鬼火 天正十六年 牙鳥の章

時雨竜

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弐の巻 雷鳴!!死者の呼び声

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赤井義経が眼を覚ますと、夜は明け日が昇っていた。
「ここは?」
気が付くと、義経は木葉に埋められていた。
心配で追ってきた風が木葉で義経の身を隠し、魔物たちから逃がしたようだった。

***

義経は、風が敵で無い事を実感し、鼬(イタチ)が眠る日向の高城川に向かった。
鼬(イタチ)と戦ったのは、天正六年…
義経によって鼬(イタチ)は恐ろしい敵だった。まだ義経が幼かった事もあったが、鼬(イタチ)の攻撃はカマイタチを利用した攻撃を仕掛けてきた事も一因であった。
それまでも幼いながらも鬼を追い、魔物との闘いに巻き込まれては、剣術の腕を研いてきた義経にとって、義経の剣で防ぐことのできないカマイタチは恐怖の対象となった。
本体の鼬(イタチ)の魔物を、赤井義朝が斬り倒した事で事なきを得たが、義経が剣術を研くためのきっかけとなった敵であった。

***

日向…高城川…ここには、大宝の頃から残る高城と呼ばれる城がある。
そこから少し離れた川沿いにある小さな墓…それこそが、鼬(イタチ)の眠る墓であった。
その横に座り込むは、赤い巨漢の鬼…赤井義朝…
赤井義朝は、九州圏内で雷の降る日は必ず墓で寝ずの番をするようになっていた。
そんなとき、季節外れの台風とともに鴉(カラス)の魔物はやってきた。
「我々も暇ではないのでね…ここで決着をつけさせていただこう。」
鴉(カラス)の魔物は、羽をクナイ状にすると風に乗せ義朝を攻撃した。
義朝は大木の影に身を隠し、それを防いだ。
「…「我々」と言うなら、一斉に来てはどうだ?」
「チッ…」
鴉(カラス)の魔物は、舌打ちすると、左手を上げ魔物たちに合図を送った。
川の中から、靱(ウツボ)の魔物・鯰(ナマズ)の魔物・海月(クラゲ)の魔物が現れる。
「鯰以外海だろうに可哀想に。」
「死人にそんな我が儘を言う者はいないのでね。」
靱(ウツボ)の魔物…古空穂(フルウツボ)という名の妖怪が伝承されている。この古空穂が表す靱は、矢を入れる道具であるが、この魔物はその伝承の由来にでもなったのだろうか…生物のウツボに似た口の部分から、無数の矢を義朝に向けて放った。
鯰(ナマズ)の魔物…大鯰(オオナマズ)など地震を起こす妖怪の伝承が残る通り、この魔物の能力も、大地を揺るがす事であった。相撲取りのような体格の魔物は、四股を踏む事により地震を起こした。
本来なら、鯰(ナマズ)の魔物の地震により義朝が体勢を崩した所を、海月(クラゲ)の魔物が触手で縛り上げ、靱(ウツボ)の魔物の矢を当てるつもりだったのだろう。
だが、義朝は既に、その魔物たちの能力を知っていた。
義朝は、体内の鬼の力により空高く飛ぶと、大剣を投げ靱(ウツボ)の口を塞いだ。
武器を失った義朝は格好の的になり得たが、思わぬ反撃に鯰(ナマズ)の魔物と海月(クラゲ)の魔物が動きを止めてしまっていた。
鯰(ナマズ)の魔物に向かい、義経が刀を振るう。かつて豊臣秀吉からもらった天下五剣の一つ大典太光世を使い、鯰(ナマズ)の魔物を三枚に下ろした。
海月(クラゲ)の魔物の方へ、風がクナイを投げる。クナイは、海月(クラゲ)の魔物の周辺に刺さる。
海月(クラゲ)の魔物は、反撃のチャンスとばかりに電気を帯びた触手流すが、クナイに結ばれた銅線が電気を奪っていく。
海月(クラゲ)の魔物が動じた隙に、その身に八方手裏剣を当て、毒が回り倒れた。
義朝は、靱(ウツボ)の魔物の口に刺さった大剣を抜き、鴉(カラス)の魔物に剣を構えた。
鴉(カラス)の魔物はそれでも余裕の顔つきで、空高く飛ぶと、先の戦いで義経から奪った雷切丸を抜いてみせた。
雷切丸で雷の角度を変え、鼬(イタチ)の墓に当てようというのだろう。
それに気付いた義朝が、鬼の力を使い、鼬(イタチ)の墓ごと大地をわった。
「チッ…流石に損壊が激しいか…まあいいでしょう。」
鴉(カラス)の魔物は、闇夜に紛れてどこかへ消えていった。
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