NTRゲーに転移したらライバル勇者としかフラグが立たない!

夏野うに

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 愛馬と共に丘の上へ駆け上がったレグルスは、闇と共に迫る魔物の軍を前に槍を構えた。
 時刻は深夜。
 荒寥とした荒れ地である。
 はるか昔、人と魔物の戦争で、この地は草も生えぬほどに焼け焦げたという。
 戦いに勝者はなく、豊かな緑の地も変わり果ててしまった。
 地表を覆うは岩石と砂。
 水源は涸れてしまい、動物たちも姿を消した。
 ひび割れた大地が命を取り戻すには、気の遠くなるような年月がかかる筈であったが、実りも旨みもない土地に、人は再び価値を見出した。
 それは地中に眠る都市の残骸。
 失われし技術で作られた魔道具、古代文字の刻まれた金属版、また用途の分からぬ塊が、その地の産物である。
 住人は照りつける日差しを避けて地下に家を掘り、地下水を汲み上げて生活している。
 彼らは発掘と加工で生計を立てており、食料は全て外から運ばれたもの。
 厳しい環境で、それでも助け合いながら生きてきた者達の命は今、虚しく尽きようとしている。

「……ここで、止める」

 この槍の力は十分承知している。
 あれをもう一度繰り返すのかと、問う声がする。
 当然だ、と己の声が吠えた。
 命をかけても果たすべき役割であり、その為に私は生まれたのだろう。
 この槍をレグルスに授けた彼の為にも、躊躇うべきではない。

「今夜、町への襲撃がある。夜に紛れて魔物が来るんだ」
「でも決して皆に知られちゃいけない」
「パニックになって、そのせいで傷つく人、亡くなる人も出る。悪戯に混乱を呼ぶだけだ」

 だからレグルス、お前一人で止めてもらう──

「大丈夫。必ず成功する」
「わかりました」

 そう言って背を二度叩いた男は、此処にはいない。
 彼には彼の仕事があり、今正に向かっている筈だった。
『探索者組合』なる集団に属するサビナという、やけに馴れ馴れしい女と共に。

「……星よ」

 無意識に力を込めていた手を、空に掲げる。
 槍の刃先が天を指し、例のあの独特な視点に切り替わると、レグルスの意識は目の前の敵に向いた。
 今は些細な事にかかずらっている暇はない。
 あの女とはどういう関係か、初対面で親しげに構う理由、また即座に意気投合し、護衛すら残して二人で何処かへ行ってしまった事も。
 これが終わればすぐに追いかけ、事情を聞き出す程度の些末でしかない。

「落ちろ」

 あの夜と同じだ。
 天から星が落ちてくる。
 だが今日はやけに遅く感じられ、焦る気持ちで刃先がぶれた。
 すると稲妻のような強い光が頭上から幾つも落ちてきて、辺りを真っ白に染め上げた。

「──ッ!」

 戦場に慣れている筈のノクトルが、棒立ちになり激しく嘶く。
 レグルスは腹に力を入れ、振り落とされないようしがみついた。
 馬の感じた恐怖を押し込めるのではなく、解き放つように……一通り辺りを駆け回らせた後、慎重に丘を下る。
 周辺は酷い有様だった。
 荒れ地には大蛇が暴れ回ったかのような亀裂が走り、土は黒く焼け焦げて、なんとも言えぬ不快な匂いを発している。
 当然魔物など跡形も無く消え失せ、さっきまでここに大軍がいた事が、まるで夢のように静まりかえっていた。
 反対に町は俄に騒がしくなり、こちらへ向かう幾つもの影が見える。

「……うむ」

 これはユウキの言う『こっそり』の範囲に収まるだろうか?
『町の人に襲撃を知られないように』は問題ないように思う。
 しかし物音と光、あの地面の痕については不審に思う者もいるだろう。
 思案したレグルスは、そっと岩陰に馬を寄せる。
 役目は終わった。
 念の為遠回りをして帰る事にしよう。





「なにこれぇ!?」

 ドドドーン、ビリビリ、バチバチッパーン! みたいなとんでもない音が聞こえてきて、しゃがみ込んでいたサビナが尻餅をついた。

「え、え、今の何? さっきの光と関係ある? 昼間みたいに明るいアレ」

 俺も一瞬パニクったが、すぐに冷静を取り戻す。
 あの方向、タイミング。
 俺の指示通りだ、間違いない。

「いいから行くぞ、サビナ」
「う、うん」

 いかめしい顔で突っ立っていた門番は、あの光と音に慌てて様子を見に行った。
 今がチャンスだ。目立たないよう身をかがめ、そそくさと建物内に走った俺達は、無事潜入に成功した。

