもらい、久々の地面を踏みしめる。
(あ~……地に足がついてるって素晴らしい)
何度も足踏みをして感触を楽しんでいると、帝都から大勢の兵士が近づいてきた。
周りを見ると一般人は人っ子一人いなくなってる。
「トローネさん、ガレットさん、なるべく穏便にお願いしますね」
「「はい」」
彼女達も既に気がついているようで、そちらから目を離さずに首肯した。
顔が判別できるくらいの距離まで近づくと、彼らは歩みを止め、その中の数人だけがゆっくりと近づいてくる。
害意がないことを示すためだろうか、全員が一度止まって見えやすいところに武器を置き、最終的に数メートルのところまで近づいてきた。
「私達は城門警備隊の者です。そちらにみえるのはジェイムス・コルトー様でしょうか」
「はい、そうです」
警備隊長っぽい人の質問に、一歩進み出て返事をする。
「コルトー様、ご無事で何よりです。それで……そちらの方々は……。私の目が狂っていなければ精霊様に見えるの、です、が……」
ドリュアス達をチラリと見て、終始私に話しかけてくる警備隊長。
何故か顔中から汗が吹き出し、ダラダラと流れ落ち始めるが、どうしたのだろうか。
(何をそんなに緊張して……)
不思議に思って横のトローネを見ると……納得した。
確かに、男性には少々刺激が強いかもしれない。
「ちょっと失礼します。トローネさん、ガレットさん、それにルチアもちょっと」
「どうされました?」
「なんでしょう?」
「なーにー?」
彼に断りを入れ、私はすぐに彼女達を集める。
「皆さん、服を着ましょう」
そう、彼女達は今、殆ど生まれたままの姿なのだ。
大事な部分は隠されているものの、はっきり言って、下着姿というよりは変態さんである。
「取り敢えずこんなものでいいですか?」
そう言ってトローネの服装が葉っぱのビキニアーマーみたいな物に変わる。
う~ん、これだとまだコスプレ会場以外では捕まる気がする。
というか、どことは言わないが、肉がイケナイ感じにはみ出してる分こっちの方がアウトっぽい。
「いえ、もっとちゃんと隠せるようなもので」
彼女は考えるような素振りをした後、今度は全身鎧みたいな格好になった。
ファンタジーならこれはアリなのか?
正直良くわからないので警備隊の方を見ると、身構えるようにして怯えていた。
(あ、ダメだわ)
「チェンジで」
「わかりました……」
何故かトローネが少し残念そう。
その後何度か変更と修正を繰り返して、最終的にゆったりとした深緑色のローブに落ち着いた。
ガレットとルチアにも同じようなものを着てもらい、警備隊のところへ戻る。
「お待たせしました。それで、彼女達ですが――」
改めて精霊どうこうの話をしようとすると、彼らは先程までと違い跪き頭を垂れていた。
(しかも……なんか一人増えてる?)
「え? 皆さん、どうされたのですか?」
「先程の秘術、しかと拝見しました。精霊様方におかれましては、此の度のご顕現、恐悦至極に御座います」
増えたと思しき文官風の男性が口を開く。
彼らの顔を見ると、先程とは比べ物にならない量の汗が吹き出しており、若干身体も震えているのか、誰かの装具がカタカタと音を立てていた。
「「…………」」
「ま、また、帝国へのご尊来は如何様な御用でしょうか」
「「…………」」
「も、も、もし、よろしければ、皇帝陛下との会食に、お招きさせていただきたく存じます」
「「…………」」
(え……答えてあげないの? なんかすっごく気不味そうなんだけど?)
ものすごく重苦しい空気の中、なんか蚊帳の外にいるっぽい私は、台風の目にでも入り込んだかのような気分で傍観していた。
トローネ&ガレットは文官さんの言葉を聞いてはいるんだろうけど、全くもって答える気配がない。
文官さんは暖簾に腕押し状態にも関わらず一生懸命言葉を紡ぐも、残弾が心許無いのか黙ってしまう時間が長くなっていた。
クイクイッと袖をひかれる。
「ねー、まだー?」
ルチアは退屈しているご様子。
(仕方ない、彼女の相手でもしているか……)
「トローネさんとガレットさんが帝国の人とお話してるから、それが終わったら帰ろうね」
「えー……おじさん喋ってるだけだよ?」
文官さん、泣かないで……子供の言うことだから!
