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6.第一ボスに会いに行こう
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暗闇に息遣いを感じる。
フーッ、フーッと規則正しく響くそれ。
洞窟の中の筈なのに急に風が吹きだして、止んで、おかしいと思ったんだよ。妙に青臭い匂いはするし。
「うわ本当にいるぅ……」
思わず本音がポロリと出た。
先を行くレグルスが振り返った気配がしたが、俺はその場に留まるので精一杯。できればさっさと逃げ出したい。
ドラゴンなんて現実にいないからカッケー! とか言えるのであって、体長十メートルを超える生物なんて化けモン以外の何者でもないだろ。
幼き日の俺が家庭科でエプロン作ってキャッキャとはしゃいでいられたのも、奴がお話の中の生き物だから。
実際こうして実物を前にすれば、あんなイキった真似できませんて。祀って奉じて神様にしたくなる。俺って日本人だよなー。
「どうします? 竜は休んでいるようです。行きますか?」
「こっここここの状態で普通に続けるの?」
「はあ。ですがこれはユウキ殿の計画と──」
「そうなんだけどぉ」
なんで俺あんな事言っちゃったんだろ。
巨大不思議生物を前に、命の危険を感じて震えが止まらない。
半泣きでしがみつく俺に、レグルスは困ったような気配を漂わせ、踏み出した足を引っ込めた。
そのまま二人で岩陰まで戻り、向き合って見つめ合う。
「……ここで、地鳴剣を手に入れるべきなのはわかってる」
「はい」
「このまま放っておくと地震……地震いが原因で住処が崩れて竜が傷ついてしまう。原因はこの下に埋まってる地鳴剣。お前の流星槍と同じくらい強力な力を持つ、特別な剣だ」
「ええ」
「だから麓に被害が出る前に、剣を掘り出さなきゃいけない」
国公認でレグルスを勇者認定し、流星槍も授けた事になっている俺は、チート知識を解放する事を選んだ。
亡国は既に亡国でなく、その王も亡くなったのが惜しいくらい話の早い人だったからだ。
渡り人の伝承もあると思うけど、それにしたって俺の要求はすんなり通すし、旅の資金もその後のサポートも手厚い。勅命まで頂いちゃってるもんね!
とはいえレグルスが言うには、貴族や領主を束ねる王の立場でも俺の存在は都合が良いらしい。
レグルスと俺一人プラス護衛隊が国内をコソコソ回るくらい、大したリスクにならないと踏んでの立ち回り。
上手くいけば『王の指示である』と喧伝し、失敗した場合も人的被害はごく少数。
農民出身のレグルスの活躍は貴族の引き締めにもなるし、中央集権ってやつ? 学校で習ったな。
そういう事をつらつらと言うレグルスが『学がない』と自称するのは疑問だが──とにかく思いっきりやっちゃって良いって事ですよね? 世界平和の為に! Yes!
「わかりました、やりましょう」
「でもこわいんだよぉぉ……!」
俺がまず向かったのは、作中最強武器である地鳴剣のある洞窟。
ただこいつは最初から最強なわけじゃなく、ヒロインズと夜の営みをこなす程に強くなる成長タイプ。
そんでもって俺は主人公にはなりたくない。
爛れた性活を送りたくはないので、剣を手に入れても使う気はない。
それより序盤地竜が大暴れする事で壊滅する、麓の町を救う方が大事だろ。
ゲームでレグルスは地竜に手傷を負わせ、追い払ってはくれるものの、用は済んだとばかり即旅立ってしまう。
剣はそのままだし竜は怒り狂って戻ってくるしで全然勇者の仕事してない。
着いたその日にヒロインの処女食って竜小突いて翌日には居なくなってんだもんな! どんだけ下半身スピードスターなの君は。
「ご安心ください、私が貴方を守ります。我が命に代えても」
「あっ、う、うん……」
頭上から響く低音が、男の俺でも妙な気にさせる。
このレグルスはヤリチン薄情勇者様ではなく、強くて真面目で親切な、正に勇者の名にふさわしい好青年。
あと俺の言う事なんでも聞いてくれるし。
本来ヒロインに使うべき美貌と美声を俺相手に無駄使いしまくっている現状はどうかと思うが……でもいいヤツなんだよなあ。俺達友達だよな!
