NTRゲーに転移したらライバル勇者としかフラグが立たない!

夏野うに

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5.第一ヒロイン遭遇

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「なんかごめん」

 俺はすっかり忘れていた。
『隷属のガレリア』は十八禁ゲームであると。
 アダルトゲームってのはまあジャンルにも寄るけれど、可愛い女の子や妖艶なおねえさまと如何に合法的に──時に非合法に──えっちな関係に持ち込むか、みたいな世界観なワケだ。

「貴方が謝る事ではありません」
「う、うん」

 主人公は現実には有り得ない美女美少女と、次々出会う事になる。
 そして先行するレグルスもまた全員と顔見知りでなければならないので、そりゃ出会いまくらなきゃいけないんでしょうよ。隠しルート含めヒロインめっちゃ多いからな。

「ってか何で逃げてるんだ?」
「面倒だからです」

 やべ、こっち見た。
 建物の壁から急いで顔を引っ込め、レグルスと二人気配を殺す。
 豪華な帯で締めたオーバーチュニックとマント、長い三つ編みを翻し颯爽と歩く栗毛の美女は、血走った目で周囲を見回している。すんげえ迫力。

「お待ちくださいお嬢様!」
「ねえどこなの! 私の愛しい騎士様!」
「ヒエ……」

 ドレスの裾を持ち通りを駆けていくそのビジュアルは、紛れもなくゲームの顔の一人。
 第一ヒロインにしてヤリチンレグルスの被害者でもあるリウィア様!
 地方領主の娘で結婚も決まっていたが、レグルスに処女を捧げたせいで婚約者に捨てられ、父親にも見捨てられた哀れな美女である。
 外聞が悪いと離れに閉じ込められていた彼女と偶然出会い、交流していくうちにその辛い過去を知り、心を解すついでに体の方も……みたいな展開だったよな確か。
 予想と違うタイプのNTR展開に、第一章から開いた口が塞がらなかったもんな。

「……行ったか」

 そんな敵みたいな言い方しなくても。
 リウィア様結構悪くないと思うんだけど。
 領主の娘だけあって寝ると金と物資くれるし。前半の資金難をえっちイベントだけで乗り切ったりもしたよ。

「このような所でアレと会うとは……」
「アレ?」

 今こいつ、処女を捧げたヒロインちゃんをアレ呼ばわりしやがったか?
 レグルスを目に入れた途端悲鳴を上げて突っ込んできたので、その勢いに怯えて思わず二人で隠れてしまったけど、よく考えたら出会いの場面だったのでは。
 それにしてはレグルスの反応がおかしい。
 やっぱりヤリチンのクズ野郎か? 良いヤツだと思ったのになー!

「レグルスくん、彼女とお知り合い?」
「……」

 俺が尋ねた途端、金髪美形面がものすごい渋みを増す。
 ゲームだとレグルスとリウィアが森の木陰でワイルドなベッドインを決めたのは、流星槍の入手後だった筈だが、既に顔見知りのご様子。
 もしかしてお前……と俺も顔の影を濃くして問えば、色男は深い溜息を吐いた。

「彼女は北方セプテムに城を持つ領主の娘です。何故ここに居るかは分かりませんが……関わると非常に厄介な人物です」
「厄介? なんで?」

 貴族や王都育ちが苦手らしいレグルスにとって、地方領主の娘は割と都合の良い相手の筈。
 財産持ちで出るとこ出てるスタイル抜群の美女、しかもリウィアは一人娘だから婿に入れば自動的に次期領主の座が転がり込んでくる。
 愛しい騎士様ーなんつって、あっちはもうメロメロなんだから、後は舅がうざってえくらいしか問題なくない?

「十四の時、私は父と薪を売りに町へ降りました」
「木こりって言ってたもんな。お手伝いしてえらいね」
「ありがとうございます。父が買い手と話をしている最中、私が薪を積んでいた時に彼女は見ていたようで……町を出ようとしたら兵士に止められ連行されました」
「んっ!?」

 連れて行かれた先では身なりの良い、一人の少女が座っていて、にこやかに茶と菓子を勧められた。
 座るようにと促されたが、緊張でそれどころではなかった。
 何か粗相をしたのか、牢に入れられるのか、父は無事なのか──
 その場で平服し許しを請うレグルスに、彼女は鈴を転がすような声で『わたくしのものになりなさい』と告げた。

「は!? お前が十四の時って、向こう十二歳とかじゃ……」
「そうですね」
「やべえ女じゃねえか!」

 十二で領民に手を出すなよ!
 男女反対なら貴族のクソ息子……いや、どっちにしろ問題だわ。
 リウィア様、親父の権力ブン回し案件かよ。

「そういう事は度々ありましたので、私も逃げ足には自信があったのですが」
「かっかわいそう」
「兵に囲まれ父も捕らえられている状況では、どうする事も出来ず」
「キツすぎる……」

 リウィアに目を付けられ、言い寄られたレグルス、大ピンチ。
 そもそも未婚の娘と密室に居るだけでアウト。既成事実と見なされるからね!
 侍女に扉を塞がれ、目の前には微笑む領主の娘。
 覚悟を決めたレグルスは──

「仕方なく壁を壊して逃げました」
「その状況から逃げられたのすごいな!?」

 流石塔の扉を吹っ飛ばしただけある。
 さぞかし景気よく吹っ飛んだ事だろう。
 その後無事父親と合流し──こっちも窓枠を壊して抜け出し済み──父子二人ですたこらさっさと山に帰ったのだが、事はそれで済まなかった。

「『娘を傷物にされた』と父君が怒鳴り込んで来られて」
「最悪だよもう!」

 レグルスは淡々と話しているが、今度は俺のボルテージが上がってきた。
 そんなの絶対おかしい。こいつ何も悪くないだろ、向こうが勝手に傷物になりに来ただけだ!

