鬼火 天正十六年 牙鳥の章

時雨竜

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壱之巻 怪奇!闇夜の墓堀人

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天正十六年、正史であれば七月八日(1588年8月29日)に豊臣秀吉によって刀狩りが行われたこの年…

織田信長が帰還するなど正史とは異なる流れを持つこちらの歴史でも、天正十六年七月八日に、織田・豊臣・浦上・毛利・立花・今川の領地で行われていた。



こちらの歴史の刀狩りの3ヶ条は以下のようになっていた。

・第1条 百姓が刀・脇差・弓・槍・鉄砲などの武器を持つことを固く禁じる。よけいな武器をもって年貢を怠ったり、一揆をおこしたりして役人の言うことを聞かない者は罰する。
・第2条 取り上げた武器は、近年頻出している魔物退治に使用する。そうすれば、百姓は魔物から救われる。
・第3条 百姓は農具だけを持って耕作に励めば、子孫代々まで無事に暮せる。

よって、こちらの歴史では、京都の方広寺の大仏の造立に使用される事は無かった。

これまで、靱(ウツボ)・猿(マシラ)・鼬(イタチ)・猫(ネコ)・梟(フクロウ)・鯰(ナマズ)・海月(クラゲ)といった魔身血社まじんけっしゃの魔物たちを倒してきた鬼こと赤井義朝あかいよしともと、その鬼を追う若き侍の赤井義経あかいよしつねと忍者のかぜであったが、前年から不穏な空気が流れていた。

これまで倒してきた魔物たちの墓を雷の降る夜に掘り返す黒装束の男が現れたという報告が日の本各地で入っていた。

かの事件により既に知り合っていた豊臣秀吉や織田信長の協力により、鬼の大剣に変わる武器が作り上げられようとしていた。

同時に、そのと名付けられた犯人とその目的を探る必要があった。
魔身血社の魔物の墓のうち、掘り返されていないのは、天正六年に日向の高城川で倒された鼬(イタチ)の墓と、天正十年に近江の山中で倒された梟(フクロウ)の墓のみ…
他の五つの墓は既に掘り返された後だった。

鬼が、九州へ向かったという報告を受け、赤井義経はあえて、近江の梟(フクロウ)の墓に向かった。
これまで犯人があまりにも順調に事を運んでいることから、どこかで情報が漏れていると踏んだ赤井義経は、相棒の風にも伝えず、一人、犯人が来るのを待っていた。

***

雷鳴が鳴り響く嵐の夜…
以前、風から教わった通り、地面に半身を埋め木葉や枯れ木で身を覆い熱が外に逃げるのを防ぎ、静かに息を殺していた赤井義経の前に、遂に犯人が現れた。
黒装束ではっきりとしないが、稲光の中でも墓を掘り返すのが判る…
闇夜の墓堀人に違いない…
闇夜の墓堀人は、ある程度墓を掘り返すと、そこに刀を突き刺した。
刀に向かって雷が降り注いでくる…
何か嫌な予感を感じた赤井義経は、立花宗茂より借りていた雷切丸により雷を一刀両断した。
「何奴!?」
闇夜の墓堀人が辺りを見渡す。
「それはこちらの台詞…拙者たちが倒した者たち…いくら魔物とはいえ、死者を愚弄するなどあってはならぬ!」
雷切丸に稲光が反射し、闇夜の墓堀人を照らした。
そこにいたのは、鴉(カラス)の顔をした魔物だった。
「やはり魔物…」
「我々、魔身血社を見くびられては困るな…死後も組織のために働くのは当然だ…」
「抜かせ!」
鴉の魔物は、翼を拡げ逃げようとするが、赤井義経は、嵐の中、周辺の木々を利用しそれを追う。
闇夜の戦いは、猫(ネコ)の魔物から逃げる際に…足場の悪い場所の戦いは、鯰(ナマズ)の魔物と対峙した際に…飛行する相手の対処は、梟(フクロウ)との対決でそれぞれ学んでいた。
赤井義経は、素早い動きで鴉の魔物の上をとると、背中に向かって雷切丸を突き刺した。
鴉の魔物は、ぐるぐると旋回しながら堕ちていった。
安心したのも束の間、赤井義経は、異様な視線を感じた。
一度感じた事のある視線…それは猫(ネコ)の魔物の巨大な光る目玉によるものだった。
「ニャア!」
一度は鬼によって倒されたはずの猫(ネコ)の魔物が再び赤井義経を追う。
驚く間もなく、赤井義経は梟(フクロウ)の墓の前に立つ海月(クラゲ)の魔物を発見する。
海月(クラゲ)の魔物の能力は、電気操作…
海月(クラゲ)の魔物が一瞬光ったかと思った次の瞬間、梟(フクロウ)の魔物は復活していた。
さらに次の瞬間、堕ちていた鴉(カラス)の魔物に雷が堕ちる。
立ち上がった鴉(カラス)の魔物と梟(フクロウ)の魔物…
赤井義経は、まずは刀を取り返そうと鴉(カラス)の魔物に近こうとするも、鴉(カラス)の魔物と梟(フクロウ)の魔物の起こした突風により、その身を飛ばされ意識を失ってしまった。
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