「そうだな。お前と一緒なら、きっと大丈夫だ」
「ユウキ殿……」
「マジで頼りにしてるから! お願い!」
手を合わせ拝み倒す俺に戸惑うも、思いは伝わったようで。
暗闇の中でふっと空気が緩み、温かい手が俺の肩に触れた。
「レグルス?」
「すみません。竜に近付くなど恐ろしいでしょうに、共に来てくれた貴方がいじらしくて……」
「あ? ん? おお」
頑張って来てえらいねって事だろうか。
言語魔法が不具合を起こしたのか? まあいいや。確かに俺は頑張った。
竜の洞窟について、町の人は聞かずともペラペラ喋りまくってくれたが、いざ案内を頼もうとすると蜘蛛の子を散らすように消えてしまった。
馬が怯えて使えなかったので、此処に来るまでは徒歩。当然案内はなし。護衛隊は麓の町で待機中。
ただこれは俺の指示でもある。
竜と戦う気はないし、大勢で行ったら警戒させちゃうかもしれないだろ?
今ちょっと後悔してるけど……。
「し、失礼しま~す……」
出来るだけ足音を殺し、壁際を進む。
マップの形状はぼんやり覚えているものの、画面上のそれと現実の岩屋では質感もルートも全然違うわけで。
あれ2Dマップだったのに、現実は三次元なんだよ! 上り下りがあるの!
「グゴゴゴフー」
「ひぃ……!」
レグルスは夜目が利くらしいが、現代っ子の俺にはまったく見えない。
この世界での発光物質、蛍石に似た鉱物を棒の先に付け、それを標に行くしかない。
「フーッ……フーッ……」
「でっけえ……」
大回りしてようやく竜の尾が見えた。
ぶっとい尻尾をぐるりと丸めて、生き物! って感じだ。
ゴツゴツした皮膚とか、時々キラリと光る鱗を除いて、格好だけ見れば実家で飼ってた柴犬の寝姿に似てなくもない。
「プヒュルルピー」
「っ!」
おいちょっと面白いの止めろ。不意打ちで吹き出す所だったわ!
家の柴も年とったらヘンないびきかくようになって、よく家族で笑ってたっけ。
俺が小さな頃から家にいて……食いしん坊で悪戯好きで、でも賢くて親父の事が大好きで、お別れの時は家族皆で号泣して……
「……ン」
場違いに感傷的な気持ちになっていた俺は、いびきが止んだ事に気付かなかった。
風が逆向きに吹き出し──やがてコフウ、と息を継いだそれは、暗闇の中で目を開ける。
「あ……」
「ユウキ殿!」
立ち竦む俺の前に、レグルスが飛び出した。
「待て!」
槍を構えようとするのを止めて、俺は深呼吸をした。
黄色い球のような瞳が二つ、暗闇の中に浮かんでいる。
わかっていたけど……でかい。
姿形は似ているが、トカゲとはまるで別物だ。その瞳には知性の輝きがあった。
「こ、こんにちは」
「──っ!?」
驚くレグルスの前に出て、俺はぺこりと頭を下げた。
「お休みの所申し訳ございません」
「グルゥゥ……」
これはただの唸り。
でもゲーム本編ではちゃんと──
「はじめまして、俺は違う世界から来た『渡り人』です」
「『渡り人』……? ああ、あの妙な連中か」
おお分かる、分かるぞ!
