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4.楽しい冒険のはじまりだ
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「ユウキ殿」
「……ん」
雲一つない青空、見渡す限り緑の広がる草原に、不穏な空気が流れる。
俺はもう何度目だよとヤケクソの気持ちで手綱をひいた。
まだまだ不慣れだけど、どうにか止まってくれたお馬さんの名前はシルワちゃん。
北方で捕らえられた野生馬の子で、ぶち模様がキュートな牝馬だ。
大人しいと聞いたが乗馬初心者の俺は完全に舐められている。それでも乗せてくれるだけ良い子なんだけどね。
またかよみたいな雰囲気で『ブルル』と文句を言われるが、それはレグルスに言って欲しい。
ちなみにレグルスの馬はシルワの1.5倍も体高があり、常時覇王の気を発している巨大な牡馬である。
俺のシルワちゃんはこいつにメロメロらしく、適当に流していると勝手に寄っていく。
普通牝馬って神経質らしいんだけど、馬にもモテる奴がいるんだな……って、そんなどうでもいい事考えてる場合じゃないぜ。
「下がっていてください」
「はーい……」
俺の目にはまったく見えなかったし、気配すら感じ取れなかったが、遠くにポツポツと人影が湧き出した。
そいつらが近付いてきて、薄汚い鎧やボロ服を着ているとわかると、ずうんと気分が落ち込む。
一行を取り囲むように、輪を狭めるような移動とかもう盗賊決定じゃねえか。やだやだ、盗賊やだ!
「レグルス、その、今回も……?」
「すぐに片付けます」
弓を手に取り矢をつがえたレグルスは、事もなげに第一射を放つ。
ぐわッと声がして一人が倒れ、賊の動きが止まっている間に次の矢、また次の矢が次々飛んでいく。
放たれた矢と倒れた人間の数は同じ。
流石勇者、百発百中である。
その頃には盗賊もヤバい奴に手を出した事を察し、一斉に背を向けて逃げ出すのだが──時既に遅し。
「ハッ!」
レグルスは弓を槍に持ち替え、逃げる賊を背後から次々と串刺しにしていく。
隊も護衛二人を残し、三人が逃げ惑う奴らを血祭りに上げており、俺は一人おそらを眺めたり、シルワちゃんのあったかい首に抱きついて震えながら目を閉じるなどしていた。
「時間を取らせて申し訳ない」
「いや、うん……なんというか、おつかれさま」
そう言って頭を下げるのが精一杯。
『守ってくれてありがとう』とか、微妙に持ち上げられている俺の立場なら『よくやった!』と褒めるべきなのだろうが、平和な現代日本に暮らす俺としては、心境的に難しい。
かと言って『可哀想』だの『殺すのはやり過ぎでは?』とは思わない。
最初に襲ってきた盗賊なんて三十人くらいの集団だったし、一部馬にも乗っていた。頭数で言ったら完全にこっちが弱者なんだよ。
その時までは『全力で逃げて振り切ればどうにかなるんじゃないか』なんて甘い事考えてたけど、殺そうって襲ってくる連中には通じないと、俺は身をもって理解した。
レグルスも護衛隊も俺を守る為に必死で、そんな相手に気軽に『助けてあげて!』なんて言えやしない。
向こうは完全に殺して奪う気満々だし。
最悪なのは捕虜を連れている連中で、武器を持たせて襲わせたり、人質にして馬と服と有り金置いてけなんて言ってくる。
そういう連中は問答無用でレグルスが始末する。
でもこれが俺一人なら、二秒で内臓晒して息絶えてる筈で。
ゲームでは『盗賊ABCD』だった連中も、ここでは生きて動く人間。
完全には割り切れないけれど、警察もいないこの世界では、俺の主張は理解されないものであろう。
足潰されてヒイヒイ泣いている盗賊に、俺がうっかり『可哀想じゃないか?』って言ったら、『ではすぐ楽にしてやります』って言って(自主規制)だもんな。
というかレグルスや兵士が治安維持、つまり体制側の人間。
盗賊は捕まった時点で死刑なので、逮捕起訴裁判刑執行の手順を簡略化していると言える。結構ハードな世界観なのだ。
「では行きましょうか」
「うん」
可哀想だけど、埋めることはしない。先も急ぐしな。
死体は草原に生息する野生動物が始末する。人間も自然の一部なのだ。
つまり俺がレグルスからはぐれたら詰むって事だよ。
絶対離れないからな!