ルチアの容赦ない一言で彼の涙腺は崩壊してしまったようだった。
(表情変えずに泣いてるよ……子供って残酷)
「うーん……お二人とも、ルチアが待ちくたびれていますし、そろそろ返事をしてあげてもらえないですか?」
「私たちに話しかけていたのですか?」
「ルチア様じゃなく?」
「え? そこから?」
文官さんを見ると、もうなりふり構わず私の方を泣きながら見つめて「助けて!」という顔をしていた。
(……しょうがない)
「ルチア」
「んー?」
「この国の一番偉い人が一緒にごはん食べようって。どうする?」
「お腹いっぱい?」
「えーっと……」
文官さんがヘッドバンギングをしている。
中々いいビートを刻んでいるので、たぶんオッケーなのだろう。
「うん、お腹いっぱい食べれるよ」
「ジミーも一緒?」
もう一度文官さんを確認する。
「は、はい! よろしければ皆様揃ってご参加下さい!」
「だって。行く?」
「いーよー。じゃあ、いこ!」
そう言うなり私の手を引っ張っていくルチア。
「お、お待ち下さい。馬車をご用意してありますので、よろしければご利用下さい」
「ルチア、馬車乗っていこう?」
「速い?」
「うん、速い速い」
「うぃー」
これは肯定なのだろうか?
よく分からなかったが、今度は私に付いて来てくれているので良いということだろう。
私達は警備兵さん達に慰められている文官さんを横目に、馬車へと乗り込むのだった。
◆ ◆ ◆
宮殿へと到着した私達は、準備が整うまで客室で待つことになった。
ルチアは「まだー?」とブーたれていたが、なんとか宥めすかして大人しくさせている。
この部屋は私がここ半年ほど住まわせてもらっている場所で、ゴテゴテの装飾が目に痛いロココ調の洋室だ。
気を使ってもらっている自覚はあるのだが、こればっかりはありがた迷惑というものである。
「そう言えば、そのローブはどうやって出したんですか?」
さっきは当然のように流していたが、トローネとガレットの着ているローブは、まるで彼女達から生えてきたように見えたので気になっていたのだ。
「普通に出しただけですが?」
そう言ってトローネが手からローブを生やして、手渡してくる。
「出しただけって……へぇ」
見てるだけでは分からなかったが、植物的な外見とは裏腹にしっかりとしていて、手触りがよかった。
(普通の店売り品よりも上質そうだな。ドリュアスの洋服店とかあったら流行るんじゃなかろうか)
「魔法を使えるようになれば、私にもできますかね?」
「いえ、魔法ではありませんので。ですがジミー様ならば、やろうと思えばできるはずですよ」
「そんな……手品じゃないんだから」
「手品というのがどういったものか分かりませんが……試しに造りたいものをイメージしつつ、エーテルを素にして何処かから出芽させてみて下さい」
当然のように「さあ、やってみて下さい」と言う彼女は、私がヒューマンなのを忘れているんじゃなかろうか。
「エーテル、なにそれオイシイの?」状態な上に、身体から植物を生やすとか……イメージだけでどうにかなるものじゃないでしょ?
私がチャレンジするのを見守ってくれているトローネには悪いけれど、もう少しヒューマンにも解りやすいレクチャーをお願いしたい。
私が助けを求めて視線を動かすと、ガレットと目が合った。
「頑張ってください」
表情を変えずに親指をグッと立ててそんなことを言う彼女もまた、「やってみればできる」と思ってる節がある。
駄目だ、頼れる相手がもう……。
「何してるのー?」
「ルチア様、お帰りなさいませ。今、ジミー様が出芽ができないと仰るので、練習しているところなのです」
「ふーん……できないの?」
「うぐっ」
コテっと首を傾げる姿は非常に愛らしいのだが、とても心が傷つくのはなぜだろうか。
文官さんと会食の話をしているときにも思ったのだが、彼女はある種のハートブレイカーとして才能がある気がする。
「お恥ずかしながら……全く出来ません……」
「うーんとね……えいっ!」
ドスッ
「へ?」
「出芽はね~、こうしてー、こうすると、こうなるからー、ここをあーしてー……ここをこう!」
ルチアは私のおでこに人差し指を突き刺すと、感覚的な説明をしながらグリグリと動かして、私の身体で実践しだした。
「おぴょ!?」
最後に身体がビクンっと跳ねた拍子に変な声が出てしまったが、体の中を弄くられていたことを思えば許容範囲だろう。
ルチアが「わかった?」と聞いてくる。
正直に言うと、わかって……しまった。
(あれ? 私ってヒューマンじゃなかったっけ?)