竜は知能の高い生き物で、竜なりに彼らの社会を築いている。
寿命がクソ長いので人間のような複雑さはないが、それでも交渉する知能はあるのだ。
「ユウキ殿」
「大丈夫。言語魔法が効いてくれてる」
主人公だけが地竜と会話でき、剣を手に入れられる。
ゲームではヒロインズの一人、魔法使いマーベが言語魔法をかけてくれ、これが現代人の知識に作用して何故か人外の言葉も分かるという超設定がある。
俺に魔法をかけたのは魔術師のじいさまで、サイズ違いのローブを被ったおどおど系ヒロインじゃないけれど、主人公チートが俺にも作用してくれているみたいだ。良かった。
実はこれが一番気がかりだった。
たまたま転移しただけで、俺はただの一般モブなんじゃないかと……一応引っかかってる判定なのかコレ?
「この洞窟に長く住んでいらっしゃるあなたなら気付いていると思いますが、最近地震いが多いと思いませんか?」
「ふむ。そうかもしれん」
「その原因を取り除けると言ったら?」
「……できるのか?」
暗闇で黄色の目がパチリと瞬く。
よし、興味を持ってもらえた。
「その為に来たんですよ俺達。な!」
「はい」
「ほほう……」
大分高い所にあるレグルスの肩を無理矢理組んで、竜に笑いかける。
足浮きそうなんだけど。お前やっぱちょっとでかすぎるわ。
「その地震いの原因とやらは何だ?」
「剣です。とても古い剣。鞘はなく、刀身は錆びています」
「……どうやら本当に知っているらしいな」
竜が体勢を変えた。
ずずずず、と地面が鳴り、天井からパラパラと落ちてくるのが気が気じゃない。
ここが崩れでもしたら俺は当然の事、流石のレグルスだって死んじまう。
「ここにあるのは『地鳴剣』である」
「……」
「それも知っていたか。お主何者だ? ああ渡り人と言っていたな……」
渡り人設定、超便利。
何も言わなくても勝手に納得してくれる。
「我がこの地に留まる理由が『それ』だ。人が持つにはあまりに大きな力……」
「わかります」
そう言って俺は、レグルスの持つ流星槍を見た。
竜も気付いていたようで、俺達二人をじっと見つめている。
「この剣をお前はどう使う?」
「使いません」
「は?」
いや、当たり前だろ。
クソ強ぇけど使う度にえっちしなきゃいけないんだぞ。そんなあてねえよ。
「使わないけど、此処にあると地震でえらい事になっちゃうんで、最初に回収します」
「……わからぬ」
「使える人がいたら貸してもいいんですけど、レグルスみたいのがその辺にぽこぽこ居るとも思えないし……あ、こいつレグルスっていうんですけど、めちゃくちゃ強いんすよ!」
「そ、そうか」
お前自身は使わぬのか、なんて言われたからすんごい顔しちゃった。竜相手に。
あのねえ、そういうのはお相手があって初めて機能しますことよ!
行く先々で夜のお店に行けば何とか可動は出来るか?
いやでも童貞の俺には無理がある。初めては好きな子って決めてるから!
かといって異世界でナンパはハードルが高いし、そもそもこいつが隣に居る状況で女の子に声かけたって無駄じゃねえか。全部持っていかれちまう。
「この剣を悪用せぬと誓うなら、持って行くがよい……」
そこだけゲームと同じ台詞なんだな。
プリプリ怒る俺に引き気味の地竜は、大人しくその場から退いてくれた。
早速用意してきたシャベルでもって、竜の寝床を掘り返す。
地面はカチカチだったが、レグルスがいたので二分もかからなかった。
やがて古びた剣の柄が顔を出し、俺達は無事に地鳴剣を回収した。
「ご協力ありがとうございましたッ」
「う、うむ」
ゲームだと力尽きて死ぬ地竜も、何事もなかったので元気モリモリ。
そのまま出口へ向かい、どこへともなく飛び去っていく。
これにて一件落着!