『世界を救うため』なんてご大層な理由を掲げた旅のはじまりは、予定より一週間ほど遅れた。
レグルスも護衛隊の皆様も出立する気満々だったのだが、何を隠そう俺が全然準備出来ていなかった。
「ちゃんと押さえておりますから大丈夫です。そらユウキ殿、もう一度」
「アギャーッ!」
この世界には車も飛行機も新幹線もない。
旅と言ったら徒歩か馬、または馬車。
そんでもってこれから俺達が向かうのは、大都市ばかりではない。
どちらかと言えば田舎寄り。険しい山々を越え道無き道を行く、その先にある秘境である。
頼めば用意してもらえたと思うけど、どうせ馬車は途中で乗り捨てになる。
魔法で飛ぶ奴も居るらしいが、それは例外だから置いといて──徒歩か馬。
で、割と急ぎなので馬に乗るしかない。つまり乗馬スキル必須。
「なんでこんなにぐらぐらすんのっ!」
「馬は動きますからな」
「あし、足首? で、押さえっ……あっ待って待っああー!」
自慢じゃないが俺は生粋の都会っ子。
馬なんて画面か柵越しにしか見た事ない。
子供の頃ポニー乗馬はしたような記憶がおぼろげにあるけれど、あれは引き馬で係の人が乗せてくれていた。
でも自分で乗るとなると話は別で、でかいフンフン言ってる生き物こわい。
「いや難しくない……?」
「だから練習するのですよ」
馬ってね、高いのよ。
これが現実世界だったら……昔の馬って小さかったらしいし、ここまで俺もみっともない格好をせずに済んだかも。
でもここってゲーム世界だからさぁ!
馬高はサラブレッドなみだわ騎馬隊はあるわ、時代考証ガバガバ。
鞍や鐙があるのはありがたいが……うん、そこの所はガバで良し!
「ふう、ふう、はあ」
「ユウキ殿! 調子はいかがですか」
「ようレグルス……」
せめて乗るだけ乗れるようにと、目標を下方修正した結果、三日で馬場の外へ出る事に成功したぜ!
先生の馬はスッスッと格好良く進み、俺の馬は道草食いまくり。
びびってるのが馬にバレるらしく、完全に舐められているとのこと。おのれ。
「なんとか前に進んでくれはする。でも先生がいないとすぐに止まる。こんな風にな!」
「馬は人を良く見ています。ユウキ殿が優しい事を分かっているのでしょう」
「お、おお……」
気遣いに溢れた一言に、うっかり泣きそうになる。
俺が借りているのは兵馬で、訓練場には騎兵隊、つまりエリートな部隊の奴らが出入りしている。
幾ら余所の世界から来たって──いや、だからこそ『三日かけてこれかよ』みたいな視線をしょっちゅう感じるんだけど、こいつは一切そういうのナシ。実に爽やか。
レグルス、マジで良いヤツなんだよな。
女を喰っては捨て喰っては捨てのヤリチンで、この顔だ。
男相手には話もしないのかと思ったら、全然ぐいぐい来るからなコイツ。むしろ人懐っこいレベル。
「舐められないコツとかある?」
「そうですね……気迫でしょうか?」
「気迫?」
「逆らうな、と。言葉ではなく」
先生にも『強気で』と言われたっけ。
馬は賢く、人を見て態度を変える。
群れる生き物だから、強い者に従う。
「相性もありますが、指示ははっきりと伝えます。言う事を聞かせる意思がないと判断されるので」
「う、そうかも……」
「後は姿勢でしょうか。慣れないうちは体が痛くなりますから」
「それ。足の付け根が痛い痛い」
馬に乗った状態だと、高身長のレグルスより視線が上に来るのが新鮮だ。
歩調を合わせ、さりげなく馬を誘導する男を見ていると、勇者ってこういう事だよな、なんて思ったりして。
「なんだ、急に大人しくなったなぁ」
馬にも勇者ってわかるんだろうか?