「今更だけどこんなことして良いのー? 私はともかく余所者のあんたじゃ、下手すると牢に入れられちまうよ」
「いざとなれば牢ごとぶっ壊すから大丈夫」
「すっげー!」

 レグルスが、だけどな。
 でも俺が捕まったらあいつ必ず助けてくれるし。
 扉も壁もぶち破る程度の身体能力ですよ、岩牢だって軽い軽い。

「ねえその秘密書類って本当にあんの?」
「あるある、二番目の鍵付き引き出しに入ってる。契約の書だから破れも燃えもしない、一目で裏切り者! って分かる程度の禍々しさよ」
「ほえー」

 現在俺は第二部のメイン舞台、大陸中央にある荒れ地マップで探索中である。
 ここは地中に埋もれた古代都市発掘現場町。
 古代の遺産をチマチマほじくり返し、慎ましく生計を立てている住人と、その利を掠め取るというよりもはや抉れるわくらいの根こそぎピンハネをして、私腹を肥やす悪者が住んでいる。
 ストーリー的には中盤で、流星槍、地鳴剣に続く第三の武器が……?
 と見せかけて実際は罠です残念でしたー迷宮の、上層にある地方官の館。
 こいつがまた最悪のクズで、裏で闇の魔女と繋がってる。
 羽振りの良さを上に疑われ、それを誤魔化す為だけに町ごと滅ぼそうという、ド外道かつ完全なるバカである。
 魔物を引き入れて無事で済むわけがないのにな。
 最後は『何故だぁぁぁ』と喚きながら死んでいき、最後に魔女の印の黒薔薇がぽつんと置かれ、リザルトでは金と経験値のみで『あっそういう流れね~ハイハイ』とちょっとがっかりするタイプのイベント。
 ちなみにここはレグルス通過時は特に何も起きない勇者素通りポイント。
 そのくせしっかりとヤることヤってやがるので、初回プレイ時は思わず乾いた笑いが漏れた。
 制作者の性癖過ぎるだろと、途中まで半目でプレイしてしまった。
 ただヒロインのサビアの生業はシーフ系探索者で、サッパリとした性格。
 レグルスとも『宿にめちゃくちゃイイ男がいたから声かけちゃったぁエヘヘ』程度の軽い関係。
 似たような流れで主人公にも親切(意味深)にしてくれるので、界隈では『陽の○゛ッチ』や『本能ネキ』と呼ばれていた。それもどうなん。
 彼女本人が奔放なのではなく、そもそもこの町の傾向が『そう』なのだ。
 特殊な成り立ちゆえに出入りする人間は多いが、誰でも住める訳ではなく、住人は選別されている。
 だから外部の血を積極的に取り入れているんですねえ。
 また親が子を養うという感覚も希薄で、ある程度成長すれば皆探索者だ稼げ! みたいな大雑把な町なので、何事も自己判断。
 世界観調整の為だろうけど、尖った設定だなあと今更思う次第であります。

「よし、誰もいないようだな」
「はーい。じゃ、鍵あけるよー」

 此処での俺の目的は、まず魔物の襲撃を止めること。
 これはレグルスがやってくれている。
 だが地方官の悪事を突き止め、その座から引きずり下ろすには、ゲームの細かい知識が必要になる。
 なんでって?
 関係あるかどうか分からない変なミニゲーム、いっぱいやらされたからだよ!
 たまにあるだろ、現実に有り得ないくらい凝った作りの洋館とか。アレ。
 ゾンビは出てこないし楽器弾いて壁が動くなんてこともないけどな。
 飾ってある像の位置を変えたり、一つだけ明かりを消すくらいのギミックは仕込まれている。面倒くさっ。
 だから魔物殲滅班レグルスと、館潜入班の俺に別れたワケ。
 ついでにその日の朝奇跡的に町を離れていた事で、襲撃を生き残り後に主人公と出会うサビアを出会い頭に回収、道中の鍵開け要員として確保した。
 事情を知らないレグルスはかなり彼女を警戒していたが、サビアの方は『鍵開けバイトしない?』『おっけー!』で即雇えたので苦労はなかった。ありがとう本能ネキ。

「はい開いた」
「ヤバいな。凄腕じゃん」
「このサビアちゃんに任せなさいって。ほほいっと、潜入成功!」

 腕の良いサビアは町の有名人。
 赤茶のショートヘアーに愛らしく整った顔立ち、引き締まったしなやかな体。
 性格もサッパリしていて話しやすく、俺とレグルスで態度を変えたりもしない。
 俺らを見るなり『どういう関係?』と首を傾げていたが、俺が『友達!』って言ったらすぐに納得してくれた。ええ子や。
 例の地方官とも面識があり、館に入った事がある。
 そしてゲームでは明かされなかったが……なんと口説かれもしたらしい!
 趣味じゃないから断っちゃった! アハハ! なんて笑っていたが、奴の悪事をばらすと『私たちが必死で稼いだ金を盗るんじゃねー!』と憤慨していた。