「はー無事終わった……良かったぁ……」
「心臓が止まるかと思いました」
錆び錆び地鳴剣を丁寧に布でくるみ、縄で巻く。
これはこの先にある森の泉の精に頼んで地の精にアポ取ってもらって向かう途中ドワーフに捕まって勝手に手入れされて取り上げられそうになるけれど、力を示して取り戻さなきゃならない。
……別に不要ならそのまま持ってもらってて構わないんだけど。
下手に欲深い人間より、宝物しまい込み癖のあるドワーフの方がマシな気がする。
その辺り要相談って事で。
「ごめん。ちゃんと通じるか話してみるまで分からなくてさ……っ!?」
背後から伸びてきた腕に抱きしめられる。
唐突なバックハグにより、俺はパニックを起こしかけた。
何故ここでプロレス技を!? お前そんなに怒ってたの?
しかし首の後ろで囁かれる声は、らしくない程に震えている。
「──無事で良かった」
ああ、こいつも怖かったんだと。
その時初めて気付いた。
勇者レグルス。ヤリチンクズだけど最強の男。
孤独であり続けた男は、何を思っていたのだろう。
「りゅ、竜とは戦わないって、言ってただろ。でかいからビビっただけだ」
「それでも貴方の事は心配です。こんなにお小さいのに」
「俺小さくねえからああ! お前がでかいだけ! 百七十五あれば俺の地元じゃでかい方だからな!」
なんて事言うんだ。
怒りの矛先を竜からレグルスに向けると、失言だと覚ったのか慌てて謝りだす。
日本じゃまったく不自由無い身長だったけど、この世界だと低い方っぽくて何気に気にしてるんだわ。
「もう知らねえ!」
「申し訳ありません」
「建物の入り口で永遠に頭ぶつけ続けろバーカ!」
「それは、はい。確かに」
笑ってんじゃねえよこのデリカシーなし男め。
フーッ、フーッと規則正しく響くそれ。
洞窟の中の筈なのに急に風が吹きだして、止んで、おかしいと思ったんだよ。妙に青臭い匂いはするし。
「うわ本当にいるぅ……」
思わず本音がポロリと出た。
先を行くレグルスが振り返った気配がしたが、俺はその場に留まるので精一杯。できればさっさと逃げ出したい。
ドラゴンなんて現実にいないからカッケー! とか言えるのであって、体長十メートルを超える生物なんて化けモン以外の何者でもないだろ。
幼き日の俺が家庭科でエプロン作ってキャッキャとはしゃいでいられたのも、奴がお話の中の生き物だから。
実際こうして実物を前にすれば、あんなイキった真似できませんて。祀って奉じて神様にしたくなる。俺って日本人だよなー。
「どうします? 竜は休んでいるようです。行きますか?」
「こっここここの状態で普通に続けるの?」
「はあ。ですがこれはユウキ殿の計画と──」
「そうなんだけどぉ」
なんで俺あんな事言っちゃったんだろ。
巨大不思議生物を前に、命の危険を感じて震えが止まらない。
半泣きでしがみつく俺に、レグルスは困ったような気配を漂わせ、踏み出した足を引っ込めた。
そのまま二人で岩陰まで戻り、向き合って見つめ合う。
「……ここで、地鳴剣を手に入れるべきなのはわかってる」
「はい」
「このまま放っておくと地震……地震いが原因で住処が崩れて竜が傷ついてしまう。原因はこの下に埋まってる地鳴剣。お前の流星槍と同じくらい強力な力を持つ、特別な剣だ」
「ええ」
「だから麓に被害が出る前に、剣を掘り出さなきゃいけない」
国公認でレグルスを勇者認定し、流星槍も授けた事になっている俺は、チート知識を解放する事を選んだ。
亡国は既に亡国でなく、その王も亡くなったのが惜しいくらい話の早い人だったからだ。
渡り人の伝承もあると思うけど、それにしたって俺の要求はすんなり通すし、旅の資金もその後のサポートも手厚い。勅命まで頂いちゃってるもんね!
とはいえレグルスが言うには、貴族や領主を束ねる王の立場でも俺の存在は都合が良いらしい。
レグルスと俺一人プラス護衛隊が国内をコソコソ回るくらい、大したリスクにならないと踏んでの立ち回り。
上手くいけば『王の指示である』と喧伝し、失敗した場合も人的被害はごく少数。
農民出身のレグルスの活躍は貴族の引き締めにもなるし、中央集権ってやつ? 学校で習ったな。
そういう事をつらつらと言うレグルスが『学がない』と自称するのは疑問だが──とにかく思いっきりやっちゃって良いって事ですよね? 世界平和の為に! Yes!