レグルスが隣にいると、馬はシャキシャキ歩き出す。
練習にはならないかもだけど、アドバイスはありがたい。
「声かけてくれてありがとな。それと俺のせいで遅れてごめん」
「貴方が謝る事などありません」
「えらそうなこと言っちまったけど、こういうワイルドな旅なんてしたことないんだよ。情けないとこいっぱい見せると思う」
いや本当、よく呆れないでいてくれると思うよ。
実際王都を出てからも、あまりに何も出来なさすぎて自分で落ち込んだ。
馬にしがみついて移動するのがやっと。
食事の支度に野営に馬の世話も一から教わって、盗賊に襲われた時なんて、青くなって震えているしか出来ない。
普段いかに現代社会に甘やかされているか、しみじみと実感する。
服装一つとってもそうだ。
用意してもらった旅装が重く、腰に細身の剣を吊しただけで傾く体幹の無さに、病弱疑惑が沸き非常にいたたまれなかった。
相談の末重い金属ではなく、革製にしてもらったりと、最後まで手間をかけさせた。王もさぞかし呆れたに違いない。
「……キ殿、ユウキ殿」
「あ、ごめん」
気付けば日が大きく傾くいていた。
盗賊の襲撃から、結構時間が経っていたみたいだ。
呼ばれて馬を止めるとすぐにレグルスが側に来たが、俺はそれを止めて自分で降りた。
多少時間はかかったものの、その間シルワもちゃんと大人しくしてくれていて、無事地面に着地。
感激の抱擁をしてすりすりすると、若干嫌そうな顔で顔を背けられた。なんでだよ。
「上達されましたね」
「うーん。乗り降りくらいはね」
あの時レグルスは、びっくりしたような目で俺を見ていた。
簡単に弱音を吐く俺に、驚いたのかもしれない。
でも言わないで後でバレて迷惑をかけるくらいなら、最初に言っておいた方が気が楽という……俺のエゴだ。
まあいいや。主役はあくまでレグルスで、俺はちょちょいと助言だけしてやればいい。
「今日はここで夜を過ごしましょう。軽く辺りを見回ってきます」
「いってらっしゃーい」
会ってこうして話してみて、つくづく思う。
ヘンな煽り文入れられるだけあって、レグルスって実に主人公らしい主人公なんだなあ。
亡国の騎士という設定以外ゲームでは語られなかったけれど、奴自身結構な苦労人なのだ。
「よしよしシルワ、頑張ったな」
今日も一日世話になったシルワに水を飲ませながら、ぼんやり考える。
俺とレグルス、割と相性良いのかもしれん。
奴はイメージより素朴というか……外見と中身のギャップがすごい。
見るからに『騎士様です』みたいな澄まし顔をしているが、言うほどお堅くなく、反応も年相応。
そう、レグルスって実は年下で! 十九歳ってぇ!