「人居ないねえ。さっきの音と光のせいかな?」
「正直助かった」

 ありがとうレグルス。
 おかげで潜入の難易度下がりまくり。
 妙に凝ったミニゲームで苦戦した悪夢の記憶に尻込みしていたけど、建物に入ってからは実に順調である。
 地方官の部屋へ侵入した俺達は、無事目当ての書類を手に入れる事が出来た。

「うわっ、本当に気持ち悪い。やだー。触りたくなーい」
「ちょっと待って。確かこの辺に……」

 確か書類を入れる筒がある筈なんだよな。
 俺はその辺にあった豪華な布の端っこで、丸められた契約の書をつまみ上げ、別の引き出しの奥にあった円柱形の金属製のケースに収める。

 バレないようその辺を片付けて、俺とサビアはそそくさとその場を後にした。

「何で別々に入ってたんだ?」
「金庫のつもりだったのかも」
「うん?」
「多分だけど、これってオリハルコンじゃない?」
「そうなの?」
「細工も見事だし、絶対高値付くよ。売ったら幾らになるんだろ」

 街路に出て来た俺達は、路地裏でこっそり手に入れた物の確認をした。
 モヤモヤが不吉なので書類は外には出さないけど、そのケース自体が珍しい物であるらしい。

「どういうこと……?」
「金になるからよ。書類は書類、ケースは別で、ガメるつもりだったとか」
「馬鹿すぎる」

 危険物を封じ込める為の容れ物に惑わされんなよ。
 モヤモヤ、ちょっと出てたからな? 引き出しの奥から常時怪しい気配立ち上ってたからね?

「この町でも出るけど、加工品なんだよね。本物の鉱石は北の山でしか採れないんだって」
「へえ……」

 元は魔女の持ち物だからな、よく分かんねえわ。
 このモヤを封じるための容れ物という認識で、物自体の価値で考えた事無かった。

「これを都に持って行くの?」
「あーそうだったー」

 地方官の悪事を暴き、奴を捕らえて貰うには、この国の王様にもコンタクト取らなきゃいけないのか。
 っていうかそもそもゲームだとそっちの王様と先に知り合ってるから……ええと、まず国境が違ってて……

「誰か偉い人の知り合い居ない? 大人しく頼んだ仕事して、気になっても途中で開けないような真面目な人」
「開けたらどうなる?」
「闇の魔女とお近づきになれるかも」
「んげっ」

 闇の魔女っていう、存在自体は皆知ってるんだよな。
 お伽噺扱いの伝承系だけど。

「そんな危ないもの持ちたくなーい。自分で運べば?」
「俺が行くにしてもさ、コネがないとどうしようもないのよ。顔が広い人……有名人……」

 あ、いるわ。
 レグルスいるじゃん。
 そうだ、あいつ王の騎士だった。
 周囲の反応を見る限り、ゲームが始まる前──あの国が滅びる前から、レグルスの顔と強さは知られていたんじゃないか?
 隣の国との交流が無いわけないし。敵国と戦争だってしていた訳で、反対側のこっちの国とは確か同盟を結んでいた筈。
 ワンチャン顔見知りだったりしないかな。その辺りから話を広げてさ、この件預かって貰えば良くない?
 思い立った俺は早速宿に向かって歩き出した。

「どうしたの?」
「灯台もと暗しってね。身近な人に当たってみるわ」
「ねえユウキ、これで仕事、おしまい?」
「そう……だな。あ、宿に戻ったら報酬やるわ」
「んふふ。ありがと」

 するりと腕を絡めたサビアが、何やら怪しい目つきをしている。
 無意識に後ろへ下がった俺に笑いかけ、彼女は囁くように言った。

「ユウキって、他の人と違うよね。私とっても気になって来ちゃった」
「ソ、ソウデスカー」
「なにかたくなっちゃってるの。ね、私も年頃だし、そろそろお相手を見つけなきゃって──」

 どえええええ!?
 ここここれ、ゲームで見た! 俺見た! 見たもん!

「風変わりで面白いし、ユウキだったら良いかな」
「なななななにを!?」

 サビアのえっちイベント! 本当に出た!
 フラグなんて全然立てた覚えないけど、レグルスと会ってない状況だとこっちにパラメータ振られる? え、どうなんだろ。
 好感度なのか? あれ確定イベント?
 いきなりの展開に対応できない。
 ええサビア? サビアなの?
 俺の──それに、レグルスと寝ていない以上、彼女も初めてだよな?
 いいのかそんな大切なもの、俺にくれちゃって?