「わかりました、やりましょう」
「でもこわいんだよぉぉ……!」
俺がまず向かったのは、作中最強武器である地鳴剣のある洞窟。
ただこいつは最初から最強なわけじゃなく、ヒロインズと夜の営みをこなす程に強くなる成長タイプ。
そんでもって俺は主人公にはなりたくない。
爛れた性活を送りたくはないので、剣を手に入れても使う気はない。
それより序盤地竜が大暴れする事で壊滅する、麓の町を救う方が大事だろ。
ゲームでレグルスは地竜に手傷を負わせ、追い払ってはくれるものの、用は済んだとばかり即旅立ってしまう。
剣はそのままだし竜は怒り狂って戻ってくるしで全然勇者の仕事してない。
着いたその日にヒロインの処女食って竜小突いて翌日には居なくなってんだもんな! どんだけ下半身スピードスターなの君は。
「ご安心ください、私が貴方を守ります。我が命に代えても」
「あっ、う、うん……」
頭上から響く低音が、男の俺でも妙な気にさせる。
このレグルスはヤリチン薄情勇者様ではなく、強くて真面目で親切な、正に勇者の名にふさわしい好青年。
あと俺の言う事なんでも聞いてくれるし。
本来ヒロインに使うべき美貌と美声を俺相手に無駄使いしまくっている現状はどうかと思うが……でもいいヤツなんだよなあ。俺達友達だよな!
「そうだな。お前と一緒なら、きっと大丈夫だ」
「ユウキ殿……」
「マジで頼りにしてるから! お願い!」
手を合わせ拝み倒す俺に戸惑うも、思いは伝わったようで。
暗闇の中でふっと空気が緩み、温かい手が俺の肩に触れた。
「レグルス?」
「すみません。竜に近付くなど恐ろしいでしょうに、共に来てくれた貴方がいじらしくて……」
「あ? ん? おお」
頑張って来てえらいねって事だろうか。
言語魔法が不具合を起こしたのか? まあいいや。確かに俺は頑張った。
竜の洞窟について、町の人は聞かずともペラペラ喋りまくってくれたが、いざ案内を頼もうとすると蜘蛛の子を散らすように消えてしまった。
馬が怯えて使えなかったので、此処に来るまでは徒歩。当然案内はなし。護衛隊は麓の町で待機中。
ただこれは俺の指示でもある。
竜と戦う気はないし、大勢で行ったら警戒させちゃうかもしれないだろ?
今ちょっと後悔してるけど……。
「し、失礼しま~す……」
出来るだけ足音を殺し、壁際を進む。
マップの形状はぼんやり覚えているものの、画面上のそれと現実の岩屋では質感もルートも全然違うわけで。
あれ2Dマップだったのに、現実は三次元なんだよ! 上り下りがあるの!
「グゴゴゴフー」
「ひぃ……!」
レグルスは夜目が利くらしいが、現代っ子の俺にはまったく見えない。
この世界での発光物質、蛍石に似た鉱物を棒の先に付け、それを標に行くしかない。
「フーッ……フーッ……」
「でっけえ……」
大回りしてようやく竜の尾が見えた。
ぶっとい尻尾をぐるりと丸めて、生き物! って感じだ。
ゴツゴツした皮膚とか、時々キラリと光る鱗を除いて、格好だけ見れば実家で飼ってた柴犬の寝姿に似てなくもない。
「プヒュルルピー」
「っ!」
おいちょっと面白いの止めろ。不意打ちで吹き出す所だったわ!