『俺一つ上ー! 兄貴と呼べ』って冗談言ったら鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して固まってたたけど、俺もびっくりしたわ。貫禄ありすぎだろ。
「馬って意外にもっさり……ああごめん! シルワちゃんかわいいねって話だから! 冬毛ってトレンドだよなー」
ああん? みたいな顔をするシルワに愛想笑いを返し、丁寧にブラシをかけてやる。
本当にただ付いて行ってるだけの俺。
せめてこれくらいはと、護衛隊の馬の世話も積極的に手伝う。
草原は草生え放題、草ビュッフェかと思いきや、馬が食べちゃいけない草もあるそうで。
食べる量、草の種類も人が管理しないといけないので、隊長さんと一緒に周辺を見回る。
そのうちレグルスが戻ってきた。とりあえずは安全だって。
「お疲れ」
「──ふ、ユウキ殿も」
一礼して戻っていくレグルスに、隊長さんが『わ、笑った……?』なんて目を白黒させてたけど、あいつ普通に笑うから。
職場だと貴族とか王都育ちが多くて肩身が狭いんだと。
俺が『その顔で?』って言ったら、『顔が関係ありますか?』って言って、すかしてる様子もなかった。
俺の感覚ではイケメン無罪、大抵何でも許されて女は勝手に寄ってくるし人生楽勝大勝利! だと思っていたんだが……実際はそうではなく、身分や出身の差別が激しいとのこと。
俺も生粋の庶民だが、レグルスも生まれは農民。
それも辺境生まれの木こりの子。
学もなく戦にかり出され、知らんうちに出世して気付いたら騎士になってたとか、とんでもない爆弾発言してた。
忠義の騎士じゃないんかい!
大恩ある王への思いとか敵討ちかと勝手に脳内で話が進んでたわ!
親父に声が似てるとか、母親と性格がそっくりだとか、話を聞く限り家族仲は良さそう。
実は貴族とか王族で~なんていう血統主義的裏設定も無さそうで、俺は困惑した。
本当にただ顔が良いだけの兄ちゃんじゃねえか。
若干酒が入っていた事もあり、あのツラと素っ気ないゲーム台詞の数々からは想像が付かないほど話が弾んでしまい、当人がどう考えているかは知らないが、俺的にはすっかり友人の距離である。
「……ん」
雲一つない青空、見渡す限り緑の広がる草原に、不穏な空気が流れる。
俺はもう何度目だよとヤケクソの気持ちで手綱をひいた。
まだまだ不慣れだけど、どうにか止まってくれたお馬さんの名前はシルワちゃん。
北方で捕らえられた野生馬の子で、ぶち模様がキュートな牝馬だ。
大人しいと聞いたが乗馬初心者の俺は完全に舐められている。それでも乗せてくれるだけ良い子なんだけどね。
またかよみたいな雰囲気で『ブルル』と文句を言われるが、それはレグルスに言って欲しい。
ちなみにレグルスの馬はシルワの1.5倍も体高があり、常時覇王の気を発している巨大な牡馬である。
俺のシルワちゃんはこいつにメロメロらしく、適当に流していると勝手に寄っていく。
普通牝馬って神経質らしいんだけど、馬にもモテる奴がいるんだな……って、そんなどうでもいい事考えてる場合じゃないぜ。
「下がっていてください」
「はーい……」
俺の目にはまったく見えなかったし、気配すら感じ取れなかったが、遠くにポツポツと人影が湧き出した。
そいつらが近付いてきて、薄汚い鎧やボロ服を着ているとわかると、ずうんと気分が落ち込む。
一行を取り囲むように、輪を狭めるような移動とかもう盗賊決定じゃねえか。やだやだ、盗賊やだ!