「決まってるじゃない。私の」



 最高のタイミングで宿屋に到着した俺は、人だかりの中蹲る金髪の男を見て即ダッシュした。

「レグルスぅぅ! だ、大丈夫か? 何があっ……」

 あっあっあ、と間抜けに跳ねた声。
 額に汗を浮かべ苦しそうに、そして無駄に色気を垂れ流しつつ俺を見上げたレグルスの、縋るような眼差し。

「っあ──そうか、今かぁ……!」
「ユウキ殿」
「っと」

 ふらりと倒れ込んだ偉丈夫を、腹で受け止める。
 俺は群がる周囲の連中を追い払い、サビアとついでに宿屋の店員も呼んで、よいこらせっとレグルスを運んだ。

「なにこの人、具合悪いの?」
「うん、まあ、事情がありまして」

 三人がかりでベッドに寝かせ、店員にチップをやって、困惑顔のサビアに向き直る。
 マジで、本当に、これだけは言いたくなかったんだけど。
 もしかしたらっていう覚悟は、いつでもしてきたんだ俺は。

「サビア」
「な、何?」
「すまん!」

 床に這いつくばった俺に、ぽかんとしている彼女。
 背後で苦しそうな息を継ぐレグルスの存在。
 俺はこの世界を救いたい。
 この先どんな展開が待ち受けていようとも、皆に生き延びて欲しいんだ。

「深い事情があってレグルスはある事をする必要があって……ここで彼を救えるのはサビアしかいないんだ」

 だってこの町、夜のお店がないんだよぉぉ!
 流しで商売やってる、所謂私娼はいるみたいだけど、町と付き合いがないと無理っぽい。
 付き合いどころか俺はさっき地方官の館に侵入して、無断で書類盗んできたんだよ! ノコノコ出て行ったら即逮捕。
 そもそもレグルスの場合処女じゃないといけないし。
 は? 厳しすぎるわそんなん。
 この世界でフリー処女探してヤる難易度エクストラ人生過酷過ぎるだろ!

「ある事って?」
「レグルスと、一夜を共にしてくれないか」
「は?」
「レグルスとセックスしてください!」

 ばっちーん、と耳の横でものすごい音がした。
 よろけた俺は一歩遅れて殴り飛ばされた事に気付き、痛い頬を押さえて顔を上げると、既にサビアは身を翻していた。

「ほんっっと最悪なんだけど! バカにしないでよね!」
「あっ、ああ……」
「ユウキのバカ! サイテー!」

 バタン! と扉が閉まり、部屋には俺達二人が取り残された。
 呆然とそれを見つめていた俺は、遅れて襲ってきた後悔の念に打ち拉がれる。

「ごめん、ごめん……!」

 こんな事、女の子に言うなんて最低だ。
 それも俺に好意を持ってくれたかもしれない相手に、絶対言っちゃいけない言葉だったんだ。
 どんな事情があったって、そんなのサビアには関係ない。
 声かけただけの俺に危険も顧みず付いてきてくれて、本当に良い子だった。
 それなのに俺みたいな最低野郎が傷付けて……
 もう……本当に……
 謝っても謝りきれない……

「あっ」

 大きな手が手首を掴み、引き摺った。
 勢い余ってベッドへ倒れ込むと、息を乱したレグルスが、険しい顔で俺を押さえつけ見下ろしている。

「レグルス……」
「先程の言葉は、どういう……っ」
「レグルス!」

 触れた指先は燃えるようだ。
 対して支えた胸元は冷たい。
 流星槍の代償で、必要な所に力が巡らず、そうでない部位は過剰になり、暴走している。
 作中でも相当苦しんでいた。そうだよ、こいつお気軽ヤリチン野郎じゃないんだよ。
 レグルスは……勇者だ。

「流星槍を使うには、大量の魔力か生命力が必要だ。とても人一人の力じゃ足りないし生み出せない」
「……っ、く」
「だから、他の人からもらう。それにはせ、性行為が、手っ取り早い。それで、ここからが問題なんだけど……」

 俺を見つめる青の瞳が、ゆらりと揺れる。
 正気を留めている事が奇跡だと思う。それぐらい苦しいはず。

「流星槍の性質上、複数の魔力や生命力が混じっていると反発が起きる。それで、つまりだな。お前が助かる為には──んっ」



 唐突になまあたたかいものに口を塞がれた。
 停止した思考が再び働き出すまで、たっぷり十秒はかかったと思う。

「んん!? ん! ん──ぷはッ!」

 アップになったレグルスの顔が一度は離れ、息継ぎをした途端また俺の口に貼り付いた。
 首を振ろうが暴れようが押さえ込まれた体はピクリとも動かず、挙げ句舌まで入ってくる。

「んっ、ぐっ、はあっ」
「はあ、ユウキ殿……」
「ぎゃああああああ!」
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