手の平から生えている小さな芽を見て、なるほど確かに「イメージして生やすだけ」と言うのは言い得て妙だなと思う。
今なら言葉では非常に表現しにくいのがよく分かる。
私が聞いた質問は、「嚥下ってどうやるの?」とか「呼吸はどうすればいいの?」と言っているようなものなのだ。
「ルチア、ありがとう。わかったから、そろそろ指を抜いてくれる?」
「あぃ」
彼女はニッコリ笑うと私の額から指を引き抜いた。
額を擦りながら穴がないことを確かめていると、廊下から激しい足音が聞こえてくる。
すぐにドアが蹴破るようにして開けられ、血相を変えた姫様が飛び込んできた。
「ジミー、大丈夫!?」
なんだか目の周りが赤いが、一体どうしたというのか。
彼女は部屋の中を見回し、私を見つけ安堵したのも束の間、三人の同席者を見て身構えるのだった。
清々しい秋晴れの今日この頃、父様、母様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
遠く離れた異国の地ではありますが、私は元気です。
今も雲一つない青空を葉っぱ一枚で飛んでいるのですが、二歳時にはつらいこんな場所でも不思議と私の身体はびくともしていません。
因みに私は服を着ています。紳士ですからね。
そろそろ地面が近いので、筆を置きます。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。 敬具
帝都が近づいてきたので私は脳内エアメールを適当なところで切り上げ、着地の衝撃に備える。
進路上には帝都へ入ろうとしている人の列があったが、私にどうこう出来ることではないので「避けて下さい」と祈ることしか出来なかった。
ザッ、ザザザザァァ――――……
盛大に砂埃を巻き上げ、地面を抉り取りながら停止する。
「ジェイムス様、着きました。大丈夫ですか?」
何事もないような顔をしてトローネさんが覗き込むようにして聞いてくる。
因みに彼女の言葉が流暢なのは、調整が終わったかららしい。
「はい、大丈夫です。有難うございました。それと、もう立てそうなので下ろして頂けますか」
「わかりました」
彼女にゆっくりと下ろしてもらい、久々の地面を踏みしめる。
(あ~……地に足がついてるって素晴らしい)
何度も足踏みをして感触を楽しんでいると、帝都から大勢の兵士が近づいてきた。
周りを見ると一般人は人っ子一人いなくなってる。
「トローネさん、ガレットさん、なるべく穏便にお願いしますね」
「「はい」」
彼女達も既に気がついているようで、そちらから目を離さずに首肯した。
顔が判別できるくらいの距離まで近づくと、彼らは歩みを止め、その中の数人だけがゆっくりと近づいてくる。
害意がないことを示すためだろうか、全員が一度止まって見えやすいところに武器を置き、最終的に数メートルのところまで近づいてきた。
「私達は城門警備隊の者です。そちらにみえるのはジェイムス・コルトー様でしょうか」
「はい、そうです」
警備隊長っぽい人の質問に、一歩進み出て返事をする。
「コルトー様、ご無事で何よりです。それで……そちらの方々は……。私の目が狂っていなければ精霊様に見えるの、です、が……」
ドリュアス達をチラリと見て、終始私に話しかけてくる警備隊長。
何故か顔中から汗が吹き出し、ダラダラと流れ落ち始めるが、どうしたのだろうか。
(何をそんなに緊張して……)
不思議に思って横のトローネを見ると……納得した。
確かに、男性には少々刺激が強いかもしれない。
「ちょっと失礼します。トローネさん、ガレットさん、それにルチアもちょっと」
「どうされました?」
「なんでしょう?」
「なーにー?」
彼に断りを入れ、私はすぐに彼女達を集める。
「皆さん、服を着ましょう」
そう、彼女達は今、殆ど生まれたままの姿なのだ。
大事な部分は隠されているものの、はっきり言って、下着姿というよりは変態さんである。
「取り敢えずこんなものでいいですか?」
そう言ってトローネの服装が葉っぱのビキニアーマーみたいな物に変わる。
う~ん、これだとまだコスプレ会場以外では捕まる気がする。
というか、どことは言わないが、肉がイケナイ感じにはみ出してる分こっちの方がアウトっぽい。
「いえ、もっとちゃんと隠せるようなもので」
彼女は考えるような素振りをした後、今度は全身鎧みたいな格好になった。
ファンタジーならこれはアリなのか?