「レグルス、その、今回も……?」
「すぐに片付けます」
弓を手に取り矢をつがえたレグルスは、事もなげに第一射を放つ。
ぐわッと声がして一人が倒れ、賊の動きが止まっている間に次の矢、また次の矢が次々飛んでいく。
放たれた矢と倒れた人間の数は同じ。
流石勇者、百発百中である。
その頃には盗賊もヤバい奴に手を出した事を察し、一斉に背を向けて逃げ出すのだが──時既に遅し。
「ハッ!」
レグルスは弓を槍に持ち替え、逃げる賊を背後から次々と串刺しにしていく。
隊も護衛二人を残し、三人が逃げ惑う奴らを血祭りに上げており、俺は一人おそらを眺めたり、シルワちゃんのあったかい首に抱きついて震えながら目を閉じるなどしていた。
「時間を取らせて申し訳ない」
「いや、うん……なんというか、おつかれさま」
そう言って頭を下げるのが精一杯。
『守ってくれてありがとう』とか、微妙に持ち上げられている俺の立場なら『よくやった!』と褒めるべきなのだろうが、平和な現代日本に暮らす俺としては、心境的に難しい。
かと言って『可哀想』だの『殺すのはやり過ぎでは?』とは思わない。
最初に襲ってきた盗賊なんて三十人くらいの集団だったし、一部馬にも乗っていた。頭数で言ったら完全にこっちが弱者なんだよ。
その時までは『全力で逃げて振り切ればどうにかなるんじゃないか』なんて甘い事考えてたけど、殺そうって襲ってくる連中には通じないと、俺は身をもって理解した。
レグルスも護衛隊も俺を守る為に必死で、そんな相手に気軽に『助けてあげて!』なんて言えやしない。
向こうは完全に殺して奪う気満々だし。
最悪なのは捕虜を連れている連中で、武器を持たせて襲わせたり、人質にして馬と服と有り金置いてけなんて言ってくる。
そういう連中は問答無用でレグルスが始末する。
でもこれが俺一人なら、二秒で内臓晒して息絶えてる筈で。
ゲームでは『盗賊ABCD』だった連中も、ここでは生きて動く人間。
完全には割り切れないけれど、警察もいないこの世界では、俺の主張は理解されないものであろう。
足潰されてヒイヒイ泣いている盗賊に、俺がうっかり『可哀想じゃないか?』って言ったら、『ではすぐ楽にしてやります』って言って(自主規制)だもんな。
というかレグルスや兵士が治安維持、つまり体制側の人間。
盗賊は捕まった時点で死刑なので、逮捕起訴裁判刑執行の手順を簡略化していると言える。結構ハードな世界観なのだ。
「では行きましょうか」
「うん」
可哀想だけど、埋めることはしない。先も急ぐしな。
死体は草原に生息する野生動物が始末する。人間も自然の一部なのだ。
つまり俺がレグルスからはぐれたら詰むって事だよ。
絶対離れないからな!
『世界を救うため』なんてご大層な理由を掲げた旅のはじまりは、予定より一週間ほど遅れた。
レグルスも護衛隊の皆様も出立する気満々だったのだが、何を隠そう俺が全然準備出来ていなかった。
「ちゃんと押さえておりますから大丈夫です。そらユウキ殿、もう一度」
「アギャーッ!」
この世界には車も飛行機も新幹線もない。
旅と言ったら徒歩か馬、または馬車。
そんでもってこれから俺達が向かうのは、大都市ばかりではない。
どちらかと言えば田舎寄り。険しい山々を越え道無き道を行く、その先にある秘境である。
頼めば用意してもらえたと思うけど、どうせ馬車は途中で乗り捨てになる。
魔法で飛ぶ奴も居るらしいが、それは例外だから置いといて──徒歩か馬。
で、割と急ぎなので馬に乗るしかない。つまり乗馬スキル必須。
「なんでこんなにぐらぐらすんのっ!」
「馬は動きますからな」
「あし、足首? で、押さえっ……あっ待って待っああー!」
自慢じゃないが俺は生粋の都会っ子。
馬なんて画面か柵越しにしか見た事ない。
子供の頃ポニー乗馬はしたような記憶がおぼろげにあるけれど、あれは引き馬で係の人が乗せてくれていた。
でも自分で乗るとなると話は別で、でかいフンフン言ってる生き物こわい。
「いや難しくない……?」
「だから練習するのですよ」
馬ってね、高いのよ。
これが現実世界だったら……昔の馬って小さかったらしいし、ここまで俺もみっともない格好をせずに済んだかも。
でもここってゲーム世界だからさぁ!
