紳士転生~異世界奮闘記~

アケミナミ

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第二章

外の依頼

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 エーゲルボルンのクランハウスに迎え入れられた翌日、私とノーニャは城壁外の依頼を受けるべく、早速ギルドに来ていた。
 朝早く来たにも関わらずギルド会館内は人でごった返しており、私とノーニャは人混みを縫うようにしてカウンターへと進んで行く。

(こういう時だけはこの体に感謝だな)

 精霊の影響等で成長が早いとは言え、私達の背丈はまだ大人達とは比ぶべくもないため、容易に足元の隙間を抜けて行くことが出来た。

「リリアさん、おはようございます」
「あら、タガヤ君にターニャさん、おはようございます」

 リリアさんがカウンターから身を乗り出して微笑んだ。

「今日から早速外へ行くの?」
「はい。狩猟Eランクの依頼票を見せてもらえますか?」

 私はそう言って、新人期間を終えた証のドッグタグを彼女に見せる。

「はい、確かに。ではどうぞ。あとこっちは単発の物で、納入先がギルドじゃない場合があるから注意してね」

 リリアさんが差し出してきた依頼票の表紙には『狩猟E定期』と書かれており、それとは別に渡された紙は、簡単な情報だけを箇条書きにした単発依頼の一覧だった。
 先に定期の方をざっと見ていく。

(うーん……)

 定期の依頼は食肉等の食料調達と魔獣素材の採取が主な依頼内容で、時期ごとの物や通年の物があった。
 これらは期間が長く設定されていて、何人でも受けることが出来、討伐対象もナベリア周辺の一般的な魔獣であるため受け易い。だが如何せん、報酬が討伐数ではなく素材の個数やキロ当たりになっているため、私とノーニャではそれ程稼げそうになかった。
 ただ誤解の無いように言うと、他の冒険者が定期依頼の報酬である程度食べれていることからも、決して定期依頼の報酬が低い訳ではない。

(ルチア達が居るからなぁ……)

 私達は精霊四人を含めた六人分を稼ぎ、さらに『鉱石モグラ』への賠償をする必要があるため、持ち歩ける量で報酬が左右されてしまうのは望ましくなかったのだ。
 本当は手伝って貰おうと考えていたのだが、新人研修をやっていた辺りからルチアがコハクと遊ぶのに嵌ってしまい、コハクの世話をお願いしたサラマンドラは勿論、ルチアの御付きであるトローネとガレットも留守番役となってしまっていた。

「タガヤ、これ見て」

 微妙そうな顔をして依頼票を漁っていると、単発依頼のリストを見ていたノーニャが何か見つけたのか、リストを指差して私に見せてきた。

「調査か……何するのか分からないけど、報酬はいいね」
「でしょ。リリアさん、これの依頼書見せてもらえる?」
「ちょっと見せて下さい。えーっと、二十七番ですね」

 受付カウンター後ろには格子状に小さく区切られた棚があり、その一つ一つに番号が振られていて、中には巻いた紙が入れられている。
 リリアさんがその中から二十七番の巻物を取り出して戻ってきた。

「鉱山トカゲの調査でよかったですか?」
「ええ、ありがとう」

 ノーニャが受け取った依頼書を二人で覗き込む。


『鉱山トカゲの調査』

依頼者:
 ナベリア冒険者ギルド

報酬:
 銀板一枚~金貨10枚(報告内容により変動)
 別途討伐報酬あり

依頼内容:
 南にある休坑道付近にて鉱山トカゲが目撃されています。

 巣の場所と個体数、種類の調査をお願いします。
 個体数確認のため、坑道ごとに支給する砂時計を用いて一定時間の出入り数を確認して下さい。
 種の確認のため、鱗を含む一部ないし一個体のサンプルを提出願います。