「それが元で戦場に送られ、気付けばこのような有様です」
「頑張ったんだなぁ……!」

 軍に入れられてからの苦労は少し聞いていた。
 国境保持の為の使い捨てのような一兵卒から首級をあげて……高位貴族の目に留まる。
 最初は単純に褒美をとらせるという話だったのが、いつの間にか主君だ騎士だと勝手に仕える話になっていて。
 戦があれば駆り出され、戦場から戻れば腕比べだの馬上試合だの勝手に組まれてやらされて──
 最終的に王様の所まで辿り着く。
 世間から見れば立身出世の物語、めちゃくちゃ羨ましがられる立場だが、本人は全然嬉しくなさそう。
 レグルス自身は自分の強さを冷静に見ており、『将の適性はない』と言う。
 ただ強いだけ、力があるだけ。
 人を率いるのが苦手で、騎士の身分もしがらみが多いと憂鬱そうな顔だった。

「屋敷を与えられてから、ひっきりなしに手紙が送られてきます。私が騎士の身分を得たのは、自分を妻に迎える為であると彼女は誤解しているようで」
「そんな目に遭わされたらアレ呼ばわりにも苦手にもなるわ」

 王の騎士の身分を得た今、領主からの態度はかなり改まったそうだ。
 しかし遠回しに『娘の婚期が遅れたのは貴方のせいですよ? 責任取りますよね?』という圧をかけられ、挙げ句変な噂を流されたりもしたので、出来るだけ近付かないようにしていると。
 一部始終を聞いた俺は、精神的疲労にぐったりしてしまった。
 イケメンってつくづく大変だ……。

「じゃあさっさと町抜けた方がいいだろ。くつろいでる時に宿に来られても嫌だし」
「申し訳ありません」
「いやいや」
「ですが、楽しみにしておられたのでは」

 草原ばかりで風呂にも入れず、食事も携帯食ばかり。
 町でゆっくりする予定だったけれど、この事情聞いて『あっそ』とはならないだろ。可哀想だよ。

「レグルスのせいじゃないって。好きでもない相手に言い寄られるなんて、嫌になって当然だ」
「……っ」
「しかもお前の場合、実害出てるし。……あ、ご両親は無事なんだよな? 地元で肩身の狭い思いしてない?」
「はい。不自由なく暮らしております」
「よかったー!」

 当たり前だけどレグルスも人の子で、親の心配だってするだろう。
 子供がイケメンなばっかりに、ヘンな女に目を付けられて領主にカチこまれてさあ、ご両親も大変だったはず。
 今幸せに暮らしているなら何よりだ。よかったよかった。

「……あれ? じゃあリウィア様とはその後何もなく……?」

 流星槍の入手と勇者としての覚醒が切っ掛けで、二人は関係を持つ。
 リウィア様は処女云々の記述はあったけど、レグルスは特になかったよな?

「当然です」
「付き合ってる彼女もなし? 馴染みのお店のおねえさんとか」
「……? よく分かりませんが、そのような相手はおりません」
「おおぅ」

 じゃあどうするんだろ、これからのレグルス。
 十八禁ゲーム『隷属のガレリア』の肝とも言える流星槍と地鳴剣の設定。
 ラスボスの魔女が反則じゃないと絶叫するレベルでチートなこの二つの武器は、強大な力を使う代償に、使用者の魔力または生命力を消費する。
 並の人間には扱えず、選ばれた勇者のみが扱える──というのは、単純に容量の問題。
 でも生命力がバカ高いレグルスだって、一方向にのみ出しっぱなしだと不具合が生じる。
 だから安定した魔力を持つ異性と交わって生命力に変換し、それを循環するサイクルを確率させる必要があるんだな。
 ちなみに『剛のレグルス』、『柔の主人公』という設定もある。
 力が有り余って沸き出して果ては流星槍を暴走させるレグルスと、どんな相手も僅かな力も効率良く体内で回し、多数の協力を得て地鳴剣を扱う主人公で対比になっているんですねえ。
 身も蓋もなく言えばレグルスは他人の魔力の混じらない処女の方が都合が良いし、主人公は魔力の高い相手ととにかく数をこなしてやりまくるしかないという、実にエロゲーらしい世界観である。

「考えてみると結構な地獄だな」

 世界を救う為に処女を食い散らかす男。
 かたや世界を救う為に全てを回収しハーレムを築く男。
 これ、なんとかどうにかできないか?
 ヒロインズもだけどレグルスだって嫌だと思う。
 だってゲームのレグルスと全然違うし。イケメンなばかりに不幸な目に遭う可哀想な人だよ。
 心境的にすっかり同情に偏った俺は、まだ周囲を警戒しているレグルスの肩に手を置き、うんうんと頷いた。

「ちょっと俺も考えてみるわ。このままだとお前ばっかり貧乏くじだ」
「はい?」
「これからも嫌な事は嫌って言っていいからな! 無理しちゃ駄目だぞ」
「わかりました」
「よし」

 人間素直が一番だ。
 二人でコソコソと戻り、食料と物資の補給を済ませる。
 番兵には勅令を見せ、『他言無用。王命である』『他に漏らせば罰せられるぞ』と脅しつけ、夜にこっそり抜け出した。
 領主の娘より王様の方が偉いもんね! 権力最高。
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