馬高はサラブレッドなみだわ騎馬隊はあるわ、時代考証ガバガバ。
鞍や鐙があるのはありがたいが……うん、そこの所はガバで良し!
「ふう、ふう、はあ」
「ユウキ殿! 調子はいかがですか」
「ようレグルス……」
せめて乗るだけ乗れるようにと、目標を下方修正した結果、三日で馬場の外へ出る事に成功したぜ!
先生の馬はスッスッと格好良く進み、俺の馬は道草食いまくり。
びびってるのが馬にバレるらしく、完全に舐められているとのこと。おのれ。
「なんとか前に進んでくれはする。でも先生がいないとすぐに止まる。こんな風にな!」
「馬は人を良く見ています。ユウキ殿が優しい事を分かっているのでしょう」
「お、おお……」
気遣いに溢れた一言に、うっかり泣きそうになる。
俺が借りているのは兵馬で、訓練場には騎兵隊、つまりエリートな部隊の奴らが出入りしている。
幾ら余所の世界から来たって──いや、だからこそ『三日かけてこれかよ』みたいな視線をしょっちゅう感じるんだけど、こいつは一切そういうのナシ。実に爽やか。
レグルス、マジで良いヤツなんだよな。
女を喰っては捨て喰っては捨てのヤリチンで、この顔だ。
男相手には話もしないのかと思ったら、全然ぐいぐい来るからなコイツ。むしろ人懐っこいレベル。
「舐められないコツとかある?」
「そうですね……気迫でしょうか?」
「気迫?」
「逆らうな、と。言葉ではなく」
先生にも『強気で』と言われたっけ。
馬は賢く、人を見て態度を変える。
群れる生き物だから、強い者に従う。
「相性もありますが、指示ははっきりと伝えます。言う事を聞かせる意思がないと判断されるので」
「う、そうかも……」
「後は姿勢でしょうか。慣れないうちは体が痛くなりますから」
「それ。足の付け根が痛い痛い」
馬に乗った状態だと、高身長のレグルスより視線が上に来るのが新鮮だ。
歩調を合わせ、さりげなく馬を誘導する男を見ていると、勇者ってこういう事だよな、なんて思ったりして。
「なんだ、急に大人しくなったなぁ」
馬にも勇者ってわかるんだろうか?
レグルスが隣にいると、馬はシャキシャキ歩き出す。
練習にはならないかもだけど、アドバイスはありがたい。
「声かけてくれてありがとな。それと俺のせいで遅れてごめん」
「貴方が謝る事などありません」
「えらそうなこと言っちまったけど、こういうワイルドな旅なんてしたことないんだよ。情けないとこいっぱい見せると思う」
いや本当、よく呆れないでいてくれると思うよ。
実際王都を出てからも、あまりに何も出来なさすぎて自分で落ち込んだ。
馬にしがみついて移動するのがやっと。
食事の支度に野営に馬の世話も一から教わって、盗賊に襲われた時なんて、青くなって震えているしか出来ない。
普段いかに現代社会に甘やかされているか、しみじみと実感する。
服装一つとってもそうだ。
用意してもらった旅装が重く、腰に細身の剣を吊しただけで傾く体幹の無さに、病弱疑惑が沸き非常にいたたまれなかった。
相談の末重い金属ではなく、革製にしてもらったりと、最後まで手間をかけさせた。王もさぞかし呆れたに違いない。
「……キ殿、ユウキ殿」
「あ、ごめん」
気付けば日が大きく傾くいていた。
盗賊の襲撃から、結構時間が経っていたみたいだ。
呼ばれて馬を止めるとすぐにレグルスが側に来たが、俺はそれを止めて自分で降りた。
多少時間はかかったものの、その間シルワもちゃんと大人しくしてくれていて、無事地面に着地。
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「上達されましたね」
「うーん。乗り降りくらいはね」
あの時レグルスは、びっくりしたような目で俺を見ていた。
簡単に弱音を吐く俺に、驚いたのかもしれない。
でも言わないで後でバレて迷惑をかけるくらいなら、最初に言っておいた方が気が楽という……俺のエゴだ。
まあいいや。主役はあくまでレグルスで、俺はちょちょいと助言だけしてやればいい。