 生成中の鉱床を確認するため、坑道内で鉱山トカゲの排泄物または鉱物を発見した場合、片手に収まる程度をサンプルとして持ち帰って下さい。

 生息数がごく僅かであるなどの理由から討伐可能であった場合、討伐していただいても構いません。その際は別途討伐報酬を加算しますので、討伐した全固体の討伐部位(上顎の嘴)を提出して下さい。


「これいいな」

 色々と書いてはあるが、全部討伐してしまえるならばサンプルや討伐報酬を持ち帰るだけでよく、しかもその場合の報酬は、調査依頼と討伐依頼の二つ分になると考えていいだろう。

「今の私達にピッタリだし、決まりね! リリアさん、これにするわ」

 そうして手続きを終えた私達は、早速南へ向かうのだった。


  ◆  ◆  ◆


 ナベリアの南門から出た私とノーニャは、農耕地帯を過ぎた辺りで精霊門を使って南の鉱山まで一気に移動した。
 引っ張られる感覚が無くなったのを確認して、恐る恐る目を開ける。
 そこには怒り狂った男達は居らず、以前見た暖色系の岩石砂漠とは違い、白っぽい岩などからなる寒色系の景色が広がっていた。

「おぉ……」
「上手くいったわね。練習した甲斐があって良かったじゃない」

 そう言ってノーニャが私の背中を叩く。
 彼女の言う通り、鉱石モグラの戦利品を真っ二つにしてしまってから、私は時間を見つけては精霊門の練習をしていたのだ。
 ただ、城壁外の依頼を受けるに当たって精霊門が必要になるとは思っていたが、いきなり初回の依頼で、しかも引き寄せられ易い鉱山へ飛ぶ事になるとは思わなかった。

「うん、ホント良かった。じゃあ後は鉱山トカゲを処理して終わりだし、ちゃっちゃと済ましちゃお」

 精霊門で飛ぶ際、仮に失敗すれば今度は地面の中に出てしまうかも知れないと言うプレッシャーを感じていた私は、上手くいった事でもう殆ど依頼を達成したような気分である。
 ノーニャも鉱山トカゲの討伐に関しては何の不安も無いようで、手の平に拳を打ち合わせて「そうね!」と張り切っていた。

「じゃあ早速」

 パンッ!!

 魔力ソナーで周囲を探ると、周囲に何箇所か人の通れる穴があった。

「幾つかあるみたいだから、あっちから順番に行こうか」
「え? 別々にやった方が早いじゃない」

 ノーニャの困惑した顔には、一体何を言っているんだと書いてある。

「そうしたいのはやまやまなんだけど、何にも準備して来てないからさ」

 私達はギルドで依頼を受けてそのまま真っ直ぐここへ来たため、何一つ持っていなかった。

「そんなの、ジミーがちょちょっと出せば済むじゃない」
「まあそうなんだけど、中じゃ火が使えなくて戦闘力が落ちるだろうし、何より小さな女の子を一人には出来ないよ」

 年齢を偽ってこんな所に冒険者として仕事に来ていても、実際はまだ五歳の幼女なのだ。
 ノーニャの事を信用していない訳では無いが、力の制限される環境下に一人で行かせるのは流石に躊躇われるし、紳士としても容認できる事ではない。

「な…………ま、まあ、そういう事なら仕方ないわね」

 若干面食らった様子のノーニャだったが、取り敢えず納得はしたようだ。
 ただ、気が緩んだのか、髪を弄りつつ上目遣いで此方をチラチラと見ているのはいただけない。

(あんまり怖がらせたくはないけど、怪我をされても困るし、一応注意しておいた方がよさそうだな)

「それに、坑道の中には底の見えない縦穴が幾つもあって、落ちたりなんかしたら――って、どうしたの?」
「…………わ、私やっぱり、入り口で逃げ出して来るのがいないか、見張ることにするわ」

 そう言って、ノーニャは先程とは違う意味でそわそわしだした。
 なんとも分かり易い反応だが、此方としても気を使わなくて済み、取り零しも防げるので一石二鳥だろう。
 私はノーニャに見張りを任せて、早速取り掛かることにした。

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