家の柴も年とったらヘンないびきかくようになって、よく家族で笑ってたっけ。
俺が小さな頃から家にいて……食いしん坊で悪戯好きで、でも賢くて親父の事が大好きで、お別れの時は家族皆で号泣して……
「……ン」
場違いに感傷的な気持ちになっていた俺は、いびきが止んだ事に気付かなかった。
風が逆向きに吹き出し──やがてコフウ、と息を継いだそれは、暗闇の中で目を開ける。
「あ……」
「ユウキ殿!」
立ち竦む俺の前に、レグルスが飛び出した。
「待て!」
槍を構えようとするのを止めて、俺は深呼吸をした。
黄色い球のような瞳が二つ、暗闇の中に浮かんでいる。
わかっていたけど……でかい。
姿形は似ているが、トカゲとはまるで別物だ。その瞳には知性の輝きがあった。
「こ、こんにちは」
「──っ!?」
驚くレグルスの前に出て、俺はぺこりと頭を下げた。
「お休みの所申し訳ございません」
「グルゥゥ……」
これはただの唸り。
でもゲーム本編ではちゃんと──
「はじめまして、俺は違う世界から来た『渡り人』です」
「『渡り人』……? ああ、あの妙な連中か」
おお分かる、分かるぞ!
竜は知能の高い生き物で、竜なりに彼らの社会を築いている。
寿命がクソ長いので人間のような複雑さはないが、それでも交渉する知能はあるのだ。
「ユウキ殿」
「大丈夫。言語魔法が効いてくれてる」
主人公だけが地竜と会話でき、剣を手に入れられる。
ゲームではヒロインズの一人、魔法使いマーベが言語魔法をかけてくれ、これが現代人の知識に作用して何故か人外の言葉も分かるという超設定がある。
俺に魔法をかけたのは魔術師のじいさまで、サイズ違いのローブを被ったおどおど系ヒロインじゃないけれど、主人公チートが俺にも作用してくれているみたいだ。良かった。
実はこれが一番気がかりだった。
たまたま転移しただけで、俺はただの一般モブなんじゃないかと……一応引っかかってる判定なのかコレ?
「この洞窟に長く住んでいらっしゃるあなたなら気付いていると思いますが、最近地震いが多いと思いませんか?」
「ふむ。そうかもしれん」
「その原因を取り除けると言ったら?」
「……できるのか?」
暗闇で黄色の目がパチリと瞬く。
よし、興味を持ってもらえた。
「その為に来たんですよ俺達。な!」
「はい」
「ほほう……」
大分高い所にあるレグルスの肩を無理矢理組んで、竜に笑いかける。
足浮きそうなんだけど。お前やっぱちょっとでかすぎるわ。
「その地震いの原因とやらは何だ?」
「剣です。とても古い剣。鞘はなく、刀身は錆びています」
「……どうやら本当に知っているらしいな」
竜が体勢を変えた。
ずずずず、と地面が鳴り、天井からパラパラと落ちてくるのが気が気じゃない。
ここが崩れでもしたら俺は当然の事、流石のレグルスだって死んじまう。
「ここにあるのは『地鳴剣』である」
「……」
「それも知っていたか。お主何者だ? ああ渡り人と言っていたな……」
渡り人設定、超便利。
何も言わなくても勝手に納得してくれる。
「我がこの地に留まる理由が『それ』だ。人が持つにはあまりに大きな力……」
「わかります」
そう言って俺は、レグルスの持つ流星槍を見た。
竜も気付いていたようで、俺達二人をじっと見つめている。
「この剣をお前はどう使う?」
「使いません」
「は?」
いや、当たり前だろ。
クソ強ぇけど使う度にえっちしなきゃいけないんだぞ。そんなあてねえよ。
「使わないけど、此処にあると地震でえらい事になっちゃうんで、最初に回収します」
「……わからぬ」
「使える人がいたら貸してもいいんですけど、レグルスみたいのがその辺にぽこぽこ居るとも思えないし……あ、こいつレグルスっていうんですけど、めちゃくちゃ強いんすよ!」
「そ、そうか」
お前自身は使わぬのか、なんて言われたからすんごい顔しちゃった。竜相手に。
あのねえ、そういうのはお相手があって初めて機能しますことよ!