「今日はここで夜を過ごしましょう。軽く辺りを見回ってきます」
「いってらっしゃーい」
会ってこうして話してみて、つくづく思う。
ヘンな煽り文入れられるだけあって、レグルスって実に主人公らしい主人公なんだなあ。
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「よしよしシルワ、頑張ったな」
今日も一日世話になったシルワに水を飲ませながら、ぼんやり考える。
俺とレグルス、割と相性良いのかもしれん。
奴はイメージより素朴というか……外見と中身のギャップがすごい。
見るからに『騎士様です』みたいな澄まし顔をしているが、言うほどお堅くなく、反応も年相応。
そう、レグルスって実は年下で! 十九歳ってぇ!
『俺一つ上ー! 兄貴と呼べ』って冗談言ったら鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して固まってたたけど、俺もびっくりしたわ。貫禄ありすぎだろ。
「馬って意外にもっさり……ああごめん! シルワちゃんかわいいねって話だから! 冬毛ってトレンドだよなー」
ああん? みたいな顔をするシルワに愛想笑いを返し、丁寧にブラシをかけてやる。
本当にただ付いて行ってるだけの俺。
せめてこれくらいはと、護衛隊の馬の世話も積極的に手伝う。
草原は草生え放題、草ビュッフェかと思いきや、馬が食べちゃいけない草もあるそうで。
食べる量、草の種類も人が管理しないといけないので、隊長さんと一緒に周辺を見回る。
そのうちレグルスが戻ってきた。とりあえずは安全だって。
「お疲れ」
「──ふ、ユウキ殿も」
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職場だと貴族とか王都育ちが多くて肩身が狭いんだと。
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俺の感覚ではイケメン無罪、大抵何でも許されて女は勝手に寄ってくるし人生楽勝大勝利! だと思っていたんだが……実際はそうではなく、身分や出身の差別が激しいとのこと。
俺も生粋の庶民だが、レグルスも生まれは農民。
それも辺境生まれの木こりの子。
学もなく戦にかり出され、知らんうちに出世して気付いたら騎士になってたとか、とんでもない爆弾発言してた。
忠義の騎士じゃないんかい!
大恩ある王への思いとか敵討ちかと勝手に脳内で話が進んでたわ!
親父に声が似てるとか、母親と性格がそっくりだとか、話を聞く限り家族仲は良さそう。
実は貴族とか王族で~なんていう血統主義的裏設定も無さそうで、俺は困惑した。
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特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
BLゲームの主人公に憑依した弟×悪役令息兄
笹井凩
BL
「BLゲーの主人公に憑依したら、悪役令息の兄が不器用すぎてメロかった」……になる予定の第一話のようなものです。
彼氏に遊ばれまくってきた主人公が性格終わっている男共を粛清してやろうとするのに、情が湧いてなかなか上手くいかない。
そんな中、一番嫌いであったはずの悪役令息、兄の本性を知って愛情が芽生えてしまい——。
となるアレです。性癖。
何より、対人関係に恵まれなかったせいで歪んだ愛情を求め、与えてしまう二人が非常に好きなんですよね。
本当は義理の兄弟とかにしたほうが倫理観からすると良いのでしょうが、本能には抗えませんでした。
今日までの短編公募に間に合わなかったため供養。
プロットはあるので、ご好評でしたら続きも載せたいなと思っております。
性癖の近しい方に刺されば、非常に嬉しいです。
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