この異世界は、かつて私が創造した世界

「チェスシリーズ」

「ルーク」5

「…というわけだ…」
「つまり…」
これまで大人しく話を聞いていた海波洋一みなみよういちと水本耕二みずもとこうじが、こちらにナイフと妖刀を向ける。
「つまり、君たちの悲劇の原因は私だとも言える。」
それが開戦の合図とばかりに、私の言葉と同時に海波洋一が時間を停止させた。海波は気力さえ続けば、時間停止を続けることができるが、「ナイト」や「キング」ではどちらも最大で15秒…水の神との対決では負傷もありそれ以下という事が多かった。今回は万全の状態で、更に怒りで力を増しているため、20秒はいくかもしれない。
とはいえ、時間停止には弱点もある。身に付けている物以外は、一度、時間停止という時間の流れから外して動かす必要があるため、移動させるのに時間がかかる。
そのため、今回、使うのは既に構えていた妖刀村正…既に時間停止の流れの中で動ける状態にある村正を使い、海波洋一は私の心臓目掛けて突きを放った。
妖刀村正の直線上にある私の前に飛出したのはゲルだった。
こうなることは予想できた。「ルーク」内でゲルが水の神と戦ったときも、ゲルは時間停止の中を移動できた。

「ルーク」でも描いたが、ゲルが最初に捕らえた天使こそ、水の神の右腕となる亀と人の中間のような姿をした天使トータス・ズーであった。水の神と同様に水や時間を操る能力に加え、背中には硬い盾のような装甲を持つ攻守備えた天使だった。
この時代の人間が、バズーカに近い武器を使用するとは思わなかったのだろう。武器は一撃を放つとともに壊れてしまったが、その一撃がトータス・ズーに致命傷を与えた。時間を移動する器官は狂い、逃げ出す力も残されていなかった。
傷が大きすぎたこともあり、トータス・ズーから取れた能力はプレート5枚分…
「ルーク」ではそのうち3枚は他の天使の捕獲に使用され、2枚は水の神戦で使用されたことになっていたが、今回はまだ水の神との戦う前…本来、水の神との対決で使うはずの1枚を使用してくれたのだ。
こうなると、後は時間の問題になる…まあ、時間停止中に時間の問題というのもおかしな話ではあるが、仮に水の神の力を使う海波が時間停止できる時間を20秒とするなら、トータス・ズーから能力を得たゲルの時間停止は10秒が限界…

海波洋一は、自分以外は動けないはずの時間停止中に動いたゲルに驚くもその勢いは止まらず、妖刀村正はゲルへと向かっていった。
ゲルは、トータス・ズーの能力に加え、ライノ・ズーの能力も使用し、全身をサイの皮膚のような固さの装甲に身を包んだ。
妖刀村正は、かなりの切れ味を持つ刀ではあるが、「キング」中でも2度折れている。まあ、最初に折ったのは、海波洋一自身ではあるが…
元々、刀というのは、力のかけ方次第で折ることが可能な武器である。先ほど妖刀村正を見ていたゲルもその弱点は気付いていたのだろう…刀が突きに行くのを止め、別方向から力を加える事で簡単に折ってみせた。
そこでトータス・ズーのプレートの限界が来たらしく、動きを止めた。
海波洋一は折れた村正で、なおも私の首を狙ったが…
「私を倒した所で、君が神を倒せる保証はない。」という私の言葉でやっと刀を止め、時間は再び動き出した。
水本耕二が私をナイフで襲いかかってきたが、海波が手から血を流しながらナイフを握りしめその動きを止めた。
私は、2人が落ち着くのを待ち、これからの2つの方針を話した。
1つは、神を倒すために、この3人以外に、「空白」「鬼火」「GAME」「SAME」「VANE」の主人公の協力が必要なこと…
もう1つは、神との対決に一番適したカステル・デル・モンテの完成が必要だということ…