正直良くわからないので警備隊の方を見ると、身構えるようにして怯えていた。
(あ、ダメだわ)
「チェンジで」
「わかりました……」
何故かトローネが少し残念そう。
その後何度か変更と修正を繰り返して、最終的にゆったりとした深緑色のローブに落ち着いた。
ガレットとルチアにも同じようなものを着てもらい、警備隊のところへ戻る。
「お待たせしました。それで、彼女達ですが――」
改めて精霊どうこうの話をしようとすると、彼らは先程までと違い跪き頭を垂れていた。
(しかも……なんか一人増えてる?)
「え? 皆さん、どうされたのですか?」
「先程の秘術、しかと拝見しました。精霊様方におかれましては、此の度のご顕現、恐悦至極に御座います」
増えたと思しき文官風の男性が口を開く。
彼らの顔を見ると、先程とは比べ物にならない量の汗が吹き出しており、若干身体も震えているのか、誰かの装具がカタカタと音を立てていた。
「「…………」」
「ま、また、帝国へのご尊来は如何様な御用でしょうか」
「「…………」」
「も、も、もし、よろしければ、皇帝陛下との会食に、お招きさせていただきたく存じます」
「「…………」」
(え……答えてあげないの? なんかすっごく気不味そうなんだけど?)
ものすごく重苦しい空気の中、なんか蚊帳の外にいるっぽい私は、台風の目にでも入り込んだかのような気分で傍観していた。
トローネ&ガレットは文官さんの言葉を聞いてはいるんだろうけど、全くもって答える気配がない。
文官さんは暖簾に腕押し状態にも関わらず一生懸命言葉を紡ぐも、残弾が心許無いのか黙ってしまう時間が長くなっていた。
クイクイッと袖をひかれる。
「ねー、まだー?」
ルチアは退屈しているご様子。
(仕方ない、彼女の相手でもしているか……)
「トローネさんとガレットさんが帝国の人とお話してるから、それが終わったら帰ろうね」
「えー……おじさん喋ってるだけだよ?」
文官さん、泣かないで……子供の言うことだから!
ルチアの容赦ない一言で彼の涙腺は崩壊してしまったようだった。
(表情変えずに泣いてるよ……子供って残酷)
「うーん……お二人とも、ルチアが待ちくたびれていますし、そろそろ返事をしてあげてもらえないですか?」
「私たちに話しかけていたのですか?」
「ルチア様じゃなく?」
「え? そこから?」
文官さんを見ると、もうなりふり構わず私の方を泣きながら見つめて「助けて!」という顔をしていた。
(……しょうがない)
「ルチア」
「んー?」
「この国の一番偉い人が一緒にごはん食べようって。どうする?」
「お腹いっぱい?」
「えーっと……」
文官さんがヘッドバンギングをしている。
中々いいビートを刻んでいるので、たぶんオッケーなのだろう。
「うん、お腹いっぱい食べれるよ」
「ジミーも一緒?」
もう一度文官さんを確認する。
「は、はい! よろしければ皆様揃ってご参加下さい!」
「だって。行く?」
「いーよー。じゃあ、いこ!」
そう言うなり私の手を引っ張っていくルチア。
「お、お待ち下さい。馬車をご用意してありますので、よろしければご利用下さい」
「ルチア、馬車乗っていこう?」
「速い?」
「うん、速い速い」
「うぃー」
これは肯定なのだろうか?