行く先々で夜のお店に行けば何とか可動は出来るか?
いやでも童貞の俺には無理がある。初めては好きな子って決めてるから!
かといって異世界でナンパはハードルが高いし、そもそもこいつが隣に居る状況で女の子に声かけたって無駄じゃねえか。全部持っていかれちまう。
「この剣を悪用せぬと誓うなら、持って行くがよい……」
そこだけゲームと同じ台詞なんだな。
プリプリ怒る俺に引き気味の地竜は、大人しくその場から退いてくれた。
早速用意してきたシャベルでもって、竜の寝床を掘り返す。
地面はカチカチだったが、レグルスがいたので二分もかからなかった。
やがて古びた剣の柄が顔を出し、俺達は無事に地鳴剣を回収した。
「ご協力ありがとうございましたッ」
「う、うむ」
ゲームだと力尽きて死ぬ地竜も、何事もなかったので元気モリモリ。
そのまま出口へ向かい、どこへともなく飛び去っていく。
これにて一件落着!
「はー無事終わった……良かったぁ……」
「心臓が止まるかと思いました」
錆び錆び地鳴剣を丁寧に布でくるみ、縄で巻く。
これはこの先にある森の泉の精に頼んで地の精にアポ取ってもらって向かう途中ドワーフに捕まって勝手に手入れされて取り上げられそうになるけれど、力を示して取り戻さなきゃならない。
……別に不要ならそのまま持ってもらってて構わないんだけど。
下手に欲深い人間より、宝物しまい込み癖のあるドワーフの方がマシな気がする。
その辺り要相談って事で。
「ごめん。ちゃんと通じるか話してみるまで分からなくてさ……っ!?」
背後から伸びてきた腕に抱きしめられる。
唐突なバックハグにより、俺はパニックを起こしかけた。
何故ここでプロレス技を!? お前そんなに怒ってたの?
しかし首の後ろで囁かれる声は、らしくない程に震えている。
「──無事で良かった」
ああ、こいつも怖かったんだと。
その時初めて気付いた。
勇者レグルス。ヤリチンクズだけど最強の男。
孤独であり続けた男は、何を思っていたのだろう。
「りゅ、竜とは戦わないって、言ってただろ。でかいからビビっただけだ」
「それでも貴方の事は心配です。こんなにお小さいのに」
「俺小さくねえからああ! お前がでかいだけ! 百七十五あれば俺の地元じゃでかい方だからな!」
なんて事言うんだ。
怒りの矛先を竜からレグルスに向けると、失言だと覚ったのか慌てて謝りだす。
日本じゃまったく不自由無い身長だったけど、この世界だと低い方っぽくて何気に気にしてるんだわ。
「もう知らねえ!」
「申し訳ありません」
「建物の入り口で永遠に頭ぶつけ続けろバーカ!」
「それは、はい。確かに」
笑ってんじゃねえよこのデリカシーなし男め。
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斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
BLゲームの主人公に憑依した弟×悪役令息兄
笹井凩
BL
「BLゲーの主人公に憑依したら、悪役令息の兄が不器用すぎてメロかった」……になる予定の第一話のようなものです。
彼氏に遊ばれまくってきた主人公が性格終わっている男共を粛清してやろうとするのに、情が湧いてなかなか上手くいかない。
そんな中、一番嫌いであったはずの悪役令息、兄の本性を知って愛情が芽生えてしまい——。
となるアレです。性癖。
何より、対人関係に恵まれなかったせいで歪んだ愛情を求め、与えてしまう二人が非常に好きなんですよね。
本当は義理の兄弟とかにしたほうが倫理観からすると良いのでしょうが、本能には抗えませんでした。
今日までの短編公募に間に合わなかったため供養。
プロットはあるので、ご好評でしたら続きも載せたいなと思っております。
性癖の近しい方に刺されば、非常に嬉しいです。
いいね、ご感想大変励みになります。ありがとうございます。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
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