よく分からなかったが、今度は私に付いて来てくれているので良いということだろう。
私達は警備兵さん達に慰められている文官さんを横目に、馬車へと乗り込むのだった。
◆ ◆ ◆
宮殿へと到着した私達は、準備が整うまで客室で待つことになった。
ルチアは「まだー?」とブーたれていたが、なんとか宥めすかして大人しくさせている。
この部屋は私がここ半年ほど住まわせてもらっている場所で、ゴテゴテの装飾が目に痛いロココ調の洋室だ。
気を使ってもらっている自覚はあるのだが、こればっかりはありがた迷惑というものである。
「そう言えば、そのローブはどうやって出したんですか?」
さっきは当然のように流していたが、トローネとガレットの着ているローブは、まるで彼女達から生えてきたように見えたので気になっていたのだ。
「普通に出しただけですが?」
そう言ってトローネが手からローブを生やして、手渡してくる。
「出しただけって……へぇ」
見てるだけでは分からなかったが、植物的な外見とは裏腹にしっかりとしていて、手触りがよかった。
(普通の店売り品よりも上質そうだな。ドリュアスの洋服店とかあったら流行るんじゃなかろうか)
「魔法を使えるようになれば、私にもできますかね?」
「いえ、魔法ではありませんので。ですがジミー様ならば、やろうと思えばできるはずですよ」
「そんな……手品じゃないんだから」
「手品というのがどういったものか分かりませんが……試しに造りたいものをイメージしつつ、エーテルを素にして何処かから出芽させてみて下さい」
当然のように「さあ、やってみて下さい」と言う彼女は、私がヒューマンなのを忘れているんじゃなかろうか。
「エーテル、なにそれオイシイの?」状態な上に、身体から植物を生やすとか……イメージだけでどうにかなるものじゃないでしょ?
私がチャレンジするのを見守ってくれているトローネには悪いけれど、もう少しヒューマンにも解りやすいレクチャーをお願いしたい。
私が助けを求めて視線を動かすと、ガレットと目が合った。
「頑張ってください」
表情を変えずに親指をグッと立ててそんなことを言う彼女もまた、「やってみればできる」と思ってる節がある。
駄目だ、頼れる相手がもう……。
「何してるのー?」
「ルチア様、お帰りなさいませ。今、ジミー様が出芽ができないと仰るので、練習しているところなのです」
「ふーん……できないの?」
「うぐっ」
コテっと首を傾げる姿は非常に愛らしいのだが、とても心が傷つくのはなぜだろうか。
文官さんと会食の話をしているときにも思ったのだが、彼女はある種のハートブレイカーとして才能がある気がする。
「お恥ずかしながら……全く出来ません……」
「うーんとね……えいっ!」
ドスッ
「へ?」
「出芽はね~、こうしてー、こうすると、こうなるからー、ここをあーしてー……ここをこう!」
ルチアは私のおでこに人差し指を突き刺すと、感覚的な説明をしながらグリグリと動かして、私の身体で実践しだした。
「おぴょ!?」
最後に身体がビクンっと跳ねた拍子に変な声が出てしまったが、体の中を弄くられていたことを思えば許容範囲だろう。
ルチアが「わかった?」と聞いてくる。
正直に言うと、わかって……しまった。
(あれ? 私ってヒューマンじゃなかったっけ?)
手の平から生えている小さな芽を見て、なるほど確かに「イメージして生やすだけ」と言うのは言い得て妙だなと思う。
今なら言葉では非常に表現しにくいのがよく分かる。
私が聞いた質問は、「嚥下ってどうやるの?」とか「呼吸はどうすればいいの?」と言っているようなものなのだ。
「ルチア、ありがとう。わかったから、そろそろ指を抜いてくれる?」
「あぃ」
彼女はニッコリ笑うと私の額から指を引き抜いた。
額を擦りながら穴がないことを確かめていると、廊下から激しい足音が聞こえてくる。
すぐにドアが蹴破るようにして開けられ、血相を変えた姫様が飛び込んできた。
「ジミー、大丈夫!?」
なんだか目の周りが赤いが、一体どうしたというのか。
彼女は部屋の中を見回し、私を見つけ安堵したのも束の間、三人の同席者を見て身構えるのだった。
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